
幼い頃から家業を継ぐものと教え込まれて育ち、入社翌年には早くも代表取締役の座に就いた長谷川雅雄氏。同氏が直面したのは、長らく「現状維持」が続いていた組織だった。そこから積極的な設備投資と社員の待遇改善を推し進め、会社を新たなステージへと導いている。同社は、同規模の企業の中で業界屈指の設備を誇り、お客様の要望を決して断らない姿勢で成長を続けている。「世襲にこだわらず、誰がいても回る会社にしたい」と語る長谷川氏に、独自の生存戦略と組織づくりの本質をうかがった。
対話で変える組織風土 家業を継いだ社長が求める仕事の誇り
ーー家業に入られた経緯を教えてください。
長谷川雅雄:
私は幼い頃から、家業を継ぐものだと思って育ちました。父親が早くに亡くなり、祖父が社長を務めていたこともあり、周りからもそう言われていたのです。大学卒業後はすぐには入社せず、弊社の取引先でもあった同業他社に就職し、2年間営業として勤務しました。
修行先に選んだのは、経営層から従業員までが給与所得者で構成される、いわゆる「サラリーマンの会社」でした。将来、オーナー企業である弊社を継ぐ前に、あえて異なる組織体系や企業文化をあらかじめ見ておくべきだという考えがあったためです。全く違う企業体質や成り立ちを経験できたことは、今でも大きな学びとなっています。その後、当時の社長が退任するタイミングで家業に戻り、入社した翌年には代表取締役を任されることになりました。
ーー組織風土を変えるためにどのようなことを心がけましたか。
長谷川雅雄:
人と人とのコミュニケーションを何よりも重んじました。社員には、不満でも提案でもいいから、とにかく思っていることを声に出して言うように伝えました。そして、管理職には「聞いた声に対して必ず回答をするように」と徹底させています。すぐに対処できない場合は、「いつまでにするのか」「なぜできないのか」を明確に説明することで、お互いの納得感を生み出しています。
ーー社員の方々にはどのようなマインドを持って働いてほしいとお考えですか。
長谷川雅雄:
仕事というのは、誰かの代わりに人の嫌がることをして価値を生み出すことです。だからこそ、「今自分がやっている仕事が誰のためになっているのか」を常に意識してほしいと伝えています。また、「他人と比べることはやめてほしい」とよく言います。比べて落ち込んだり文句を言ったりして手が止まるくらいなら、自分の得意なことを活かして、誇りを持って仕事に取り組んでほしいですね。
業界屈指の設備と断らない営業スタイル

ーー貴社の事業の強みはどのような点にあるのでしょうか。
長谷川雅雄:
弊社は段ボールおよび紙の包装資材の製造を軸にしています。お客様からのご相談や依頼は基本的に断りません。同規模の企業様の中でも業界屈指の設備が整っており、企画・設計の段階から自社内で完結できるため、お客様の要望の具現化や納期短縮を実現しています。直接お客様と取引をし、顔の見える関係性を築けていることが長年選ばれ続けている理由だと思います。
ーー営業活動において工夫されていることはありますか。
長谷川雅雄:
ホームページからの問い合わせ対応だけでなく、飛び込み営業も行っています。現在は何でも自動化される時代ですが、あえて完全にシステム化せず、人がアナログで対応する余地を残しています。そうすることで、他社で「できない」と断られたり、自動化されたところで取りこぼされたりしたお客様の細かいニーズを確実に掴むことができるのです。その結果現在、取引先は機械部品関係、電気関係、化粧品関係など、幅広い業界に広がっています。
世襲にこだわらず自律的に回る「大阪No.1」の組織へ
ーー今後の会社のビジョンについてお聞かせください。
長谷川雅雄:
2、3年ほど前に「10年後に売上高20億円を目指そう」という目標を掲げました。これは単に数字としての規模を追うことだけが目的ではありません。大手企業との価格競争に巻き込まれるのではなく、AIには代替できない「人にしかできない仕事」を磨き、独自の付加価値を追求することで、何らかの領域において「大阪No.1」と言い切れるだけの自力を高めていきたいと考えています。弊社で働く人たちがちゃんと幸せに生活でき、社員とその家族からも「美倍紙業で働きたい」と言ってもらえるような会社にすることが理想です。
ーー目標に向けてどのような組織づくりを目指していますか。
長谷川雅雄:
オーナー会社特有の社風から脱却し、「誰がいても回る会社」にしていきたいですね。私自身は世襲で継ぎましたが、自分の子どもに無理に継がせるつもりはなく、今後は世襲にはこだわりません。一人ひとりが自律的に考え、リーダーシップを発揮できる組織になれば、結果的にお客様への提供価値も高まり、会社全体が強くなっていくはずです。
編集後記
若くして会社の舵取りを任された長谷川氏。長年染み付いた「現状維持」の空気を打破するため、積極的な設備投資と社員の待遇改善を推進した決断力には目を見張るものがある。あえてアナログな対応を残して顧客の要望に徹底的に応える泥臭さと、世襲にこだわらず自律的な組織を目指す客観的な視点。そのバランス感覚こそが、同社を次なる飛躍へと導く原動力なのだろう。「大阪No.1」を目指す同社の今後の展開から目が離せない。

長谷川雅雄/1985年大阪府生まれ。2008年神戸大学経済学部卒業後、2年間の修業期間を経て、2010年、美倍紙業株式会社へ入社。2011年、同社代表取締役就任。