※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

1998年にアメリカから帰国後、岡山大学病院での勤務を経て、2010年に経営難に陥っていた社会医療法人盛全会 岡山西大寺病院へ移籍した小林直哉氏。着任当時は病床の半分が空いている厳しい状況だった。しかし「救急要請を断らない」取り組みを継続し、新病棟を建設するまでに経営を立て直した。現在は岡山西大寺病院を中心に、透析医療や介護事業を多面的に展開している。さらには最先端の「異種移植」研究まで視野に入れている。地域医療の枠を超えて進化を続ける同法人の軌跡と、未来を担う組織づくりについて、小林氏に話を聞いた。

救急医療の最前線とアメリカでの経験 そして訪れた経営再建の任務

ーー貴院に移籍されるまでのご経歴をお聞かせください。

小林直哉:
2010年に盛全会へ移籍するまで、私は国内外の医療現場で多くの経験を積んできました。岡山大学病院で消化器外科医として歩み始め、その後赴任した大田記念病院では救急医長を務めました。当時は年間3,000件以上の救急患者を受け入れており、阪神・淡路大震災の際には災害派遣にも赴くなど、次々と運ばれてくる患者に対応する救急の最前線を経験しました。

その後、臓器移植を学ぶためにアメリカへ留学しました。実力主義の環境で大いに刺激を受け、帰国後は岡山大学病院に戻り、再生医療の研究リーダーや消化器がんの臨床を担当しました。そして2010年に縁があり、当時経営難に陥っていた弊院に着任したのです。

救急を受け入れ経営を再建 地域が求める医療を形にする

ーー経営難だった病院をどのように立て直していったのでしょうか。

小林直哉:
まず徹底したのが、「救急要請を断らない」という取り組みです。救急を受け入れ続けた結果、少しずつ病床が埋まり、それに伴って職員も増えていきました。また、救急要請を断らない体制を維持するため、新たに透析医療も立ち上げました。これは透析設備がないと受け入れられない患者様がいるためです。

さらに、自宅への復帰を支援する取り組みとして、365日対応のリハビリテーション体制も構築しました。こうした地域が求める医療を形にする行動の積み重ねが実を結び、ベッドの増床や新病棟の建設など、経営再建へとつながっていきました。

介護と透析を組み合わせた拠点展開 地域医療を支え抜く戦略

ーー経営再建を果たした現在、貴院が持つ強みと今後の戦略を教えてください。

小林直哉:
弊院の強みは、地域の方々が必要とする医療を網羅的に提供できるバランスの良さです。整形外科や消化器外科、救急、透析など、幅広い分野をそろえ、地域医療の中心的な役割を担っています。多数在籍する臨床工学技士が各部署の業務を支援し、質の高い医療を効率的に提供する体制を整えているのも特徴です。

現在進行形の取り組みとしては、長期療養が可能な入院透析に対応できる附属中野分院の拡充を進めています。そして将来的には、弊院を中心として介護事業所と透析のサテライト施設を同心円状に広げていきたいと考えています。身近な場所で医療と介護のサービスを一体的に受けられる拠点を展開し、地域の生活を面的に支えていく戦略です。

異種移植研究への挑戦 新たな領域を開拓する人材像

ーー多面的な戦略を支える組織づくりにおいて、どのような工夫をされていますか。

小林直哉:
スタッフが自ら学び、枠にとらわれずに挑戦できる環境づくりを徹底しています。たとえば、職種の垣根を越えて意見を交わす会議を定期的に開催したり、弊院にない技術を学ぶために、外部の優れた施設へ数ヶ月間の研修に送り出すこともあります。

さらに、理学療法士が介護支援専門員の資格を取得して介護事業所の立ち上げを担うなど、適材適所の人員配置を推進しています。臨床工学技士を事務長候補として育成する取り組みも行っています。年功序列を廃止し、意欲ある若手に役職を任せることで、組織全体を活性化させています。

ーー最後に、今後の医療にかける展望と、ともに働く仲間に求めるものを教えてください。

小林直哉:
まずは地域医療を強固に支え抜くこと、それに加えて、自身の研究の原点である「豚の異種移植」をはじめとする最先端の医療にも取り組んでいきたいと考えています。近年の遺伝子医療の進歩により、豚の臓器を人へ移植する技術は現実のものとなりつつあります。地方の病院であっても、最先端の研究や先進医療に挑戦できる基盤をつくる予定です。

私たちが求めているのは、与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら課題を見つけて行動できる方です。地域医療を守りながら、新しい事業や最先端の領域に挑む。そのような環境で、ともに新たな挑戦を楽しんでくれる仲間をお待ちしています。

編集後記

厳しい経営状況から、持ち前の行動力と救急医療の経験を活かして病院を再建した小林氏。その道のりは決して平坦ではなかったはずだが、現場を知り尽くした指揮官としての揺るぎない覚悟が取材を通して伝わってきた。地域医療の充実という足元を強固に固めながら、多面的な拠点展開や最先端の異種移植研究といった新たな展望を描いている。現状に満足せず、次の一手を打ち続ける力強い歩みは、これからの医療業界において確かな希望となるだろう。

小林直哉/1961年10月18日、広島県生まれ。1987年、岡山大学医学部卒業。1992年、岡山大学大学院医学研究科修了(医学博士)。岡山大学医学部外科学第一講座を経て、米国ネブラスカ州立大学医療センターにて臓器移植や再生医療に従事。2008年、岡山大学医学部附属病院第一外科講師として勤務したのち、2010年に社会医療法人盛全会 岡山西大寺病院院長。2012年より同病院理事長。