※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

1991年に創業し、化成品の二次加工とシステム開発を展開する株式会社ティエムエフ。自動車や電気・電子機器向けの精密な薄物加工に特化し、業界内で独自のポジションを築いている。同社は「職人気質」に頼らず、25年も前から設備化やIT化を推進してきた。2022年に取締役社長に就任した平松聡氏は、自身の「無知」を逆手に取り、独自の生産システムと顧客との強固な信頼関係を構築した人物だ。事業承継の過渡期を迎え、データ活用や人材採用による組織改革に挑む同氏に、これまでの歩みと未来へのビジョンをうかがった。

会長との出会いと「無知」が生んだ現場の熱量

ーーまずは、貴社に入社された経緯から教えてください。

平松聡:
私は高校卒業後、ゴムやスポンジなどを扱う同業の商社に入社しました。しかし、組織に馴染めず、わずか18歳という若さで既存の仕組みに対して強い反発心を抱いたのです。「人の下で働くのが無理なら、自分が社長になるしかない」と心の中で決意しました。そんな折、友人を介して独立して間もない弊社の現会長と出会い「一緒にやろう」と声をかけていただいたのです。当時の工場は38坪で機械は2台、会長とご両親の3人しかいない環境でしたが、会長の人柄や覚悟、包容力に惹かれ、「この人のそばなら学べる」と思い、入社を決意しました。

ーー創業期はご苦労も多かったのではないでしょうか。

平松聡:
苦労といえば、私自身にものづくりの知識が全くなかったことです。プラモデルすらまともにつくれないほど不器用なうえに、社内には設備もノウハウもありませんでした。ようやく仕事を取ってきても、他社が1時間でできる作業に5時間も費やしてしまう。それでも「明日の朝10時までに持ってきます」と約束し、苦手な製造作業に向き合い、徹夜でプレス機を動かすような毎日でした。

知識がない分、納品先で指摘を受けたり怒られたりすることも日常茶飯事でしたが、とにかく「どうやったらいいか教えてもらえませんか」と素直にお客様に聞いて、聞いて、学び続けました。そんな私の真剣さや熱さ、ある種の「子分肌」なところを面白がってくれて、手伝ってくれる味方がどんどん増えていったのです。

「できない」からこそ取り組んだ25年前からの設備化とIT化

ーーそこから、どのようにして現在の生産体制を築き上げたのですか。

平松聡:
会長も私も「職人気質」ではなかったからこそ、早くから設備化や機械化、IT化に舵を切りました。自社を知ってもらうために朝から営業することしかできない私たちの代わりに、製造部分は機械に任せようと考えたのです。IT化のきっかけもお客様でした。私が手書きの納品書を書き間違えてよく怒られていたのを見て、ある取引先の担当の方が不憫に思い、Excelで表計算システムの案をサポートしてくれたのです。そこから「こんなこともできないか」とアイデアを出し合い、最終的にはご縁もありその方を弊社の専属エンジニアとして迎え入れることになりました。そして生産システムを自社で設計・開発しながら構築し、指示書なども電子化していきました。自分たちができることの範囲を「当たり前」と思わず、「できない」を「できる」に変えていくことで、仕事の成果が大きく変わっていきます。それを25年前から続けてきたことが、今の大きな強みになっています。

ーー現在の主な事業内容と強みについて教えてください。

平松聡:
弊社は工業用のテープ、フィルム、ゴム、スポンジなどを切り抜く二次加工とシステム開発を行っています。主力となるのは、自動車部品を固定するテープやマスキングテープ、水漏れを防ぐスポンジ、振動を抑えるゴム・スポンジ・不織布などです。また電気・電子機器向けとして、絶縁や吸熱を担う特殊素材、表面保護フィルムの加工といった精密領域まで幅広く手がけています。こうした「やわらかい薄物」に特化した精密な加工こそが、弊社の得意分野です。

ものづくりにおいて精度やロスをなくす「プラスマイナスゼロ」を目指すのは当然ですが、弊社ではもう一つ深い意味を持たせています。それは、単に図面通りのものをつくるだけでなく、お客様が何を求めているのかを深く理解し、要望を過不足なく形にするという意味での「プラスマイナスゼロ」です。さらに現在では、そこから一歩踏み込み、お客様を笑顔にするような「プラスマイナスゼロからのプラスワン」の付加価値を提供することを全社に掲げています。

お客様との対話を通して、相手が何を大切にし、どうすれば喜んで笑顔になってくれるかを知り、商品と一緒にその付加価値を届けること。これこそが他社との決定的な違いになります。ゆくゆくはこの技術を活かして、自社ブランドを立ち上げ、BtoC(※)展開もしてみたいと考えています。

(※)BtoC:Business to Consumerの略。企業が一般消費者に対して商品やサービスを直接提供するビジネスモデルのこと。

「自分の勝てるところで勝つ」個性が光る自律型組織へ

ーー次に見据えている課題や目標はありますか。

平松聡:
現在はご依頼に恵まれており、来る仕事だけをこなしていれば何ら困らない状況ですが、強い危機感を持っています。あくまで相手次第の状況であり、明日急に注文がゼロになる可能性も否定できないからです。国内の人口減少が見えている中で、現在の中部地区中心の受注だけに頼っていては会社として生き抜けなくなります。

そこで注力しようとしているのが、国内外市場への拠点展開です。お客様との関係が深まり「阿吽の呼吸」で仕事ができるのは良いことなのですが、ものづくり屋としての新たな提案や「プラスワン」のネタが枯渇していくことが何より心配なのです。日本がグローバルスタンダードというわけではありません。海外では各国のスタンダードがあり、それを知ることで新たな「プラスワン」のテーマが見つかったり、日本のノウハウを海外に展開して価値を生み出すこともできるはずです。

具体的には、北米やアジアへの展開を視野に現地リサーチを進めており、まずは日系企業からアプローチを始めようと考えています。海外展開は、現状に満足せず新たなマーケットを知るためであり、これからの会社を担う従業員たちに新たな「戦い方」を示し、活躍の場を広げるための重要なステップでもあるのです。まずは盤石な組織・人財づくりに注力していきたいです。

ーー今後の展望をお話いただけますか。

平松聡:
現在は次世代が活躍できる会社の組織改革に力を注いでおります。営業面では「プラスワン」の提供を続けるためにも、現状に満足してはいけません。新しい業種を開拓し、他所にできて自社にできないことを常に探して取り入れる姿勢が求められます。また、過去25年分の膨大なデータ蓄積をAIなどで活用する仕組みづくりや、従業員に新たな活躍の場を提供するための名古屋の新拠点立ち上げなども進行中です。採用に関しても、もちろん社内のメンバーが成長し、ボトムアップで組織を支えてくれることが一番の理想です。そのうえで、新たな挑戦を形にするために、現場を牽引してくれる営業職や、製造管理の要となる人材も、外部から広く募っています。さまざまな人材を迎え入れて組織をつくっていくうえで、私が会長から教わった「人と比較しない」という考え方を大切にしてきました。

一人ひとりが「自分の勝てるところで勝てばいい」のです。足りない部分は埋め合い、その総合力が会社という組織を形成していくのではないでしょうか。新しいアイデアを生み出すのは人にしかできない仕事です。だからこそ、それ以外の部分は引き続きITやAIで効率化し、人が輝ける会社にしていきたいですね。

編集後記

自身の弱みを隠さず、ひたむきに周囲を巻き込んできた平松氏。その素直さと熱量が、顧客をも味方に変え、独自のシステム開発へとつながったストーリーには圧倒された。「自分の勝てるところで勝てばいい」という言葉の裏には、従業員一人ひとりの個性を認め、総合力で戦うという深い信頼がある。25年前から培ってきたITの基盤と、人間味あふれる「プラスワン」の精神。この両輪が融合する同社が、今後どのような進化を遂げるのか、その挑戦から目が離せない。

平松聡/1973年愛知県生まれ。1994年株式会社ティエムエフに入社。2022年に同社取締役社長に就任。