
長野県発祥で、東京や大阪などに展開するエステティックサロン「アンジェラックス」。代表取締役の大杉みどり氏は、もともと「エステティシャンにはなりたくない」と考えていたという。しかし自身の深刻な肌荒れが改善した原体験からエステの力に目覚めた。現在はサロン経営や自社化粧品のEC事業、YouTube発信を手がけている。2010年の「従業員一斉退職」やコロナ禍の危機をいかにして乗り越えたのか。「働きがいのある会社」女性ランキングに選ばれる組織をどのようにつくったのか。同氏の具体的な取り組みと行動に迫る。
肌荒れの原体験から見出したエステの価値
ーーまずは、エステ業界へ進んだ理由についてお聞かせください。
大杉みどり:
肌荒れに悩む人を救うためです。実は当初、エステティシャンにはなりたくありませんでした。弊社は母が創業した会社ですが、昔から母が365日休まず働く姿を見て育ったからです。そういった経緯もあって、もともとは美容師になろうと上京し、専門学校に通っていました。
しかしその頃にひどい肌荒れを起こしたのです。皮膚科に何軒も通いましたが、治ることはありませんでした。そこで初めて母を頼り、サロンで施術を受けたところ、肌が劇的に綺麗になったのです。その時、「エステティックには肌を改善する力がある」と痛感しました。そんな、自身のコンプレックスを乗り越えた経験から、同じ悩みを持つ人を救いたいと決意したのです。
ーー東京へ進出した際、どのようなサロンづくりを目指しましたか。
大杉みどり:
肌にトラブルがある人でも、安心して通えるサロンです。長野で経験を積んだ後、東京へ出店しました。私自身がアレルギー体質で肌が弱かったので、壁紙や水道水、お客様に触れるコットンに至るまで、刺激のないものにこだわりました。当時のエステ業界には「閉鎖的で、契約するまで帰してもらえない」というネガティブなイメージもありましたが、私はその払拭を目指し、オープンスペースやくつろげる空間づくりを徹底しました。肌を綺麗にすることと、心を癒すことの両立を追求しています。
ーーお客様と向き合う中で、印象に残っているエピソードはありますか。
大杉みどり:
顔中のニキビに悩んでいた、女子大生のことですね。当初の彼女は、目も合わせてくれないほど卑屈な状態でした。しかし肌が綺麗になるにつれて笑顔が増え、ファッションやメイクを楽しむようになり、交際相手もできたのです。彼女からは後に「みどり先生に出会っていなければ、命を絶っていたかもしれない」と打ち明けられました。女性にとって、肌の状態は人生を左右します。お客様が前向きに変わっていく姿を間近で見られることが、今の仕事を続ける原動力です。
従業員の退職を乗り越え働きやすい環境へ
ーーこれまでにどのような困難がありましたか。
大杉みどり:
最大の困難は、2010年に4店舗の店長とスタッフがほぼ一斉に退職したことです。当時は私自身が現場で結果を出すことばかり考え、スタッフ教育に目が向いていませんでした。会社を畳むこともよぎりましたが、残ってくれた2人のスタッフが「ついていきます」と言ってくれたのです。そのとき、生まれて初めて心からの感謝が湧き起こりました。そこから「このスタッフたちのために頑張ろう」と考え方が180度変わりました。

ーーその後、どのように組織を立て直していったのでしょうか。
大杉みどり:
弟である現在の副代表が会社に入り、二人三脚で改革をスタートさせました。当時は資金の余裕がなかったものの、まずは歩合制や昇給表をつくり、給与水準を上げることから始めていきました。さらに長時間労働や休日の少なさを改善し、有給休暇の取得も推進してきました。現在、弊社の社員は9割以上が女性となり、「働きがいのある会社」女性ランキングにも選出されています。従業員の声を聞き入れ、誕生日休暇を家族のために使える制度や、日曜日に交代で休める仕組みもつくりました。これからも、プライベートを大事にしながら働ける環境整備を続けていきたいと思います。
コロナ禍の危機を救った自社製品と動画配信

ーー2017年の社長就任後、コロナ禍の危機をどのように乗り越えたのですか。
大杉みどり:
YouTubeでの動画配信と自社化粧品のEC販売が、会社を救うことになりました。当時は「不要不急」という言葉が広まり、新店舗を出した直後だったため、店舗を縮小すべきか議論するほど苦しい時期でした。そうした状況下で始めたのが、YouTubeでの動画発信です。
もともとサロンのお客様向けに自社化粧品「マイナデシコ」を開発しており、配信開始から1年ほど経ったころ、YouTubeのコメント欄で質問をいただいたのが転機となりました。その回答を動画で紹介したところ、ECでの売上高が急激に伸びていきました。現在では、EC事業の運営から動画の撮影や編集に至るまで、ほとんどを自社で内製化しています。
ーー事業の強みはどこにあるとお考えですか。
大杉みどり:
サロンもECも「リピートビジネス」モデルであることです。広告費はほぼかけていませんが、サロンのリピート率は8割を超え、ECも約85%のリピート率を誇ります。これを支えているのは、「結果を出すこと」への徹底した追求ですね。アンケートで最も多い理由は「カウンセリングが丁寧だから」という声でした。お客様のためになることであれば、エステティシャンも技術やカウンセリングの工夫など、いろいろなことを試す最適な環境を用意しています。それが社員のやりがいにもつながっています。

ーー最後に、今後の展望や目標を教えていただけますか。
大杉みどり:
弊社の根幹はエステティックサロンです。「美を通して人生を前向きにしてほしい」という思いは、サロン経営においても自社製品の販売においても変わりません。今後は、全国の肌で悩んでいる方々に手を差し伸べるために、人材を育成しながらサロンを少しずつ拡大すること。そして、ECでの自社製品の販売を伸ばすことを目指しています。この両軸を回しながら、美容業界で一番信頼されるような会社へと成長していきたいですね。
編集後記
自身のコンプレックスを原点に、エステの価値を追求し続ける大杉氏。印象的だったのは、スタッフの一斉退職やコロナ禍の危機を、周囲への感謝と顧客への誠実な姿勢で乗り越えたプロセスだ。広告に依存せず、高い顧客満足度とリピート率を維持する事業基盤がある。それは技術力と丁寧なカウンセリングという地道な取り組みによるものだ。肌悩みをなくすという信念のもと、アンジェラックスが今後どのように事業を拡大していくのか、引き続き注目していきたい。

大杉みどり/1979年生まれ。20歳でエステ業界に入り、都内旗艦店を予約が困難な店へと成長させる。2017年、株式会社アンジェラックス代表取締役に就任。エステティックグランプリ顧客満足部門で歴代最多7度の全国1位に導くなど、人材育成と顧客満足に高い実績を持つ。2020年よりYouTubeなどで正しい美容情報を発信。26年間で2万人以上の肌に向き合ってきた経験を活かし、自社化粧品「マイナデシコ」の開発も手掛ける。