※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

ライク株式会社は、保育・人材・介護事業を軸に、現代社会が抱える構造的な課題に真っ向から取り組む企業だ。同社を率いる代表取締役会長兼社長 グループCEO の岡本泰彦氏の経営信念は、幾度もの事業転換と現場での泥臭い経験から培われた独自のものである。本記事では、岡本氏の起業に至るまでの足跡から、現在の事業が持つ圧倒的な強み、そして未来に向けた壮大な展望までを紐解いていく。どのような視点で幾多の壁を突破し成長を遂げてきたのか。その歩みに深く迫る。

起業への助走と現場至上主義の確立

ーーまずは、キャリアのスタートについてお聞かせください。

岡本泰彦:
学生時代から「サラリーマンを何十年も続ける」というイメージがどうしても湧きませんでした。そのため、就職活動ではあえて一番自分が辞めそうな、自分に合わないだろうと感じた銀行業を選択したのです。一般的な起業家のキャリアスタートとは少し異なるかもしれませんが、厳しい環境に身を置くことで自身を徹底的に鍛え上げたいという強い意志がありました。入行時には「石の上にも三年」という言葉を胸に、「3年は必死で働きますから、3年経ったら辞めます」と周囲に宣言していたほどです。当初は周囲の人も単なる冗談だと受け止めていましたが、その言葉通り必死に結果を出し続け、最終的には上司や同僚から強い引き留めにあいながらも、初志を貫き、3年半で退職を決意しました。

その後、起業に向けた次なるステップとして選んだのは、12名という小規模な旅行代理店でした。大企業では組織の一部としての役割しか経験できないと考えたためです。ここでは営業活動に奔走する傍ら、経理などの内部管理業務にも積極的に携わりました。営業の最前線からバックオフィスの経理まで経営の全体像を徹底的に叩き込み、一連の業務を丸ごと一人で担った経験は大きな収穫です。その後、起業家としての私にとって非常に大きな土台となりました。

ーー独立された当初はどのような事業からスタートしましたか。

岡本泰彦:
最初は、修行させていただいた旅行代理店での経験を活かし、旅行の企画業で独立しました。お世話になった前職のお客様と競合しないよう、旅行代理店を顧客とする「旅行の卸し」からスタートしたのです。しかし、旅行の企画業は手間がかかる割に収益性が低いという課題もありました。

ちょうどその頃、時代はまさにインターネットと携帯電話の黎明期を迎えようとしていました。そんな中、ご縁のあった方から「旅行代理店を束ねているのであれば、その販売チャネルで携帯電話を売ってみないか」と声をかけていただいたのです。それが大きな転機となりました。この携帯電話販売事業は予想を上回る爆発的な成功を収め、年間3,000万円ほどだった利益が一気に月3,000万円に跳ね上がるなど、会社に多額の利益をもたらしてくれました。

しかし、急激な成長と利益拡大を遂げる一方で、携帯電話販売というビジネスモデル自体が、通信キャリアの利権や世の中の流行に大きく左右されるという構造的リスクを抱えていることに気づいたのです。目先の多額の利益に固執することは簡単でしたが、この構造的リスクを察知した私は、自ら事業を売却するという戦略的撤退を決断するに至りました。目先の利益を捨ててでも、他社に決して真似できない強みを構築すべきだと考え、そこから得た潤沢な資金を元手に人材ビジネス、そして現在の弊社の主力となる保育・介護事業へと大きく舵を切ることに決めた次第です。

ーー現場の猛反発にはどのように対応したのですか。

岡本泰彦:
保育や介護事業へと本格的に展開していく中で、私は施設運営の難しさと、そこで働く人々の尊さを深く知ることになります。特に保育事業の立ち上げ当初は、保育の最前線に立つ園長や保育士たちから「本社は施設のことを何もわかっていない」と猛反発を受けました。専門職としての強い誇りとプライドを持つ保育施設で働く先生方にとって、本社のトップダウンの意向は、時に自分たちのやり方や信念を否定するものと映ってしまったのです。

そこで私は、強権的に本社のルールを押さえつけるのではなく、間に立って粘り強い対話を何度も重ねる道を選びました。「ライクグループとしてベーシックな部分は大切にしてほしいが、プラスアルファの特色は各園に任せる」という方針を掲げ、数年という非常に長い時間をかけて、現場の主体性を何よりも尊重する文化を築き上げていきました。この一つひとつの課題に真摯に取り組んできた経験を通じて確立されたのが、現在の経営スタイルの根幹をなす「現場至上主義」なのです。

事業の強みが生み出す圧倒的な競争優位性

ーー貴社の最大の強みについてお聞かせください。

岡本泰彦:
弊社の強みは、弊社が展開している事業そのものが「超労働集約型産業」であるという点です。現代の効率を重視するビジネスにおいて、労働集約型のモデルは敬遠されがちですが、私はこれを他社にはない最大の武器だと捉えています。最新のテクノロジーは数年で陳腐化し、常に新たな技術に取って代わられてしまいます。しかし、保育士や介護士といったエッセンシャルワーカーが提供する「人の手」による温もりや付加価値は、今後どれだけAIやロボットが進化しようとも、完全に代替することは絶対にできません。

現在、7,000名以上の専門職を抱える規模に成長しました。これだけの大規模かつ専門的な職能集団を一朝一夕に集め、適切に組織化することは他社には物理的に不可能であり、これが弊社にとって最大の強みとなっています。この「超労働集約型」という特性と、そこで働く圧倒的な数の専門人材こそが、他社の追随を許さない強固な参入障壁を生み出しているのです。

ーー施設側の業務負担やマネジメントといった課題にはどのようにアプローチされていますか。

岡本泰彦:
実は、保育施設のリアルな課題解決に直結した、独自の実践的なシステム開発力が、弊社のもう一つの大きな強みとなっています。保育業界は長らく紙の書類やエクセルに頼った非常にアナログな管理が主流であり、他業界に比べてシステム化が著しく遅れていました。

そこで弊社は、全国に展開する410以上の保育施設を最大限に活用し、施設で本当に使える使い勝手のよい管理システムを独自に開発しました。自社で運営している保育施設を巨大な実験場として機能させ、実際にシステムを日々使用する保育士たちのリアルな声や要望を細かく拾い上げながら、状況の変化に合わせて改善を繰り返しています。この徹底した改善の積み重ねによって洗練されたシステムは、今後のシステム外販時において、机上の空論で作られた他社システムに対する大きな差別化要因となっています。

ーー人材事業から保育・介護へと領域を広げた背景についてお聞かせください。

岡本泰彦:
2005年に上場を果たした際、通信業界向けの人材派遣という「一本足打法」のままでは、リスク管理の観点から非常に危ういと痛感したことが大きな転機です。特に当時の民主党政権下において「年越し派遣村」に象徴される派遣切りや雇い止めなどが社会問題化し、人材業界に対する世間の風当たりが強まりました。その流れから、きちんとした監督官庁が存在する領域でビジネスを展開する必要性を強く感じ、保育や介護への参入を決断したのです。

こうした決断を経て多角化を進めた結果、現在の弊社は社会インフラとしての側面を持つまでになりました。仮に弊社がなくなれば、運営する410か所以上の保育園や26か所の介護施設が行き詰まり、社会に大混乱を招いてしまうほどの影響力を持っています。それゆえに、「世の中から絶対に必要とされる存在であり続ける」という強い使命感を持っています。

また、これら3つの事業は相互に強力なシナジーを生み出しており、グループ全体で連携することで、さらなる付加価値を提供できる体制が整っています。

次なる成長ステージへ向けた壮大な展望

ーー保育や介護業界向けシステム事業について、今後の計画を教えてください。

岡本泰彦:
私たちは、自社内で実践を通じて磨き上げた独自開発システムを、今後の弊社における大きな成長エンジンとして位置づけています。業界に蔓延するアナログな慣習を打破するため、この自社開発システムを日本全国に数万あると言われる中小の保育施設等に向けて、広く提供していく計画を推進中です。大規模なシステム投資が難しい小規模な施設でも容易に導入できるよう、月額制のサブスクリプションモデルでの販売を検討しております。これにより、保育・介護業界全体の生産性向上とIT導入による働き方改革を強力に推進すると同時に、弊社にとっても新たな収益の柱を確立することを目指しています。

ーー改めて、貴社の今後の展望をお話しいただけますか。

岡本泰彦:
少子高齢化が進む国内市場にとどまることなく、私たちはアジア市場へと目を向けています。経済成長が著しい東南アジア諸国では、中間層の拡大に伴い、質の高い保育や介護サービスへのニーズが急速に高まっているのです。現在、インドネシアやベトナムなどの現地と提携し、私たちが培ってきた日本式の高品質な保育・介護オペレーションを輸出する計画が具体的に進んでいます。たとえば、施設の建設や不動産の確保は現地のパートナーが用意し、弊社がその中身であるオペレーションや人材育成を担うといったスキームです。

さらに、この海外展開は既存の事業間のシナジーを大きく飛躍させる構想へとつながっています。他の人材会社のように海外の人材を単に紹介するのではなく、現地できちんと自社で研修・スキルチェックを行った人材を日本へ迎え入れます。そして、まずは自社の介護施設で実践的なレベルチェックを行い、日本のきめ細やかなケアを身につけてもらった上で、自信を持って外部のお客様へ質の高い人材を送り出していく。

そのようなグループ独自の強みを活かした好循環を生み出したいのです。国内で長年培った確かなノウハウを水平展開するとともに、こうしたグローバルな人材の還流を創出することで、アジア市場における圧倒的な地位の確立を目指し、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。

ーー次なる成長ステージに向かうにあたり、具体的にどのような戦略で組織を強化されていますか。

岡本泰彦:
これまでお話ししたような壮大な事業展望を具現化するためには、何よりも「人」の力が不可欠です。そのため、弊社は採用戦略においても、業界の常識を覆す独自のシフトを見せています。「少数精鋭」という耳障りのよい不確実な言葉に頼るのではなく、まずは圧倒的な母集団を確保する「ボリューム戦術」へと大胆にシフトしているのです。採用段階で最初から完璧な人材を求めるのではなく、圧倒的な母集団の中からポテンシャル層をしっかりと見出し、実践的な経験を通じて育成していく仕組みづくりに全社を挙げて注力しています。特に、体育会系学生など、変化の激しい場所でも活躍できる根性のある人材の確保を最優先事項としています。大学のスポーツ部のスポンサー活動などを通じて学生と直接コンタクトを取り、粘り強く活躍し、未来のライクグループを背負って立つ人材を積極的に迎え入れています。

編集後記

銀行員時代から一貫して安住を良しとせず、常に変化と挑戦を求めてきた岡本氏の経営信念には、深い感銘を受けた。その視線は一過性の流行やテクノロジーに溺れることなく、人という最も普遍的で強力な資本にフォーカスし続けている。同社は「超労働集約型」をあえて最大の武器に変えた。徹底した現場至上主義で練り上げられたサービスと実践的なシステムは今後日本国内の業界構造を大きく変革していくことだろう。さらには、アジア全域の社会課題をも解決していく可能性を秘めている。変化を恐れることなく現場の声を大切にしながら新たな価値を創造し続ける同社の未来には、無限の可能性が広がっている。

岡本泰彦/1985年関西学院大学法学部卒業。銀行勤務を経て旅行会社に転職後、1993年に株式会社パワーズインターナショナル(現・ライク株式会社)を設立。旅行業から携帯電話販売店向けの人材派遣事業にシフトし、2023年8月、代表取締役会長兼社長グループCEOに就任。グループ企業に主力となる子育て支援サービス事業のライクキッズ株式会社、介護関連サービスのライクケア株式会社の代表取締役社長も務める。