※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

1894年(明治27年)の創業以来、賞状用紙やのし紙、POP用品などを通じて、日本のギフト文化やイベントを支え続けてきた株式会社ササガワ。130年を超える歴史を持つ同社は今、紙製品メーカーの枠を越え、「思いやりと笑顔があふれる社会」の実現へ向けた新たな挑戦を始めている。大手電機メーカーでのシステムエンジニア経験を経て家業を継いだ5代目代表取締役社長の笹川敦司氏に、組織改革の道のりと、感謝や賞賛を伝える文化への熱い思いを聞いた。

パナソニックでの「マネジメント」経験が経営の原点に

ーーまずは、家業に戻られるまでの経歴についてお聞かせください。

笹川敦司:
大学院卒業後、新卒で松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社しました。就職活動の際、理系だったこともありインターンシップに参加したのですが、そこで出会った先輩社員や周囲の人々の人柄に惹かれたのが入社の理由です。学生ながらに「一緒に働くならこういう人たちがいい」と直感したことを覚えています。

ーーパナソニックではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

笹川敦司:
社内システムエンジニア(SE)として、全社視点でシステムの最適化を行うプロジェクトの管理・運営に従事していました。事業部ごとに異なるルールやシステムを統合していく仕事です。私の役割は、現場の要望を汲み取り、開発会社へ的確に伝えるマネジメントのポジションでした。板挟みになる場面も多々ありましたが、異なる立場の人々の間に入り、プロジェクトを前進させる調整力は、現在の経営にも通じています。

ーーその後、貴社に入社されたのはどのような経緯だったか教えていただけますか。

笹川敦司:
30歳を手前にして、自身のキャリアを見つめ直したのがきっかけです。5年という節目で一区切りをつけ、家業へ戻る決意をしました。入社時は、いきなり経営に入るのではなく、まずは現場を知ることから始めました。営業を3年、工場の生産管理を1年、そして松原事業所の副所長を1年。この5年間で、現場の苦労や社員の心情を肌で感じ取れたことは、私にとって代えがたい財産となっています。

「前からそうでした」を打破し本音が言える組織へ

ーー現場に入られて、会社の雰囲気や課題をどう感じられましたか。

笹川敦司:
弊社の社員は非常に真面目で誠実です。お客様からの信頼も厚く、納品した商品に対する不良率の低さは私たちの誇りでもあります。注文が殺到し出荷が追いつかなくなった際やトラブルや繁忙時に全員で協力し合う団結力、あのオリンピックの日本代表チームになったかのような一体感は、弊社の素晴らしい風土だと感じました。

一方で、歴史が長い分、「前からそうでした」という前例踏襲の思考に陥っている場面も見受けられました。たとえば商品の扱いひとつとっても、非効率なのに「以前の担当者が決めたから」とそのままになっている。そういった「当たり前」を一つずつ見直し、現場の社員と共に改善を重ねてきました。

ーー社員の方々とのコミュニケーションで意識されていることは何ですか。

笹川敦司:
約80名の正社員全員と、半年に1回必ず個人面談を行っています。業務報告だけでなく、ふとした瞬間に漏れる「そういえば社長、ここがちょっと……」という本音を聞き逃さないようにするためです。普段の業務中には見えてこない「現場の小さな不便」や「改善の種」は、膝を突き合わせた対話からしか生まれません。社員との信頼関係があってこそ、組織は強くなると信じています。

3500種類以上のニッチな紙製品を支える配送技術と協力体制

ーー現在の事業内容と強みについて教えていただけますか。

笹川敦司:
弊社では、賞状用紙やのし紙をはじめ、ポチ袋や店頭用のPOPといった紙製品の企画、製造、販売を手がけています。扱う商品は3500種類以上にまでのぼり、その多くが非常にニッチな商材です。多種多様な商品を揃えているため、「困った時のササガワさん」とお客様から期待を寄せていただいている点は大きな強みと言えるでしょう。長年築いてきた協力会社様とのネットワークも弊社の財産であり、幅広いご要望にお応えできる体制を構築してきました。

また、商品の配送における細やかな技術や配慮にも自信を持っています。弊社では、非常に重たい商品とポスターなど薄い商品を、同じ段ボールに梱包して発送するケースが珍しくありません。輸送中に傷みやすい組み合わせでも、現場の担当者が適切な緩衝材を添えて丁寧にお届けしています。紙製品といった繊細な商品を扱ってきたからこそ、完璧な品質でお客様の手元に届ける信念が根付いているのだと思います。企画から製造、配送に至るまで対応し、お客様の課題解決に尽力できることが弊社の強みだと自負しています。

「紙」ではなく「想い」を届ける 賞賛文化のインフラに

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。

笹川敦司:
私たちは単に紙製品をつくっているわけではありません。「想いを届ける」ことこそが事業の本質だと定めています。先程も話した通り、弊社には企画から製造、配送までを一貫して行える強みがあります。これを活かして、今後は、弊社が掲げる経営理念「思いやりと笑顔があふれる社会をつくりたい」を実現するための活動に力を注いでいきます。具体的には、日本人が苦手とする「褒める」「感謝する」行為を、もっと日常的なものにしていきたい。そのために、商品の提供にとどまらず、賞状文化の良さを広めるための「思い出の賞状コンテスト」の開催や、新規事業として、企業向けに「ほめ方」を学ぶ研修サービスの構築に取り組んでいます。

ーー今後の展望として、社会の中でどのような存在を目指していきたいとお考えですか。

笹川敦司:
職場や家庭で「誰かを褒めたい、感謝を伝えたい」と思ったときに、「ササガワに相談すれば何かいい方法があるはずだ」と真っ先に思い出してもらえる存在になりたいですね。デジタル化が進む現代だからこそ、手渡しの賞状やメッセージカードといったアナログならではの温かみが、人と人との絆を深める役割を果たせると確信しています。これからも、誠実なものづくりと新しい発想で、世の中のコミュニケーションを温かいものにしていきたいと考えています。

編集後記

「現場を知らなければ、社員に届く言葉は生まれない」。そう語る笹川氏の言葉には、5年間の下積み時代に培った現場への敬意が滲んでいた。SE時代の論理的思考と、老舗企業の温かい人間味。この2つを併せ持つ笹川氏のリーダーシップの下、ササガワは単なる紙製品メーカーから「感謝と賞賛のプラットフォーム」へと進化を遂げようとしている。130年の歴史が紡ぐ「新しい想いの届け方」に期待したい。

笹川敦司/1981年生まれ、兵庫県出身。2006年大阪府立大学大学院修了後、松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)に入社。5年の修業期間を経て、2011年に株式会社ササガワへ入社。2016年に代表取締役社長に就任。