※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

祖父母が起業家という環境で育ち、「人と違うことをやりなさい」という教えのもとIT業界でキャリアを重ねた的場令紋氏。大手システム会社でのトップセールス経験やスタートアップの立ち上げなど、ビジネスの最前線を走ってきた。彼が次なる挑戦の舞台に選んだのは、「司法」という未開拓の領域だ。株式会社wakaiは司法の情報格差をなくし、誰もが迅速に問題を解決できる「スマホ調停」を展開している。なぜIT業界から司法の課題に挑むことになったのか。その背景にある原体験と、未来の展望に迫る。

自身の離婚調停で痛感した司法制度の構造的課題と情報格差

ーー貴社を立ち上げ、「スマホ調停」を構想されたきっかけについてお聞かせください。

的場令紋:
私自身が2024年に離婚調停を経験したことが最大のきっかけです。実際に当事者となり、時間も費用もかかる現状に直面しました。何より痛感したのは、司法制度の構造的課題と情報格差です。離婚や相続は人生で何度も経験することではないため、一般の人には仕組みや手順が全くわかりません。一方で、一部の専門家だけがその仕組みを知っているという情報の非対称性がありました。この課題をITの力で解決し、誰もが利用できるオンラインの仕組みをつくろうと考えたのが原点です。

ーー実際の調停では、どのような部分に課題を感じられましたか。

的場令紋:
家庭裁判所での打ち合わせが1〜2カ月に1回しか設定されない点です。必要な書類を数日で提出しても、次の対応までひたすら待たねばならず、この待機時間は大きな損失になります。さらに裁判官不足という根本的な問題もあり、国民の約2割しか司法制度を利用できていない現状があります。時間的な負担だけでなく、専門家に依頼する心理的・費用的なハードルも極めて高い状態です。この手間のかかる手続きを民間企業のスマートフォン上のサービスで完結できれば、早く安く提供できると考えました。弊社のサービスを利用すれば1カ月の間に複数回の調整が可能になります。郵送などの手間もなくなるため、和解に至るまでの期間を大幅に短縮できます。

30年続ける空手で培った「為せば成る」の精神と思いを共にする組織づくり

ーー未開拓領域への挑戦には困難も多いと思いますが、信念のようなものはあるのでしょうか。

的場令紋:
私には中学時代から30年続けている空手から学んだ、「為せば成る」の精神と行動力があります。できないのは、本気でやろうと心から思っていないからです。空手もビジネスも同じで、しっかりと準備し、実践を繰り返せば必ず結果は出ます。新しい法律の枠組みの中で、関係省庁や専門機関と適切に連携しながら制度を変えていく必要があります。そのためには、この「為せば成る」という強い意志と行動力が不可欠です。

ーー新しい挑戦を進めるにあたり、どのような方々と一緒に働きたいとお考えですか。

的場令紋:
受け身ではなく、自らの体験や思いを原動力に、積極的に動ける方です。弊社のサービスに強く共感して集まる社員は、何らかの当事者意識を持っています。たとえば両親の離婚により、片方の親に会えなくなった経験を持つ方などです。弊社では、そういった当事者意識と社会貢献を重んじる組織づくりに注力しており、顧客対応部門ではシングルマザーの積極採用などを行っています。同じ境遇で悩むお客様に深く寄り添い、強い思いを持って対応できるためです。皆高い意欲で事業に貢献してくれています。

あらゆるトラブルをスマホで解決する次世代の「総合紛争解決プラットフォーム」へ

ーー今後は、どのような社会課題の解決を目指していくのでしょうか。

的場令紋:
現在は離婚調停が中心ですが、今後は新たに始まる「共同親権制度」への対応や、現在23%にとどまっている「養育費の受け取り率」を向上させる仕組みづくりにも取り組む方針です。特に、書面を作成しないまま離婚し、養育費を受け取れずに貧困に陥る家庭の問題は深刻であり、こうした社会課題の解決に直結する機能拡充は急務と言えます。

もちろん、直接顔を合わせて話し合うのは「心理的ハードルが高い」という方でも大丈夫です。スマートフォン上であれば感情的にならず、円滑に合意書を作成できます。私たちはこうした新しい選択肢を提示することで、子どもたちが苦しまない社会を必ず実現したいと考えています。

ーー最後に、貴社の未来の展望についてお話しいただけますか。

的場令紋:
長期的には、離婚問題にとどまらず、相続、少額債権、賃金の未払い問題などに対応したいと考えています。会社としても、人とお金にまつわるあらゆる人間関係のトラブルを包括的に解決できる基盤を目指しており、3年後には企業としてのスタイルも大きく変容しているでしょう。一部の人しかアクセスできなかった司法の壁を取り払い、誰もがスマホ一つで迅速かつ平和的に問題を解決できる未来の実現を目指します。

編集後記

IT業界で培った知見と自身の痛切な原体験を掛け合わせ、司法という伝統的な領域に風穴を開ける的場氏。彼の根底には、30年続ける空手で鍛え上げられた「なせばなる」という揺るぎない信念と、社会課題を本気で解決しようとする強い使命感がある。彼が描く、あらゆるトラブルをスマホで解決できる「総合紛争解決プラットフォーム」が社会に定着したとき、日本の司法はより身近で、人々に寄り添うものへと進化しているに違いない。

的場令紋/株式会社wakai 代表取締役 執行役員・CEO。法政大学経営学部卒。2002年4月、株式会社オービックビジネスコンサルタント入社。2012年4月、日鉄ソリューションズ株式会社入社。2020年7月、株式会社INFORICH入社。IT業界において営業・事業開発領域で実績を積む。2024年11月、株式会社wakai(旧株式会社DDR)を創業。自身の離婚調停の経験を契機に、オンライン紛争解決(ODR)領域に参入し、スマートフォン上で申立から合意形成までを完結させる「スマホ調停」を展開。司法アクセスの民主化を掲げ、人とお金に関わるあらゆるトラブルを迅速かつ平和的に解決する社会インフラの構築を目指す。