累計220万ダウンロードされているファッションアプリ「XZ(クローゼット)」を運営する、株式会社STANDING OVATION。このアプリでは、クローゼットの中にある服からAIスタイリストが1週間のコーディネートを提案してくれる。クローゼットの中身を可視化できるアプリをつくった理由や、自社のサービスを通じて実現したい目標などを、代表取締役CEOの荻田芳宏氏にうかがった。
活用・シェア・リユースで衣服を循環
ーー貴社が提供しているアプリ「XZ(クローゼット)」について教えてください。
荻田芳宏:
「持ち歩けるクローゼット」をコンセプトに、自宅のタンス在庫を起点とした循環型のファッション体験を提供しています。ユーザーが所有している服をアプリ上でデータ化し、AIがコーディネートを提案するのが主な特徴です。
服の登録は写真を撮って追加するほか、ECサイトとIDを連携すると購入履歴がデータに自動反映されます。「クローゼット診断」では、着用回数や持っている服の色を分析し、ユーザーの傾向をチェックできます。
このアプリをつくったのは、購入後の服を活用するサービスの必要性を感じたからです。ファッション業界では、在庫の大量廃棄による環境汚染が問題視されています。そこで、服の着回し方を提案するサービスがあれば、タンスの肥やしを有効活用でき、製品寿命を伸ばし廃棄を抑止できると考えました。
それでも不要な場合は、買取リユース企業と連携して買い取り、必要とする別の方へ受け渡すことで再利用できます。つまり、社会全体を1つのクローゼットと捉え、シェアした服が適材適所に届くサステナブルな循環の仕組みをつくるのが目的です。
さらに新たな服の組み合わせが増えることで、「このコーディネートに合うアイテムがほしい」といったニーズが生まれます。そのため、ユーザーがすでに購入した服を活用するだけでなく、新品商品の購買意欲の向上にもつながります。
ーーこのサービスはどこから着想を得たのですか。
荻田芳宏:
映画『プラダを着た悪魔』のように、ファッションを通じてユーザーをエンパワーメントするサービスを提供したいと思いました。コーディネートを提案することで自分の新たな魅力に気づいてもらい、トキメキを感じていただけたら嬉しいですね。
自ら主体となり発信する事業を生み出す楽しさに気づき、起業を決意
ーー学生時代のエピソードやこれまでのキャリアについて教えてください。
荻田芳宏:
大学時代はテニスのインストラクターとして、生徒のレベルに合わせてレッスン内容を工夫することに面白さを感じていました。その経験から、クライアントのニーズに合わせてオーダーメイドで企画立案する仕事がしたいと思い、広告代理店へ入社。
ただ、次第に広告主の商品やサービスではなく、自分たちが主体で発信するサービスで挑戦したいという想いが芽生えてきました。そこで広告代理店を辞め、ネットベンチャーの起業に関わり、新規事業の立ち上げに携わったのです。
ーーそこからご自身で起業を決意したきっかけは何でしたか。
荻田芳宏:
ゼロから1を生み出す楽しさを、もう一度味わいたいと思ったことです。前職で役員に就任してからは、マネジメントがメインになりました。立ち上げから組織の成長フェーズに関われたことは、とても価値のある経験です。
しかし、組織が大きくなるにつれ、自分で事業・サービスに関して判断できる範囲が狭くなり、次第に窮屈さを感じるようになりました。それから自らオーナーシップを発揮してサービスをつくり、事業をマネジメントしたいという思いが強くなっていき、起業に至ったのです。
必要な服だけを買い足すサステナブルな買い物体験を提供
ーーアプリ以外のサービスについて教えてください。
荻田芳宏:
企業向けに「XZ-biz(クローゼットビズ)」というサービスを提供しています。これはECサイト内の商品とXZユーザーの服データを組み合わせ、コーディネートを提案するものです。コーディネートのシミュレーション画像を表示し、着用した際のイメージが湧くようにしています。
今後の展開として、持ち歩けるクローゼットを起点に、オンライン(EC)とオフライン(店舗)の両方で有効活用できるOMOの実現を見据えています。たとえば、クローゼット内の服の一覧の中から自分に合う商品を店員さんに接客・提案してもらったり、AIのコーディネート提案を参考に実店舗で試着したりするなどの使い方ができます。
持っている服を活かすコーディネートをもとに購入する服を選べば、ユーザーにとっては無駄な買い物の防止になり、ブランド店舗にとっては購入率向上に、さらにパーソナライズ提案により、在庫の削減にもつながります。
ーー荻田社長が大切にしている考えは何ですか。
荻田芳宏:
私はビジョンを重視するタイプなので、自分の信念に沿って事業経営に取り組んでいます。他者への想いを巡らせ、ユーザーのニーズを理解し、取引先の課題の解消につながるサービスを提供したいと考えています。
ブランドの垣根を越えて自在なコーディネートを
ーー今後の展望を聞かせてください。
荻田芳宏:
ユーザーの自身の全身画像を表示させ、持っている服と気になる商品を着用した際のイメージができる、生成AIによる「バーチャル試着機能」の研究開発もスタートしました。また、サービスを拡充させ、ブランドの垣根を越えてクロス・ブランド服の循環を促進する仕組みを強化したいと考えています。
弊社はユーザーの服のデータや購入履歴などを蓄積しています。これを「Aブランドの服を持っている方はBの商品を買う傾向がある」など、ユーザーの傾向分析に活用する予定です。
この保有する独自データの強みを活かし、ブランドを横断したMIXコーディネートの提案をしたいと考えています。そして中期的には、弊社のサービスだけで服の購入から有効活用、再利用までワンストップで完結できる「サーキュラー・エコノミー」の仕組みを構築するのが目標です。
購入後は着回しで活用し、足りない必要なアイテムだけを追加で購入して、使わない服はリユースに回す。こうしたサステナブルな循環型ファッションの実現を目指していきます。
編集後記
毎日着る服を考える手間や無駄買いを防ぎ、適切な新品服の購入促進につながるだけでなく、環境にも配慮した同社のサービス。服を提供する側、ユーザー双方にとってまさにWin-Winなサービスだ。社会全体で衣服が循環する仕組みづくりに貢献する株式会社STANDING OVATIONは、ファッション業界に新たな風を吹き込むことだろう。
荻田芳宏/早稲田大学卒業後、博報堂に入社。プロモーション・イベント企画、広告のキャスティング・音楽タイアップを担当。スタートアップの立ち上げに参画後、モバイルコンテンツPM、ブランド戦略部長を経て、取締役COOに就任。女性向けサービス、スマホアプリ事業・ソーシャルゲーム事業を立ち上げ売上30億円、150名組織にまで成長を牽引。2014年にSTANDING OVATIONを創業。2020年、ファッション・ビューティーのライフスタイルWebマガジン(記事メディア)「lamire(ラミレ)」(旧XZ-days(クローゼットデイズ)を300万ユーザーまで急成長させ約1億円で事業譲渡。