※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

京都府を拠点に、内視鏡を中心とした専門性の高い医療機器を販売する佐野器械株式会社。設立から半世紀以上の歴史を持つ同社は今、従来のメーカー代理店という立ち位置から脱却し、病院のコスト削減や現場の細やかなニーズに寄り添うパートナー企業へと大きな変革を遂げようとしている。

この第二の創業ともいえる組織改革を牽引するのが、代表取締役の高田宣明氏だ。「モノではなく自分を売る」という圧倒的な顧客第一主義と、高校の山岳部時代に培った「人を活かす」マネジメント論を武器に、属人的だった組織の刷新や新たな人事評価制度の構築に挑んでいる。激変する医療業界において「京都で一番に選ばれる企業」を目指す高田氏に、次世代を見据えた意識改革の全貌と、顧客の信頼を勝ち取る営業の極意を聞いた。

マスコミ志望から一転医療業界へ「自分を売る」営業の極意

ーーまずは、これまでのご経歴と医療業界を志望した理由を教えてください。

高田宣明:
もともと私は医療業界を志望していたわけではありません。大学はマスコミュニケーション学部を出ており、当初はマスコミ関係を志望していました。卒業後は地元の静岡で広告や新聞関係の企業を受験したのですが、当時は採用枠が狭く厳しい時代でした。その中で、国や保険制度の支援があり、今後成長する安定した業界だと考えたのが医療業界です。そこで、地元の医療関連企業に飛び込んだのが最初のスタートです。入社後は、MRIなど画像診断機器の販売を担当していました。

ーー高額な商材を扱う営業において、最もやりがいを感じたのはどのような場面ですか。

高田宣明:
お客様と信頼関係を構築し、最終的に契約に至った瞬間に最もやりがいを感じていました。商談には時間がかかることも多いですが、無事に決まったときの喜びは大きいです。ただし、「モノを売る」というよりも「自分を売る」意識を常に持っていました。私自身を売り込み、「高田が勧めるなら間違いない」と信頼して買っていただく。嘘をつかない関係ができれば、年数が経ってもお客様から相談の電話がかかってきますし、その信頼を得ることが一番大切だとも考えています。

ーーお客様の信頼を得るために、具体的にどのような提案を心がけていましたか。

高田宣明:
できることとできないことを正直に伝え、その上でお客様の利点を提示することを心がけていました。営業の立場として、対応できる範囲には限界があります。できないことを隠すのではなく、正直に伝えます。たとえば、小回りの利く車を求めるお客様に、大型の高級車を勧めても売れません。医療機器も同じで、弊社は製造元とは異なり、複数の企業の製品を扱えます。お客様が求めているのは機能か、価格か。その要望に合った製品を提案できれば、「まずは高田に相談しよう」と信頼していただけます。

高校時代の山岳部で学んだ「人を生かす」組織管理

ーー過去のご経験で、現在の組織マネジメントに生きているエピソードはありますか。

高田宣明:
高校時代に山岳部で部長を務めた経験が生きています。あるとき、後輩に対して私が感情的になってしまったことがありました。その際、当時の顧問から「人の扱い方が下手だ。全部自分でやるのは無理だから、うまく人を頼りなさい」と指導を受けたのです。その言葉が心に残り、立場が上がってからは何でも自分で抱え込まず、人に任せることを意識するようになりました。褒めて伸びる人もいれば、厳しく指導して成長する人もいます。一人ひとりの特徴を見極め、適切に意欲を高めることが重要です。

ーー社内での人間関係を構築する上で、どのようなことを意識されていましたか。

高田宣明:
上司に気に入られることよりも、部下との関係性を大切にしていました。部下から正当に評価されていれば、自然と上司も引き上げてくれます。社内のメンバーに対しても、お客様に対しても、真摯に向き合って信頼関係を築くという根本は変わりません。企業にとって最大の財産は「人」です。現在は社長という立場で、次世代の体制づくりと人材育成に注力しています。

製造元の代理店から病院のパートナーへ

ーー改めて、現在の事業内容と、医療業界を取り巻く状況について教えてください。

高田宣明:
主に内視鏡室向けの機器やカテーテルなどを扱っています。近年は患者への身体的負担を減らし、入院期間を短縮する治療が増加しているため、関連製品の取り扱いが多くなっています。業界全体の状況として、販売会社の役割が大きく変化しているのです。以前は製造元の代理店として製品をお届けすることが業務の中心でしたが、現在は病院側からより密接な支援をご要望いただくことが増えています。情報を集め、病院の身近な立場で最適な製品やコスト削減の提案を共に行う必要があります。その姿勢がなければ、生き残れない時代です。

ーー京都という地域ならではの、営業活動における難しさはどこにありますか。

高田宣明:
金額の安さだけでは取引先を変えない、独特の人間関係が重視される点です。また、病院ごとに担当領域の棲み分けができている事例も多く、単純な価格競争では売れません。だからこそ日々の学習を怠らず、細かな情報にアンテナを張り巡らせてお客様の要望を把握し続けることが求められます。

55期の社長方針は「意識改革」京都で選ばれる企業を目指す

ーー現在進めている組織改革と、次世代に向けた展望を教えてください。

高田宣明:
透明性のある人事評価制度の構築と、階層別の組織づくりを進めています。以前は個人の経験に依存して動いていましたが、現在は課長職や部長職を配置し、組織的な構造を整えている段階です。

今期、55期の社長方針としては「意識改革」を掲げました。なぜ新しい制度が必要なのか、なぜ法令順守が重要なのかという根幹を、一人ひとりに定着させたいと考えています。営業面でも、内視鏡室だけでなく他の診療科にも視野を広げるなど、新しい視点を持つよう指導しています。

ーー最後に、会社として今後目指すべき目標をお聞かせください。

高田宣明:
内視鏡などの専門分野に特化し、京都で一番に選ばれる販売会社になることです。弊社の規模を急拡大させることよりも、質を重視します。特定の企業に依存するのではなく、製造元からも病院からも「佐野器械と一緒に働きたい」と選ばれる存在になること。そのためには、社員一人ひとりの能力を高め、お客様から絶対的な信頼を得ることが最も重要です。

編集後記

人命に関わる医療現場で高額な商材を扱いながらも、高田氏の行動の根底には「人との信頼関係」という人間的で温かな信念がある。高校時代の山岳部での失敗から学んだ組織管理の手法や、徹底した「病院目線」の提案力と、一人ひとりの適性を見極めるマネジメント視点は、業界を問わず通用する本質的な考え方だ。半世紀以上の歴史に甘んじることなく、「意識改革」という次なる課題へ挑む同社の未来に期待したい。

高田宣明/1963年静岡県生まれ。1986年、東海大学文学部マスコミュニケ-ション学科を卒業後、同年3月に株式会社協和エムイー(2000年に協和医科器械株式会社が吸収合併)に入社。2006年7月、同社のプロフェッショナル営業副本部長兼イメージング営業部長に就任。その後は、横浜支店長、プロフェッショナル営業本部長、執行役員などを経て、2022年4月、同社取締役に就任。同年9月、当社代表取締役に就任。