
駐車場システム機器メーカーとして、長年地域の駐車場運営を支えてきた株式会社バンテック。同社代表取締役社長の慶野弘太郎氏は、大手プラントエンジニアリング会社で海外営業や新規事業開発に携わった後、家業の世界へと飛び込んだ。当初は会社を継ぐつもりはなかったという。しかし入社後は、「仕事を面白くしたい」という強い信念のもと、社員が自ら考え、議論を重ねながら貢献の道を見いだす、自律型組織への変革を進めている。大企業で培ったマネジメント力と、中小企業ならではの機動力を掛け合わせながら、さまざまなプレーヤーが存在する業界の中で独自の価値を創造し続ける同氏に、これまでの歩みと今後の展望をうかがった。
大企業で見いだした“仕事の面白さ”と家業承継への決意
ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。
慶野弘太郎:
学生時代はバックパッカーとして世界各地を旅しており、その経験から海外営業を志望しました。新卒で入社した大手プラントエンジニアリング会社の千代田化工建設株式会社では、10年近くにわたって海外営業を担当し、脱炭素関連の新規事業や海外プロジェクトのビジネスマネージャーも務めるなど、さまざまな経験を積みました。前職では上司にも恵まれ、新しいアイデアを出すと「面白そうじゃん、やってみなよ」と背中を押してもらえる環境がありました。そうした中で、私自身も仕事に大きなやりがいや面白さを感じながら取り組んでいました。
ーーそこから、なぜ家業を継ぐことになったのでしょうか。
慶野弘太郎:
実は、当初は家業を継ぐつもりはまったくありませんでした。しかし、コロナ禍を経験したことに加え、創業者である父も高齢になってきたことから、「会社を継いでくれないか」と打診を受けました。前職のさまざまな部署から引き留めていただきましたが、父の思いや自身のキャリアを改めて見つめ直した結果、最終的には継ぐことを前提に入社を決意しました。
仕事を「苦行」から「面白いもの」へ変える組織改革

ーー実際に入社されてみて、どのような印象を受けましたか。
慶野弘太郎:
私自身、前職で仕事の面白さを実感していたこともあり、入社当初は、社員たちの仕事に対する向き合い方や働く環境との間に大きなギャップを感じました。中小企業は大企業のようなしがらみが少ない分、もっと自由に、もっと面白く仕事ができるはずです。それなのに、仕事が「苦行」のようになってしまっているのは、非常にもったいないと感じました。私は、仕事は本来面白いものですし、工夫次第でその価値をいくらでも高められると信じています。
ーーそのために、どのような改革に取り組まれたのですか。
慶野弘太郎:
入社後、私が最も力を入れたのが、社員が主体的に働ける環境づくりです。まず取り組んだのが、情報をしっかり共有し、みんなで議論できる土台をつくることでした。具体的には、ほぼすべての会議で議事録を作成し、全社員がアクセスできる場所に公開しています。その上で、共有された情報をもとに、誰もが議論に参加できる場を整えました。以前は、役職者が社長に報告するだけになっていた会議もありましたが、今では、組織のために誰もが発言し、意見を交わせる場へと変わってきています。さらに、人事評価制度も刷新しました。会社から一方的に目標を与えるのではなく、社員一人ひとりが「自分はどうやってこの会社に貢献したいか」を考え、自ら目標を設定する仕組みに変えています。
こうした「情報の共有」「議論の場」「自ら立てる目標」という仕組みが組み合わさることで、誰かに言われるのを待つのではなく、自ら会社や組織、さらにはお客様や地域社会にどう貢献するかを考え、発信できる、自律的な組織へと変わりつつあります。
ーー働きやすさの面でも変化はありましたか。
慶野弘太郎:
弊社には現在、28の行動原則があります。その第一の原則として掲げているのが、「家族健康優先の原則」です。家族のことや健康に関することは、何よりも優先してくださいと伝えています。そのため、たとえばアルバイトの方がお子様やご家族の体調不良を理由に当日お休みする場合や、社員が有給休暇を取得する際にも、周囲が自然にサポートし合う雰囲気があります。気兼ねなく休みを取れる文化が、社内にしっかり浸透してきたと感じています。実際に、「以前より働きやすくなった」と話す社員も増えており、私自身もその変化に手応えを感じています。
「地域の入り口」としての駐車場と徹底した顧客志向
ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
慶野弘太郎:
弊社は駐車場システム機器メーカーですが、単に機械を販売するだけの会社ではありません。私たちは駐車場を「地域の入り口」として捉え、そこに新たな価値を見いだそうとしています。メーカーでありながら、地主様や地元の不動産会社様と深く関わりながら事業を展開し、駐車場を通じて地域に貢献していくことを目指している点が、弊社の大きな特徴であり、強みだと考えています。
ーー他社との差別化はどのように図っていますか。
慶野弘太郎:
大手メーカーでは、古い機械について一定年数が経つと、「修理不能」として新しい製品への買い替えを勧めることが多いと思います。しかし弊社は、設置から15年、場合によっては20年以上が経過し、24時間365日屋外で稼働しているような機械であっても、できる限りメンテナンスを続け、オーナー様の資産を守る姿勢を大切にしてきました。さらに、メーカーでありながら、設計・製造・販売・保守メンテナンスまでをワンストップで担っているのも弊社の強みです。だからこそ、お客様のご要望にきめ細かく対応し、それぞれの現場や状況に合った提案ができると考えています。
ーー最後に、今後の展望をお話しいただけますか。
慶野弘太郎:
駐車場ビジネスを基盤にしながら、自社開発した監視カメラのシステムなど、地域に安心安全をもたらすプラスアルファの価値を提供していきたいと考えています。そして何より、社員が「この会社に入ってよかった」と思え、お客様が「この会社と付き合ってよかった」と喜んでいただけるような、誠実で面白い会社をつくり上げていきたいですね。
編集後記
大企業での経験を経て、家業の改革に挑む慶野氏。その根底にあるのは、「仕事は本来面白いものだ」という揺るぎない信念だ。徹底した情報共有と自律を促す評価制度、そして「家族健康優先」を体現する働きやすい環境づくりは、中小企業の組織づくりを考えるうえでも示唆に富んでいる。古い機械でも長く使えるようメンテナンスを続ける顧客への誠実な姿勢と、駐車場を「地域の入り口」と捉える独自の視点。社員が生き生きと働き、地域社会に貢献し続ける同社のこれからに注目したい。

慶野弘太郎/1987年東京生まれ。早稲田大学文化構想学部卒(在学中に上海外国語大学留学)。早稲田大学ビジネススクール(MBA)修了。卒業後、千代田化工建設株式会社に入社し、海外営業、新規事業開発、事業投資、プロジェクトのビジネスマネージャーを経験。2021年、株式会社バンテックに入社。組織改革と提供価値の再定義を推進し、キャッシュレス決済、地図アプリ満空連携、監視カメラ開発、導入先の多角化(法人・個人・公共)等を行う。2023年、同社代表取締役に就任。