※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

大阪大学医学部を卒業後、外科医として移植医療の最前線に立っていた狹間研至氏。「医療は万能ではない」「薬局のあり方を変えれば地域医療の課題を解決できる」という思いから、母が創業した実家の薬局を2004年に継ぎ、ファルメディコ株式会社の代表取締役社長に就任した。業界にロールモデルがない中、「新しい医療環境の創造」という理念を掲げ、待つだけのビジネスから在宅医療へのシフト、タスクシフトによる組織革新まで、前例のない挑戦を続けている。同氏が目指す「まずは薬局へ行く時代」とはどのようなものか、経営の軌跡と未来への展望をうかがった。

不可能を可能にする移植医療の現場で学んだ「常識を疑う」マインド

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

狹間研至:
大阪大学の医学部を卒業し、第一外科で移植医療に携わる機会を頂きました。当時の現場では「不可能を可能にする」という挑戦を目の当たりにし、そのすごさに感銘を受けていました。たとえば、当時は脳死が人の死として認められておらず、臓器移植を実施すれば法的に訴えられかねない時代でした。しかし、諦めるのではなく、法律を変えて新たなルールを作り、社会実装へと結びつけていく過程を30代のころ、間近で経験したのです。「普通なら無理だと諦めるような現状でも、本当にダメなのかと疑い、乗り越えていく」、そのマインドは私の経営スタンスの根底にあります。

その後、医療現場における様々なジレンマを感じる中で、薬局のあり方を変えれば地域医療の課題を解決できるのではないかと考えるようになりました。そして、母が創業した実家の薬局を2004年に継ぎ、キャリアチェンジを決断したのです。

ーー前例の少ないキャリアチェンジに対し、当時の周囲の反響はいかがでしたか。

狹間研至:
周りからはかなり心配されましたし、当時は医師が起業することも、真剣に薬局を経営することも珍しく、エキセントリックだと思われていました。業界にロールモデルとなる人がいなかったため、「自分たちで教科書を書いていくんだ」という覚悟で取り組みました。そこで「新しい医療環境の創造」という理念を掲げ、健全な経営や社員の幸せを追求していくことを会社の軸に据えたのです。

タスクシフトで現場を革新 誰もが活躍できる自律型組織へ

ーー当時の薬局業界の状況と、経営に携わってから最初に着手されたことを教えてください。

狹間研至:
当時の薬局業界は、病院の隣で処方箋を持ってくる患者さんをただ「待つ」だけのビジネスが主流でした。しかし、それでは患者さんにとっても二度手間になり、薬剤師もただ薬を渡すだけの作業になって疲弊してしまいます。

そこで私たちは、こちらから患者さんのもとへ行く「在宅医療(訪問)」へと大きく舵を切りました。当時の業界では非常に珍しい取り組みで、まさにブルーオーシャンでした。施設やご自宅へうかがい、お薬を飲みやすく整理してお渡しすると、看護師や患者さんから「本当にありがとう」と大変感謝されるようになりました。薬剤師にとっても、自分の専門性が喜ばれる実感を得られるようになり、働きがいが大きく向上したのです。

ーー組織づくりや人材育成についてはどのような課題がありましたか。

狹間研至:
在宅医療へのニーズが高まり事業が急成長する一方で、薬剤師の業務量が膨大になり、一時は離職率が跳ね上がってしまった時期がありました。そこで導入したのが「タスクシフト」です。薬剤師が本来の専門業務である「薬が体に入った後の管理」に専念できるよう、薬剤師以外のスタッフ(パートナー)を積極採用し、アシスタント業務を任せる仕組みを構築しました。この取り組みにより、薬学部だけでなく文系出身の学生なども新卒で積極的に採用できるようになり、現場の活性化につながっています。

体調が悪ければ「まずは薬局へ」全国へ広がる「薬局3.0」構想

ーー人材育成や、社員が長く働けるための具体的な取り組みについてお聞かせください。

狹間研至:
現場のトップを目指す「スペシャリスト」、組織をまとめる「マネージャー」、さらには対外的に弊社のノウハウを広める「コンサルタント」といった多様なキャリアパスを用意しています。現在、これらのキャリアパスと人事評価制度を紐付ける取り組みを進めており、自己評価と上長評価をすり合わせながら、社員が納得して長く働ける組織づくりに注力しています。

ーー最後に、貴社の今後の展望についてお話いただけますか。

狹間研至:
現在、私たちが描いているのは「薬局3.0」という構想です。体調が悪くなった際、すぐに病院へ行くのではなく「まずは薬局へ行く時代」を作りたいと考えています。そのためには、門前薬局という従来の形から離脱し、新しい薬局の形を全国に広げていく必要があるのです。

現在、自社の直営店での展開にとどまらず、BtoB(※1)のコンサルティングや、私たちが開発した薬局業務の基幹システムの提供、さらにはM&A(※2)を含めた経営支援などを通じて、このモデルを全国の薬局へ広げていくプロジェクトを進めています。これからの10年は、次世代のリーダーたちに私の生き様やノウハウを背中で見せながら、彼らと一緒にこの新しい医療環境を形にし、事業を承継していく大切な期間だと位置づけています。

(※1)BtoB:「Business to Business」の略。企業間取引のこと。
(※2)M&A:「Mergers and Acquisitions」の略。企業の合併・買収のこと。

編集後記

取材を通じて最も印象的だったのは、狹間氏の「常識を疑い、自ら道を開く」という強烈な熱量だ。現状に甘んじることなく、常に患者や現場のスタッフにとっての「真の利益」を追求し続ける姿勢が、これまでの飛躍的な成長を支えてきたのだろう。「まずは薬局へ行く時代」の実現に向け、次世代のリーダーたちと共にどのような変革をもたらすのか。ファルメディコ株式会社が切り拓く医療の未来に、大きな期待を寄せたい。

狹間研至/1995年大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部附属病院、大阪府立病院、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。2000年大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究および臨床業務に携わる。2004年同修了後、現職。現在は地域医療の現場で医師として診療も行うとともに、数多くの大学薬学部で非常勤講師を務めるなど、薬剤師の教育にも携わっている。