※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

1953年創業の故繊維加工業をルーツに持ち、古着のフランチャイズ事業を展開する株式会社Kurokawa。同社を率いる3代目の黒川芳秋氏は、20代での社長就任以来、独自のビジネスモデルを築き上げてきた。古着を回収・販売・輸出まで一貫で手がけるだけでなく、近年は就労支援や独自の人事制度を通じ、人も活かす組織づくりに注力している。衣食住すべての領域で「活かされていないものを活かす」という壮大なミッションを描く黒川氏に、その原動力と未来への展望をうかがった。

創業家3代目としての原体験と「勢い」の20代

ーーまずは、家業を継ぐことになった経緯についてお聞かせいただけますか。

黒川芳秋:
幼少期や学生時代から家業を継ごうと強く意識していたわけではありませんでした。ただ、無言のプレッシャーのようなものは感じていましたね。将来ビジネスをするなら英語が必須だろうと考え、もう少し日本以外のところを見たいという願望もあり、高校卒業後はアメリカへ留学しました。海外に出たことで、客観的に日本を見られる視座を得られたと思います。

帰国した翌日から、すぐに家業に従事することとなりました。父から「将来どうするんや」と問いかけられ、私が答えるまもなく「それなら明日から働け」と、なかば強引に入社が決まったような流れでしたね。

ーー入社直後はどのような業務を担当されていたのですか。

黒川芳秋:
最初はドライバーや店舗スタッフなど、ありとあらゆる仕事を経験しました。故繊維業界は衣替えのシーズンである4〜5月、9〜10月に、1年分ほどの古着が一気に集まります。何十トン、何百トンという商品を短期間で倉庫に積み上げる作業は、肉体的に相当ハードでしたが、今思えば事業の根幹や現場のリアルを肌で学べる貴重な期間でしたね。

その後、フランチャイズ事業をスタートするタイミングで事業を一度分社化し、27歳で株式会社キングファミリーの社長に就任しました。当時は私を含め若いメンバーばかりで、全員が未経験の領域に挑む手探りの状態。そのためプレッシャーを感じる暇もなく、勢いで店舗をオープンさせていく面白さが勝っていました。

「活かす」を体現する唯一無二のビジネスモデル

ーー改めて、現在展開されている事業の強みについて教えてください。

黒川芳秋:
弊社事業の根底には、「世間では価値がないと手放された古着(故繊維)を大量に集め、有効に活用する」という考え方があります。店舗で販売できる古着は全体の2割から3割程度です。残りの7割、8割は私たちが回収して梱包し、海外へ輸出するなどして有効活用しています。大量に捨てられるものを引き上げ、店舗販売から輸出までを一貫して行うノウハウとロジスティクスは、他社にはなかなか真似できない強みだと自負しています。

ーー変化の激しい市場環境において、逆境でも事業を続けてこられた「一番の理由」は何でしょうか。

黒川芳秋:
それは、私たちが単なる利益追求ではなく、「大量に捨てられているものをどうにかする」という強い使命感を持って事業に向き合っているからです。確かに古着の輸出ビジネスは市場の変化に大きく左右されやすく、コロナ禍での停滞や相場の暴落など、これまで多くの困難がありました。単に安く買って高く売るだけの商売であれば、すでに撤退していたかもしれません。しかし、私たちには「資源を活かしきる」という揺るぎない前提があります。その想いがあるからこそ逆境でも踏ん張りが利きますし、70年以上かけて築いてきた海外とのネットワークやご縁が、困難な状況下でも私たちを支える大きな力となっています。

「型」にはまらない人材が輝く革新的な人事制度

ーー貴社で活躍される社員の方々には、どのような特徴がありますか。

黒川芳秋:
少し言い方は悪いかもしれませんが、私たちは一度世の中で「価値がない」と判断された古着を集めて商売にしています。それと同じように、人材においても、挫折を経験したり、既存の枠組みでは自身の力を発揮しきれなかったりと、いわば「型」にはまらない個性豊かなメンバーが多く集まり、活躍してくれています。さまざまな経験をしてきているからこその「味」があるんです。

ーーそのような方々が輝くための、独自の人事制度について教えてください。

黒川芳秋:
約10年前から「自己申告制給与」を導入しています。これは、社員自らが「次回はこれくらいの成果を出すから、この給与でお願いします」と申請するスタイルです。定性的な目標や伸ばしたいスキルを自分で組み立て、上長との対話を通じて承認を得ます。会社から提示された条件で、お金のためだけに働くのではなく、自分の人生と仕事をしっかりと結びつけてほしいという思いから始まりました。給与制度だけのおかげではないかもしれませんが、自ら新規ビジネスを立ち上げたり、副業を行ったりと、能動的に動く社員が増えてきたと感じています。

ーー最後に、今後の事業展開や長期的なビジョンについてお話いただけますか。

黒川芳秋:
現在、私たちは「就労支援事業」との融合にチャレンジしています。人手不足や賃金上昇といった社会課題に対し、障害のある方々が店舗のバックヤードや無人店舗の運営などを通じて、その能力を存分に発揮できる仕組みづくりを進めています。

私たちが目指しているのは、「活かされていないものを活かす」というミッションを、衣食住のすべての領域に広げることです。現在は古着という「衣」の領域ですが、将来的には「食」の分野でのフードロス問題や、「住」の分野での空き家問題にも取り組みたいと考えています。たとえば、フードロスを活用した就労支援型の食堂やレストラン、空き家を利用した事業所の展開などです。私たちがこれまで培ってきたフランチャイズの強みをかけ合わせることで、地域に眠る「活かされていないもの」をパッケージ化し、世の中に提供していく新しいビジネスモデルを展開していきたいと構想しています。

編集後記

「活かされていないものを活かす」。黒川氏の言葉の端々からは、ものや人に対する深い愛情と、事業への強い覚悟が感じられた。勢いで駆け抜けた20代を経て、現在は「自己申告制給与」などの革新的な制度で自律的な組織を築き上げている。さらに、就労支援やフードロス、空き家問題へと広がる壮大なビジョンは、社会課題の解決とビジネスの成長を見事に両立させるものだ。1953年から続く老舗の矜持と、挑戦心を併せ持つ同社が、未来に向けてどのような価値を生み出していくのか。その動向に大いに注目したい。

黒川芳秋/1997年6月、有限会社黒川商店(現・株式会社Kurokawa)に入社。1999年11月、取締役に就任。2000年10月、本格的なフランチャイズ展開を見据えて有限会社黒川商店から株式会社キングファミリーを分社化し、同社の代表取締役社長に就任。2010年10月に株式会社Kurokawaに社名変更し、現在に至る。