※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

1961年の設立以来、大塚製薬、大塚製薬工場、大鵬薬品工業などを中心に、トータルヘルスケアを推進する大塚グループの物流を担ってきた大塚倉庫株式会社。現在はグループ外の企業とも連携し、社会課題の解決を見据えた物流業界の変革に日々挑んでいる。同社を率いる代表取締役社長の濵長一彦氏は、当時の大卒採用では例のなかった現場配属からキャリアをスタートさせた異色の経歴を持つ人物だ。現場での泥臭い経験から得た物流の本質と、創業家と共に実行した大改革の裏側、そしてトータルヘルスケアを支える物流の未来について、詳しくお話をうかがった。

※「塚」のフォントについて、システム仕様上「游ゴシック」のフォントでの表示になっていますが、正しくは明朝、ゴシックで表記する「塚」となります。

大卒初の現場配属 逆境で学んだ物流の本質

ーーまずは、貴社に入社した経緯について教えていただけますか。

濵長一彦:
私は大塚グループの創業の地である徳島県鳴門市の出身で、生まれた時から大塚の工場を見ながら育ちました。「夕方5時に大塚のサイレンが鳴ったら家に帰れ」と親に言われるような環境でしたから、自然と大塚で働きたいと思うようになっていました。そして1991年に念願叶って大塚倉庫に入社したのですが、配属されたのはまさかの現場でした。

当時、大卒は本社や情報センターに行くのが普通で、大卒での現場配属は私が初めてだったそうです。そのため周囲からは、「成績が良くなかったのか」と冗談まじりに言われることもあり、最初は大きな挫折感を味わいましたね。

ーーそこからどのようにモチベーションを保ったのでしょうか。

濵長一彦:
逆に「いつか這い上がって、絶対に出世してリーダーになってやる」と火がつきました。ただ言われた通りに右から左へ荷物を動かすのが嫌で、「なぜこの指示が来るのか」「この荷物を動かすと、どこからお金がもらえるのか」と、物とお金の流れを常に想像しながら本気で仕事に向き合いました。先輩方からは「そこまで聞くのか」と少し呆れられることもありましたが、約10年間に及ぶ現場経験で本気で学んだ物流の全体像が、今の私の大きな財産になっています。

創業家との大改革 心を入れ替えるパワーを知る

ーーその後、本社へ異動されてからは、現場での経験はどのように活きましたか。

濵長一彦:
現場で「なぜこんな無駄なことをしているのか」と疑問に思っていたことを、本社で企画や営業として改善できるようになり、非常にやりがいがありました。現場を熟知しているからこそ、営業段階から踏み込んだ提案ができ、しっかりと結果を出していくことができました。

その後、2011年に大きな転機がありました。創業家の大塚太郎氏が大塚倉庫の社長に就任し、社内で大改革を行うことになったのです。物流を知らない太郎氏と、物流しか知らない私がくっついて、毎日朝昼晩と食事を共にし、互いの意見をぶつけ合って喧嘩しながら議論を重ねました。私はその改革を一番近くで実行に移していく立場ではありましたが、この経験から非常に大きな気づきを得ました。

ーーその大改革から得た最大の学びは何でしたか。

濵長一彦:
会社を変えるには、人の心をイチから入れ替えるほどの途方もないパワーが必要だと思い知らされました。そして2014年、太郎氏から突然「社長を引き継げ」と言われたのです。自分が社長になるなど全く思っていなかったので驚きましたが、改革をずっと近くで見てきたからこそ、会社が変わらざるを得ないタイミングだと理解していました。その責任の重さを痛感しつつも、覚悟を決めて引き受けました。

社長になって一番重要だと感じるのは、やはり人との関わりです。大塚倉庫という船の船長として、社員一人たりとも下船させることなく、全員で一緒にゴールに到達したいという強い思いで舵を取っています。

グループの枠を超えサプライチェーン全体を変革する

ーー貴社の強みや独自の文化について教えてください。

濵長一彦:
弊社の原点は、大塚グループの物流を担うことにあります。医薬品や飲料、食品のほか、日用雑貨品など、全く異なる商材をいかに効率よく運ぶかという難題を長年突きつけられてきました。その苦労の中で培った、さまざまな商品を組み合わせて扱うノウハウこそが現在の最大の強みであり、社会課題を解決できる力になっています。特に医薬品分野においては多くの知見を持ち、重量ベースでの取り扱いは国内トップクラスです。この圧倒的な基盤があるからこそ、現在はグループの枠を取り払い、他社との共同物流も積極的に進めています。

また、人々の健康に欠かせない商品を運ぶという責任の大きさが、社員の強さを生み出しています。物流という受け身になりがちな業界においても、「決めたことは何があってもやり抜く」という強さ、品質と納期を守るために最後までやり切るDNAが文化として深く根付いているのです。

ーー今後見据えているビジョンについてお話いただけますか。

濵長一彦:
まずは、物流業界の古いイメージを変えていきたいと考えています。現在、メーカー、卸売り、小売りがそれぞれ個別に物流を担うことで、サプライチェーン全体では多くの無駄や個別最適が生じています。今後、商流と物流の壁がなくなりサプライチェーン全体が最適化される根本的な変革のときが間違いなくやってきます。

私たちが目指すのは、データを元にした、最適化されたサプライチェーンの構築です。弊社は「トータルヘルスケア」に特化し、人々の健康に関わる商材を扱っています。命に関わるものを届けているという社会的責任とプライドを持ち、健康を下支えする会社として社会のインフラを担っていくのが、5年後、10年後の目指すべき姿です。

ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。

濵長一彦:
私たちは、ただ物を運ぶだけでなく、社会から「大塚倉庫があってよかった」と言われる存在でありたいと願っています。災害時などの有事にも逃げることなく、社会に役立てる使命感を持っています。物流業界のイメージを変え、「社会課題を解決し、人の役に立つ会社で働きたい」と思ってくれるモチベーションの高い方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。

編集後記

「大塚倉庫という船に乗る全社員をゴールに連れて行く」。濵長氏の言葉からは、社員への深い愛情と、会社を背負う並々ならぬ覚悟が伝わってきた。大卒初の現場配属という逆境から出発し、大改革の荒波を乗り越えてきた同氏だからこそ、物流業界にはびこる構造的課題を俯瞰し、サプライチェーンの変革という本質的な解決策を提示できるのだろう。人々の健康を運ぶインフラとして、同社が今後どのような革新を社会にもたらすのか、その航海の行く末から目が離せない。

濵長一彦/1968年徳島県生まれ。愛知学院大学商学部を卒業後、大塚倉庫株式会社に入社。その後は、経営企画部長、役員待遇営業部長、取締役営業本部長などを経て、2014年6月に同社代表取締役社長へ就任。上智大学や東京理科大学で非常勤講師も務める。好きな言葉は「初志貫徹」。大切にしていることは「出会い」。