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1997年、日本一のファッション専門店チェーンの倒産を、社長として見事に再生へと導いた経験を持つワンスアラウンド株式会社の代表取締役、鈴木理善氏。同社は現在、単なるコンサルティングにとどまらず自ら店舗を運営して実践的なノウハウを提供し、自動車業界やエンターテインメント業界から、地方の中小企業にいたるまで幅広い組織改革を支援している。すべてを失った修羅場から「幸せは足元にある」という信念を見出した鈴木氏に、圧倒的な現場力と真のリーダーシップについてうかがった。

「会社再建」から見出した商売の原点と哲学

ーーまずは、起業の原点について教えてください。

鈴木理善:
私がかつて社長を務めていた会社は、1997年に和議(現在の民事再生)手続きを申請し、再建計画が認可されました。負債が減免されるとはいえ、取引先が商品を次々と引き揚げ、お店も減り、社員も辞めていくという凄まじい修羅場を経験しています。債権者集会では怒号が飛び交い、時には威圧的な態度で迫られることもあり、家族にも危険が及ぶかもしれないと警察がマンションを警備してくれるほど厳しい状況に置かれていました。

しかし、そのどん底の中で気づいたことがあります。すべてがなくなった後にも、数少ない店舗とスタッフ、そして商品が残っていたのです。そんな苦境の中、全社員に向けて「サービスNO.1の会社をつくろう」というビジョンを掲げ、愛を持って目の前のお客様に販売したところ、在庫が半分に減っていたにもかかわらず、売上高は1.2倍に伸びたのです。人は恵まれているときほど「隣の芝生」は青く見えがちです。しかし、実は「幸せは足元にある」のだと確信するに至りました。そこで「もう一度足元を見つめ直して回ろう」という想いを込めて「ワンスアラウンド」という社名をつけ、2002年に新たな一歩を踏み出したのです。

ーーその現場での気づきが、現在の事業の核になっているのですか。

鈴木理善:
私は学生時代に八百屋でアルバイトをしていたのですが、朝、少ししおれたほうれん草に水をパッパッとかけると、シャキッと蘇るんです。会社や店も同じです。昨日まで荒れていた売り場も、整理整頓や配置換えという「水パッパ」をするだけで輝きを取り戻し、働くスタッフも適切なケアや言葉掛けによって見違えるように蘇るのです。この「水パッパ」の精神と現場を信じ切る力が、私たちの最大の強みであり差別化要因です。

「教えるだけ」を回避する圧倒的な現場力

ーー貴社のコンサルティングや研修は、他社とどう違うのでしょうか。

鈴木理善:
最大の違いは、教えるだけのコンサルティング専門ではなく、自ら現場を持っている点です。現在、ビームスやニューバランス、ワークマン女子などの店舗をお預かりし、運営をまるごと代行するプロ集団として活動しています。自社で約350人のスタッフを雇用し、日々お店を回しているからこそ、机上の空論ではない「今、現場で起きていること」に即した生きたノウハウをコンサルティング分野でも実例をもって提供できるのです。大手の教育会社とは一線を画し、実学としての「商い(あきない)の心構え」を伝えています。

ーーその現場力は、アパレル以外の業界からも高く評価されているのですか。

鈴木理善:
ありがたいことに、私たちが培ってきた「おもてなし」や「販売力」を支える教育インフラは、現在はアパレル業界のみならず、業種を越えて求められています。たとえば、トヨタグループの関連会社で経営層や幹部社員向けのリーダー研修を行ったり、エンターテインメント業界の現場で新入社員教育を担当したりしています。さらには地方の中小企業まで、あらゆる「接客の場」を再生させています。現場で培った教育インフラや、アルバイトでも改善提案ができる仕組みは、どんな商売にも通じる原理原則だからです。

「適所適材」リーダーが場所をつくる組織論

ーー社員の育成において、経営者やリーダーが果たすべき役割は何だとお考えですか。

鈴木理善:
よく「適材適所」と言われますが、私はそれは間違っていると伝えています。正しくは「適所適材」です。いくら適材がいても、活躍できる場所である「適所」がなければ意味がありません。ですから、まず「適所」をつくるのが経営者やリーダーの最大の役割なのです。弊社では、会社が提供する一律の教育にとどまらず、社員一人ひとりが描く「自らの夢」を尊重し、その実現に向けた学習や挑戦を全力でバックアップする体制を整えています。

たとえば、入社3年で店長を目指し、その先には講師やコンサルタント、あるいは異業種への挑戦などを見据えるプログラムや、自ら手を挙げた社員がドラッカーのマネジメント理論を学ぶ「マネジメント寺子屋」などです。これらを通じて自己実現の舞台をつくり、自ら考え、行動できる自律したリーダーを育てています。

ーー最後に、これからのビジネスにおいて大切にすべきマインドを教えてください。

鈴木理善:
「ギブアンドテイク」ではなく、「ギブアンドギブ」の精神です。お買い上げいただかなくても、見返りを求めずに無償の愛でサービスを提供する。そうやって他者の役に立つことを徹底すれば、結果として巡り巡って自分たちの成長やビジネスの広がりにつながります。私は20年以上、この「ギブアンドギブ」というマインドでやってきて、本当に多くの素晴らしいご縁に恵まれました。これからも、この商いの心構えを次世代に伝承していきたいですね。

編集後記

「人も水パッパで蘇る」。鈴木氏のこの言葉には、現場で泥水もすすってきた経営者ならではの深い愛情とリアリティが込められていた。日本一のファッション専門店チェーンの倒産という絶望的な状況から這い上がり、「幸せは足元にある」という真理にたどり着いた同氏。コンサルティングでありながら自らも店舗を運営し、約350人のスタッフと共に汗を流すその姿勢こそが、自動車業界からエンターテインメント業界、地方の中小企業までをも魅了する圧倒的な現場力の源泉なのだろう。リーダーの役割は「適所をつくること」と言い切る同氏が率いるワンスアラウンドが、今後どれほど多くの企業と人を元気にしていくのか。その飛躍が楽しみでならない。

鈴木理善/1950年、栃木県宇都宮市生まれ。明治大学卒業後、株式会社鈴屋に入社。営業本部長、専務取締役を歴任。1997年の和議申請後、同社代表取締役として再建を推進。2002年に辞任し、同年ワンスアラウンド株式会社を設立。再建で培ったノウハウと経験を活かした実践型ソリューションカンパニーとして、企業再建・ブランド再構築・販売風土改革・店舗開発・販売代行など、多方面にわたるサポートを行っている。