※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

梱包以外にも緩衝材や収納など生活する上で何かと重宝される「段ボール」。紙業大手のダイナパック株式会社は、日本のあらゆる業界に顧客を持つ盤石な地盤を持っている。

しかし、代表取締役社長の齊藤光次氏は、成長を止めないために日本だけでなく世界にも目を向ける必要があると語る。そのための手段としてM&Aも選択肢に入る。

ダイナパックにとっての国内市場と世界市場の役割とは何か。これからの時代に生き残っていくための戦略について齊藤社長にうかがった。

海外事業での活躍を経て社長に就任

ーー社長就任までの経歴を教えてください。

齊藤光次:
私の経歴は、財務省及び金融庁の前身である大蔵省から始まります。大蔵省には30歳まで勤めていましたが、研修で派遣された英会話スクールでの民間企業人との交流をきっかけにビジネスへの関心を高め、かねてより誘いのあった妻の父が社長を務めるダイナパックの前身である日本ハイバック株式会社に転職することを決めました。

日本ハイパック時代には「パルプモールド」という、古紙を主原料として製造する成型品の事業の立ち上げに注力しました。ほかの従業員たちと比べると段ボールの経験に差があったので、経験に左右されない新規事業で勝負しようと考えたのです。

パルプモールド事業は海外展開するまでに発展し、私は初代の海外事業部長に抜擢され、中国、香港、アジア各国に事業を展開して来ました。その後2004年に日本ハイパックの社長に就任し、2005年に大日本紙業株式会社と合併したタイミングでダイナパックの副社長に就任。2022年にダイナパックの社長に就任しました。

ーー海外事業で特に苦労した出来事は何ですか?

齊藤光次:
タイに工場をつくった直後に起こった1997年の「アジア通貨危機」です。マレーシア、香港に次ぎ、満を持して最大規模の投資をタイに行いましたが、工場が稼働してわずか1週間後にアジア通貨危機が起こりました。

この出来事によりタイの通貨は暴落し、ドル建ての借入金が膨らみました。さらに通貨防衛策から金利は高騰し、景気はすっかり冷え込むとともに重い金利払いが追い討ちをかけました。

結果、タイからの撤退を余儀なくされ、私は責任をとって副社長から専務に降格しました。海外事業の難しさを知った苦い思い出です。

紙業界における存在感維持のために生まれた「ダイナパック」

ーー日本ハイパックと大日本紙業が合併してダイナパックが生まれた背景を教えてください。

齊藤光次:
2005年に両社が合併した理由は、存在感を維持するためです。両社とも紙業界で営業利益率1位を争う優良企業でしたが、やがて訪れるであろう業界再編成の波への危機感を共有していました。

段ボールの原料を取り扱う板紙業界は中小の廃業、大手製紙会社による吸収により、先んじて業界再編成が進みました。力をつけた板紙業界は、やがて板紙を加工する段ボール会社にも食指を伸ばしてくると我々は警戒心を高めました。段ボール会社としての存在感を維持し、独立性を保つ為に合併という道を選びました。

ーー貴社のならではの強みは何でしょうか。

齊藤光次:
弊社は国内のあらゆる産業に顧客を抱え、その数は3750にも上ります。国内に安定した経営基盤があることで、海外事業にも力を入れられます。

先に海外に進出した顧客から誘致される場合もありますし、逆に我々が先んじて進出した国に顧客が後から来る場合は段ボール販売だけではなく、進出のサポートをして関係を強固にします。

海外市場は拡大の余地も大きいので、さまざまな商品やサービスを切り口として積極的な市場拡大を狙っていきたいと考えています。

ーーM&Aに対する考えをお聞かせください。

齊藤光次:
M&Aは経営資源を増やすために有用な方法だと考えます。ビジネスのスピードが速い現代において、事業をゼロから立ち上げなくていいことは大きなアドバンテージです。

日本における段ボール需要は落ち着きつつあり、今後市場が縮小することも考えられます。そんな中で生き残っていくためには、M&Aを選択肢に入れた事業の多角化や競争力の向上などが求められるでしょう。

また、M&Aは工場や設備の効率化にも有効です。例としては、近隣の中規模工場をまとめて高効率な工場に置き換えることが考えられます。

これからの時代に活躍するための4つのキーワード

ーー今後の展望を教えてください。

齊藤光次:
今後特に意識したいのが、リージョナル(地域密着)、サステナビリティ、デジタル、グローバルという4つのキーワードです。

まずリージョナルですが、段ボールは地域密着型の業種なので、地域でどれだけ優良顧客を見つけられるかが勝負となります。

サステナビリティは、企業としての社会的責務だと考えています。また、サステナビリティを追及することで見えてくるビジネスもあるでしょう。

デジタルの分野では、商品の良さを伝えるコミュニケーションツールとして段ボールに素早くきれいに印刷できるデジタル印刷を新規顧客の開拓に活用したいと考えています。デジタルを活用した機械の無人運転も検討中です。

最後にグローバルですが、海外事業は弊社の成長エンジンのような存在です。紙業界の中で生き残っていくために、国内外問わず多角的な方法で事業の推進を目指します。

編集後記

日本市場の需要縮小はもはや未来の話ではない。齊藤社長は目の前に迫った課題に一つひとつ着実に、そして現実的に対処しているように感じた。日本市場と世界市場の差を理解し、それぞれで最善を尽くす。その堅実さこそがダイナパックの武器であり、そして世界へ羽ばたくための地盤なのだろう。

齊藤光次/1958年愛知県生まれ。1980年に南山大学経営学部卒業。1988年、日本ハイパック株式会社(現ダイナパック株式会社)に入社。国内事業の発展に加え、マレーシア、香港・深圳、ベトナムなど海外事業の立上げに尽力。2022年、代表取締役社長に就任。