※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

小学生の頃に経験した阪神・淡路大震災。変わり果てた街で支援に奔走する地元企業の姿を見て起業家への憧れを抱いた寺田彼日氏。大手企業でのキャリアを経て単身イスラエルへと渡り、現在AironWorks株式会社を率いる同氏は、サイバーセキュリティ技術とAIをかけ合わせ、「AIで働く人々・チームをエンパワーする」というミッションを掲げる。新たなサービスを展開する中で抱く、日本の産業再興への熱い思いと、AIセキュリティ企業としてグローバルNo.1を目指す軌跡について話を聞いた。

震災の記憶と大企業での学び 起業へのステップボード

ーー起業を志した原体験について教えてください。

寺田彼日:
小学生の時に経験した、阪神・淡路大震災が最初のきっかけです。朝起きると家中がぐちゃぐちゃで、テレビの画面には倒壊した高速道路が映し出され、上空にはヘリコプターが飛んでいました。その凄惨な状況の中、被災者を支援するため、地元の経営者や企業が懸命に動いていたのです。その姿を目の当たりにし、長年に渡る復興支援の享受を通じて子どもながらに「経営者」という存在を強く意識し始めました。

ーーすぐに起業せず、まずは大手企業への入社を選ばれたのはどういった理由からですか。

寺田彼日:
大成功している起業家の多くが、一度一般企業に入社しているという統計的な事実があったからです。日本社会でビジネスをする以上、大企業がどのような論理やプロセスで動いているのか、内部で体験しておくことは非常に重要だと考えました。理念に共感して入社した大手教育企業では、デジタルマーケティングを担当しながら、約1年3ヶ月様々な業務を通じて大きな組織の仕組みを学びました。

ーー入社からわずか1年3ヶ月で退職を決意されたのには、何か理由があったのでしょうか。

寺田彼日:
非常に素晴らしい上司、同僚に恵まれたこともあり、入社前に決めていた3つの目標を想定よりも早く達成できたからです。具体的には、「新規事業の立ち上げを通じて大企業の組織構造を理解すること」「起業の準備資金を貯めること」、そして「マーケティングの実践スキルを身につけること」の3点です。これらを全て満たせたと感じたため、次のステージへ進む決断をしました。

片道切符でイスラエルへ 失敗を称賛する文化との出会い

ーーその後はどのようなキャリアを歩まれたのですか。

寺田彼日:
元々「海外で戦える会社をつくりたい」という強い思いがありましたが、大学院在学中の交換留学でトルコに住み生活を始めた際、日本の企業が世界で存在感を失っていることに強い危機感を抱きました。過去30年で日本の屋台骨であった製造業、特に電機メーカーや半導体関連企業が競争力を失い、IT業界で日本発の世界を代表する会社は全く生まれていないため、日本国内の市場だけにこだわっていては駄目だと強く感じたのです。

そこで、シリコンバレーに並ぶIT大国であり、AIとセキュリティ分野の最先端でもあるイスラエルへ片道切符で渡り事業を開始しました。何もツテはなかったのですが、退路を絶って飛び込んでみたという形です。

ーー異国の地でのゼロからの挑戦を支えた原動力は何でしたか。

寺田彼日:
「日本発で世界と戦う姿を見せたい」という、ぶれない思いです。たとえうまくいかないことがあっても、それは「失敗」ではなく、「前進するための検証」だと捉えて行動し続けました。また、挑戦した失敗を称賛するイスラエルの前向きな文化や陽気な気候に助けられました。そうした環境に背中を押される中、コロナ禍のタイミングで以前から親交のあった友人であるイスラエル人CTOと事業を立ち上げることを決めました。彼は、世界的に技術力を認められている、イスラエル軍精鋭部隊「8200部隊」出身の技術者です。そして、イスラエルはアメリカと並ぶサイバーセキュリティ大国。彼と事業構想を練り、検証を進める中で現在の事業の形に至りました。

AIで「人を狙う攻撃」を防ぎ働く人々をエンパワーメント

ーー現在の事業について、サービスの特徴や強みを教えてください。

寺田彼日:
AIエージェントを活用し、企業が直面するサイバー攻撃のリスクを軽減する点が強みです。現在、攻撃者はAIを使って巧妙な文面などを生成し、システムの脆弱性ではなく「人」をダイレクトに狙ってきます。IDやパスワードを騙し取る方が、圧倒的に効率がよいからです。これに対し、私たちは本物のハッカーの攻撃手法を模倣、そしてインテリジェンス情報を活用してリスクを先読みした訓練を提供し、従業員のリテラシーを向上させるとともに、実際に届く脅威メールをAIが分析・ブロックする仕組みを構築しています。

ーー日本企業における、セキュリティ意識の現状をどう捉えていますか。

寺田彼日:
日本の現場の方々も限られた予算や人員の中で最善を尽くされていますが、世界の最先端であるイスラエルやアメリカと比較すると、最新ツールやフレームワーク、法制度が欧米主導で発信されるため、どうしても日本企業の対策に遅れが発生するという構造的な課題が存在します。サイバー攻撃は「起きてから対処する」のでは手遅れです。事前に防御の仕組みを導入するという意識が企業側・経営者には不可欠だと考えています。

私たちが目指すのは、単にセキュリティを強固にすることではなく、ミッションにもあるとおり、「AIで働く人々・チームをエンパワーする」ことです。AIが脅威を排除することで、働く人々がより便利に楽しく、本来の業務に集中できる環境をつくっていきます。

グローバルNo.1へ 強いカルチャーと日本への思い

ーー今後の事業展開や、注力テーマについてお聞かせください。

寺田彼日:
AIメールフィルターや事業継続計画マネジメントに特化したAIエージェントなどの機能もリリースし、今後さらにAIエージェントの種類を拡充していきます。近い将来のIPOも視野に入れつつ、私たちが戦っている「AI×セキュリティ」の領域で、グローバルNo.1になることが現在の目標です。

ーーその目標に向けた、組織拡大の方針はどのようなものですか。

寺田彼日:
採用において最も重視しているのは、インテグリティ(誠実さ)です。情報セキュリティというお客様の信頼が第一の領域を扱っているため、ここは絶対に譲れません。その次に、AI活用の意欲や学習能力を重視しています。また、組織の中に強いカルチャーをつくるため、2028年頃から新卒採用も本格的に強化する予定です。日本の若い人たちが内向きにならず、どんどん外に出て可能性を広げていく。そんな挑戦の場を提供できればと思っています。

編集後記

「日本企業の存在感を取り戻したい」という使命感を抱き、大企業での安定を捨てて単身イスラエルへ飛び込んだ寺田氏。「失敗は検証であり前進」と語る前向きな姿勢が、同社が最先端の領域で躍進し続ける最大の理由だろう。「AIで働く人々・チームをエンパワーする」というミッションのもと、日本発のグローバルNo.1企業が誕生することに期待したい。

寺田彼日/AironWorks株式会社 代表取締役Co-founder and CEO。2014年に片道切符でイスラエルに渡り、現地でサイバーセキュリティ業界に従事。2021年、イスラエル国防軍諜報部隊Unit 8200出身者と共にAironWorksを共同創業。日本・イスラエル・米国を拠点に、AIネイティブなサイバーセキュリティソリューションを展開し、20カ国・1,300社以上の企業を支援している。