※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

エンタテインメント業界はいま、コンテンツ配信プラットフォームの多様化や、それにともなう物理メディアからデータファイルへの消費の移行など、取り巻く環境の変化が著しい。

そんな中で、株式会社ヒューマックスエンタテインメントの代表取締役社長である秋元巳智雄氏は、自社の多彩な事業を活かしながら、新たなエンタメの可能性を切り拓こうとしている。映画館運営、ライブハウス運営、映像制作・編集、番組配信など、多岐にわたるさまざまな取り組みを通じて、唯一無二のエンタテインメントを目指す秋元氏に、そのビジョンと挑戦について話をうかがった。

飲食業からエンタテインメント業界に転身した社長が掲げたビジョンとは

ーーまず、現在までの経歴を教えてください。

秋元巳智雄:
中高生のころは、毎週日曜日に銀座で映画を観ることがいちばんの趣味で、「将来、映画関連の仕事がしたい」という夢も持っていました。大学入学後は、「空いた時間に映画を観られるよう、銀座でアルバイトしたい」と思い、銀座の「PRONTO」1号店にアルバイトで入ったほどの映画好きだったのです。

ところがそこで働くうちに、「飲食業は僕の天職だ」と感じるようになり、大学卒業後は映画関連ではなく飲食業界を選びサントリーグループの株式会社ミュープランニング&オペレーターズに入社し飲食のイロハを学びました。1997年に東証二部上場(当時)の富士汽船株式会社(現 ワンダーテーブル)に入社し、2002年に取締役、2012年には同社の代表取締役社長に就任しました。

一方で、グループの中にエンタテインメント系の企業がいくつかあったのですが、その経営状態が厳しく、私に社長の打診があったのが2022年末のことです。そこで、2023年4月に「株式会社ヒューマックスシネマ」と「株式会社ヒューマックスコミュニケーションズ」の2社の社長を引き受けました。

ただ、そのまま事業を継続するのは難しく、1社で1業種だけを手掛けるよりも、複数の事業に横串を刺してマルチエンタメ企業に再編する必要があると考えました。そこで、前述の2社に「株式会社ヒューマックスエンタテイメント」を加えた3社を合併し、2024年4月に現在の会社を立ち上げました。

ーー事業再編にあたり、どのような取り組みを行いましたか。

秋元巳智雄:
まず最初に、コーポレートビジョンをつくりました。というのも、エンタメ業界というのは「好き」を仕事にしている人が多いので、「いい作品をつくるため」なら徹夜をしたり、必要以上に労力をかけたりします。ただ、「会社のため」というロイヤリティがあまり高くない人もいます。それでは、強い会社にはなれません。

会社にロイヤリティを持ってもらうには、やはりビジョンが必要です。そこで、「ユニークなエンタテインメントを共創することで、世界中の人々に彩りを与える」というビジョンを掲げました。

これにより社内のクリエイティブ人材が、自分の仕事だけをするのではなく「共創=みんなで新しいエンタメをつくろう」という気持ちで働いてくれるようになりました。会社がスタートしてからわずか1年ですが、赤字だった予算を黒字で終えることができ、社長冥利に尽きますね。

メディア(ソフト)と店舗(ハード)の融合を武器に、新たなエンタメを生み出したい

ーー改めて、現在の事業内容を教えてください。

秋元巳智雄:
弊社の事業は、大きく分けてソフト部門とハード部門があります。ソフト部門は映像メディアに関わるもので、「Vパラダイス」というチャンネルを中心に番組を放送する事業、ドラマや映画・PVを企画制作する事業、映像や音楽の編集をするポストプロダクション事業の3本柱です。

ハード部門はいわゆる「ハコモノ(店舗・施設)」事業で、弊グループの創業の基礎である映画館運営、そしてライブハウス運営やスポーツアミューズメント運営を手がけています。

ーーそれらの中で、貴社の強みは何でしょうか。

秋元巳智雄:
「映像」と「音」に関して、ソフトとハードの両方を持っていることが強みだと思っています。映像作品(ソフト)とそれを上映できる映画館(ハード)がありますし、ライブハウス(ハード)ではアーティストのブッキング(ソフト)が得意です。これらのソフトとハードをミックスして、今までにないエンターテインメントをつくって行きたいですね。

実際に2024年には、「ボイスコミックライブ」という新しいエンタメのビジネスモデルを立ち上げました。これは、映画館のスクリーンに漫画のカットを映し出し、その前に声優さんが立ってセリフを読み上げるというライブイベントです。また、昨年制作したドラマ『サバエとヤッたら終わる』は、弊社の映画館でキャストが登壇するイベントも開催しました。

成長のカギは「得意分野のリブランド」

ーー斬新な企画は、どのようにして立ち上がるのでしょうか。

秋元巳智雄:
私は会社の方針を社内に発信するだけで、企画しているのはすべて社員です。中堅規模の企業だからこそ、スピード重視で社員の裁量権を大きくしています。

たとえば、弊社の映画館で上映作品のブッキングを担当しているのは、30代の社員のひとりだけです。私たちが運営している4館25スクリーンすべてで、どの映画をどの時間帯に上映するかをその社員が決めているのです。もちろん、上司のサポートもありますが、みんなが主体的に考えて行動するので、このように若手にも裁量権を与えられることが弊社の良さでしょうね。

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

秋元巳智雄:
成長戦略のキーとなるのは、「得意分野をリブランドして伸ばす」ことだと考えています。

得意分野というのは、前述したように音と映像を活かしたエンターテインメントですが、ブランドとしての差別化がまだ曖昧です。総合エンターテインメント企業は山ほどあるので、その中で差別化要因を明確化し、弊社ならではのユニークなコンテンツを提供していきたいですね。

編集後記

「得意分野を伸ばす」という秋元社長の主張はシンプルかつ力強い。従業員の裁量を大きくとり、主体的な提案に企業としての活路を見出そうとする姿勢が、今の時代にマッチしていると感じた。事業再編してまだ1年余り、すでに新たな試みにいくつか着手している新生・ヒューマックスエンタテインメントが、これからどんなエンタメを提供してくれるのか、ワクワクしながら待っていよう。

秋元巳智雄/1969年、埼玉県生まれ。明海大学卒業後、株式会社ミュープランニング&オペレーターズに入社。1997年に株式会社ワンダーテーブル(旧 富士汽船株式会社)に入社。2012年、同社の代表取締役社長に就任。2023年、同社の代表取締役会長に就任、また株式会社ヒューマックスシネマ、株式会社ヒューマックスコミュニケーションズの社長にも就任する。2024年、エンタメ系3社を合併し株式会社ヒューマックスエンタテインメントを設立し代表取締役社長に就任。社業以外にも経済同友会のサービス産業活性化委員の副委員長や業界団体の理事や顧問を多数務める。