※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

1973年の創業以来、日本の人材派遣業界を牽引し、多くの人々の「はたらく」を支え続けてきたパーソルテンプスタッフ株式会社。デジタル化と労働人口減少という環境変化のなか、同社は「脱・派遣」というスローガンを掲げ、顧客の課題を解決する人材総合サービス企業への進化を図っている。学生時代のアルバイトから歩みを始め、新規事業の立ち上げや子会社社長を歴任してトップに就任した代表取締役社長の木村和成氏。現場での経験と、常に「人」に寄り添い続けてきた同氏に、組織の現在地と未来の展望をうかがった。

独立志向の若者が「はたらく」を支える仕事に魅了されるまで

ーーまずは、貴社へ入社された経緯から教えていただけますか。

木村和成:
学生時代、当社の前身であるテンプスタッフ株式会社でアルバイトをしていました。当時の私は、親族に自営業者や職人が多かったこともあり、会社員として働くイメージを持っておらず、常に「将来は独立したい」と考えていました。そのため、「まずは3年ほど企業で修業し、その後に自分で事業を立ち上げよう」と考え、就職活動の際も面接で「3年で辞めて独立してもよろしいでしょうか」と率直に伝えていました。

ーー独立を前提としながらも、人材業界を選ばれたのはなぜでしょうか。

木村和成:
具体的にどのような事業を行いたいかが定まっていなかったため、まずは世の中の仕組みやビジネスの構造を広く学びたいと考えたのが発端です。人材業界は規模や業種を問わず、多様な企業と関わります。ここであらゆる業種のビジネス事情に触れれば、社会構造が理解できると考えました。さらに、アルバイト時代に関わった社員の存在も大きな決め手となりました。求職者や企業のために奔走する姿を目の当たりにして、「この人たちと一緒に仕事をしたら、素晴らしい経験ができるはずだ」と純粋に思えたのです。

ーー現在に至るまで、貴社でキャリアを築き続けることになった理由を教えてください。

木村和成:
背景には、大きく3つの要素があります。

1つ目は、若手にも積極的に裁量を与えてもらえる環境があることです。新しい提案に対しても「やってみればいい」と背中を押される、非常に可能性に満ちた組織です。

2つ目は、人材業界が持つ圧倒的な社会性に気づいたことです。求職者の方に仕事を紹介することは、その方の人生に直結します。業務を通じて感謝の言葉をいただくうちに、社会貢献度の高い業界だと強く惹きつけられました。

3つ目は、入社4年目という早い段階で課長職に抜擢され、マネジメントを経験できたことです。チームを持ち、権限と責任を与えられたことで仕事の醍醐味を実感し、気づけば辞める理由がなくなっていたのです。

逆風の環境で学んだ現場再建と組織を動かす力

ーーその後は、どのようなキャリアを歩まれましたか。

木村和成:
入社11年目で部長職に就き、その後は当社の人材紹介事業の立ち上げをゼロから推進する責任者を務めました。さらに、軽作業や製造ラインの業務を専門とする派遣会社へ異動するなど、多様な領域の最前線で現場の課題と向き合い続けました。そうした経験のなかで現在の経営に最も生きているのは、2015年に出向したパナソニックの100%子会社での経験です。当社が3分の2を出資して合弁会社化する形となり、私は代表取締役副社長として赴任し、のちに社長として計5年間務めました。

歴史ある大手メーカーのグループ企業であり、500〜600名規模の社員が在籍していたため、マネジメントとして関わる人数の桁や決済金額の規模がそれまでの経験とは全く異なりました。この規模の違う事業運営のなかで得た知見や、物事を進めるための段取りの重要性を学んだことは、現在の私の経営判断において非常に大きな財産となっています。

ーー大手メーカーの子会社への赴任では、どのようなご苦労や困難がありましたか。

木村和成:
赴任当初は企業文化の違いによる戸惑いの連続で、私の開拓者精神はすぐには受け入れてもらえませんでした。元から在籍している社員からすれば、私は新しい親会社から来た「異物」でしかなく、最初の半年間は完全に孤立した環境でした。

この状況を打開するため、私は徹底して現場を回ることにしました。全国各地の拠点を訪ね、現場の派遣スタッフを支えるメンバーや管理職と対話を重ねることで、会社が抱える課題を整理していったのです。合弁会社化した以上、自社単独で生き残るための基盤を築かなければなりません。私は裏方に徹して現場の要望を吸い上げ、改善を重ねることで信頼関係を構築し、その後有志を集めて専門のプロジェクトチームを立ち上げました。収益性の改善を図り、新サービスの開発を推進し、実績を積むことで少しずつ周囲に認められていきました。

また、当社の社長就任直後の2021年はコロナ禍であり、派遣スタッフの仕事が急減する危機に見舞われました。その際も、我々社員が出社して自治体などのワクチン関連業務や給付金関連業務をいち早く獲得し、派遣スタッフの皆様の雇用を守ることに全力を尽くしました。こうした現場を這いずり回るような実践の数々が、今の私の経営の礎となっています。

伴走支援とファンづくり、AI時代にも揺るがない人の介在価値

ーー改めて、貴社の事業概要と強みについてお聞かせください。

木村和成:
事務系職種を中心とした人材派遣事業と人材紹介事業です。近年は、顧客企業の業務プロセスを丸ごとお預かりして成果をお返しするBPO(※1)事業にも注力しています。当社の最大の強みは、はたらく方一人ひとりに対するきめ細かい「伴走支援」の体制だと自負しています。就業された方が新しい職場で良い状態ではたらき続けられるかを全力で支えます。仕事上の悩みや将来への不安をお聞きして、日々の不満や課題を解消するよう伴走し、精神面でのケアも提供し続けることこそが、他社には真似できない私たちの最大の価値です。

(※1)BPO:Business Process Outsourcingの略。企業の業務プロセスの一部を、継続的に外部の専門業者に委託すること。

ーーそうしたきめ細かい伴走支援を通じて、最終的にどのような状態を目指しているのでしょうか。

木村和成:
はたらく方々から選ばれ続ける、「ファンづくり」です。人を扱う事業である以上、はたらく方々に選ばれなければ事業は成り立ちません。就業された方に「テンプスタッフを通じてはたらいて本当によかった」と実感していただき、その評価がご友人などへと伝播していく。あるいは一度仕事から離れた方でも、再び復帰する際には「まずはテンプスタッフに相談しよう」と思っていただける。このように担当者や会社のファンを増やし、人が自然と集まる循環を作っていくことは、創業以来変わらない強い思いです。

ーーAIの進化により、事務職の仕事が代替されていくという懸念についてはどのようにお考えですか。

木村和成:
大量の定型業務や身体的負担の大きい仕事は、今後さらにデジタル技術やAIに置き換わっていくと考えています。しかし、顧客との複雑な利害調整や交渉、高度な意思決定、相手の感情に寄り添う接客など、人でなければできない領域は確実に残ります。新たな技術が生まれればその技術を活用するための新たな仕事が創出されるため、時代の変化に合わせて私たち自身が提供する価値を変化させ適応していくのみです。

ーー新たな技術への適応という点において、貴社からはたらく方々に向けたアプローチなどはあるのでしょうか。

木村和成:
現在、日本マイクロソフトのデジタル人材育成プログラム「Code; Without Barriers in Japan」に参画し、登録スタッフの方々に生成AIツールを実践に即した環境で体験し学習できる機会を無料で提供しています。今後のキャリアのご相談をいただくなかで、「この新しい技術を身につければ仕事の幅が広がる」と多くの方の背中を押しています。

また、RPA(※2)を使いこなせる人材を育成・派遣する独自の取り組みも行っています。既存の業務スキルを磨きつつ、新しい技術を活用して周辺領域へと自身の能力を拡張していくような学び直しを後押ししているのです。

(※2)RPA:Robotic Process Automationの略。人間がコンピューター上で行う定型的な業務を、ソフトウェアのロボットが代行・自動化する技術のこと。

「脱・派遣」で目指す潜在課題を解決する提案型営業への進化

ーー法人顧客に対しては、今後どのような方針で営業活動を展開していくお考えでしょうか。

木村和成:
社内では現在、「脱・派遣」を掲げて意識改革を進めています。これは派遣事業をやめるという意味ではありません。単に人材の手配を行うのではなく、顧客の経営課題を根本から支援する総合人材サービス企業であるという強い自覚を持つためのメッセージです。これまでの営業スタイルは、特定の技能を持つ人が欲しいという要望に応える御用聞きのような側面がありました。しかし、人事や購買の責任者や経営幹部と対話を重ねていくと、人材不足の裏側には、業務フローの非効率さやマネジメント層の育成不足といった複雑な人事課題や経営課題が潜んでいることが浮かび上がってきます。

ーーそうした表面化していない課題に対して、具体的にどのような提案を行っていくのか教えてください。

木村和成:
法人顧客自身も明確には認識できていない潜在的な課題を対話の中から引き出し、本質的な解決策を提示する提案型営業への転換を目指しています。パーソルグループには、人材採用から入社後の教育や人材・組織開発に至るまでさまざまなサービスが揃っています。

顧客と最も接点を持つ営業担当が、「派遣サービス」の枠組みを超えてパーソルグループの資源を活用し、課題解決を担う。その結果として顧客との間に強固な信頼関係を築き上げ、将来的に新たな採用が発生した際には、真っ先に再び当社にお声がかかるという循環を生み出したいと考えています。

挑戦と変革のフィールド日本の「はたらく」を成長産業へ導くために

ーーこうした変革期において、今後どのような人材を採用し組織強化をしていきたいとお考えですか。

木村和成:
私たちが求める人物像には、2つの明確な条件があります。1つ目は、私たちの事業が持つ高い社会性に心から共感し情熱を持てる方です。私たちの介在一つで誰かの人生の軌道が左右されるという責任の重さを自覚し、社会への貢献度の高さを実感できる方をお迎えしたいです。2つ目は、主体的に動ける方です。会社の規模や安定性に寄りかかるのではなく、自ら考えて全く新しい価値をゼロから生み出そうとする意欲的な人材です。当社には「挑戦と変革」という行動指針があり、失敗を恐れずに新しい事業に挑める土壌が整っています。

ーー最後に、今後の5年や10年を見据えた展望や意気込みをお聞かせください。

木村和成:
私たちが向き合っている事務職の派遣市場は、広大な労働市場全体から見れば一部に過ぎません。世の中には、まだ私たちが支援できていない人と企業が無数に存在しています。

たとえば、社内失業の問題や、やりがいを持てずに留まり続けている人材の課題に対し、私たちが学び直しの機会を提供して失業せず流動性を高める支援を行えば、成熟産業から成長産業へと人が移動する強力な後押しができます。一人ひとりが適材適所で活躍できる場が社会全体に増えていけば、日本経済は確実に前進するはずです。これからも時代の変化を恐れることなく、私たちが介在して支援できる領域を広げ、日本中により豊かで「より良いはたらく」を創出していく。それが私たちの使命であり全力で取り組んでいく覚悟です。

編集後記

「最初は3年で辞めようと思っていた」と笑いながら語る木村氏の歩みは、常に現場の泥臭い実務と直結している。逆風が吹き荒れる環境での着実な組織改革や、コロナ禍という危機的状況下における雇用創出。そこには評論家ではなく、自ら泥をかぶる実務家としての強烈な当事者意識が通底していた。「脱・派遣」というスローガンも、その本質を紐解けば、人の持つ無限の可能性を最大化し社会の課題を解決するという創業時からの温かいDNAの進化形に他ならない。テクノロジーが進化しAIが台頭する時代にこそ、同社が提供し続ける人による伴走支援の価値は、決して色褪せることなくさらに輝きを増していくはずだ。

木村和成/1969年 大阪府生まれ。1991年3月追手門学院大学卒。1991年4月テンプスタッフ株式会社(現パーソルテンプスタッフ株式会社)入社。2016年4月テンプホールディングス株式会社(現パーソルホールディングス株式会社)執行役員、2018年5月パーソル パナソニックHRパートナーズ株式会社(現・パーソルエクセルHRパートナーズ株式会社)代表取締役社長などを歴任。2021年4月より、パーソルテンプスタッフ株式会社代表取締役社長。一般社団法人日本人材派遣協会理事も務める。