※本ページ内の情報は2026年5月時点のものです。

大和証券で30数年にわたり営業の最前線に立ち、支店長などを歴任した河合淳氏。グッドタイムリビング株式会社の代表取締役社長に就任を機に、約3年前に介護業界へ飛び込むこととなった。適正な利益を確保した上で高いサービス品質とスタッフの処遇を守る改革を推し進める。全社一体となってつくり上げた「人生に、グッドタイムを。」というブランドメッセージを掲げ、ICT活用や新たなキャリアパス構築にも注力している。証券業界で培ったマネジメントと現場重視の精神で介護業界に新風を吹き込む河合氏に、現在と未来の展望をうかがった。

異業種から見えた「自社愛」とそれを活かす可視化のマネジメント

ーーまずは、ご自身のキャリアの原点についてお聞かせください。

河合淳:
私のキャリアは、新卒で入社した大和証券から始まりました。入社してからは30数年間にわたって営業の現場に携わり、複数の支店で支店長を務めました。その後、京都支店の資産コンサルタント第二部長を経て、大和証券グループで有料老人ホーム等を運営する弊社への異動を拝命し、2023年4月付けで弊社代表に就任しました。

長年証券業界にいたので、介護業界への着任辞令は、はっきり言って青天の霹靂でした。私自身、介護に関する知見があったわけではないため、最初は「どのように知識を吸収していこうか」と、全くの手探り状態からのスタートだったのです。

ーーそんな状況の中で、まず何から取り組まれていったのですか。

河合淳:
現状を把握するため、各ゲストハウス(※)のマネージャークラスや本社でサポートしているスタッフたちと面談を重ねることから始めました。その対話の中で気づかされたのは、皆さんが自分の会社を本当に好きだということです。自分たちが考える「グッドタイムリビングらしさ」に対するプライドや、深い自社愛を多くのスタッフが持っている。そういった熱い思いを持つスタッフが多いことに触れ、これが弊社の強みであり素晴らしい点なのだと感じました。

(※)グッドタイムリビングでは、ご入居者を「ゲスト」、ゲストの住まいを「ゲストハウス」とお呼びしています。

ーー証券業界でのマネジメント経験は、現在の経営にどのように活かされていますか。

河合淳:
大和証券時代、プレイヤーからマネージャーに変わったとき、私は「スタッフをきちんと見て、その活躍や力を可視化し、承認する」ということを一番大切にしていました。この姿勢は現在も変わっていません。証券業界で培った数字をベースとする視点を持ちつつも、スタッフの頑張り(プロセス)を正当に評価し、個々の力を発揮できる環境を整えること。それこそが、人を動かすために最も大切なことだと考えています。

その一環として、2024年度に大きな組織体制の変更を行いました。これまで「ゲストハウスで働く人は、そこで経験を重ねてキャリアを築いていく」という感覚が強かったのですが、現場を知る優秀な人材こそ、弊社の未来を担うべきだと考えたのです。そこで、各ゲストハウスで培った知見や影響力を持つ方々を、本社でマネジメントを担う部署へ登用しました。ゲストハウスのオペレーションに慣れた人材と、従来の本社スタッフをミックスさせることで、新しいキャリアの道筋をつくっています。

「利益」と「質」の両立 そしてボトムアップで生まれたパーパス

ーー介護業界における課題は何だとお考えですか。

河合淳:
福祉や介護の業界では「良いサービスを提供することが一番で、利益は二の次」という考え方もありますが、私たちはその甘えを捨てなければならないと考えています。適正な利益を出さなければ、質の高いサービスを継続し、スタッフの給与や働く環境といった処遇を守ることはできないからです。私が各ゲストハウスを見て素晴らしいと感じたのは、「利益を追求すること」と「弊社のクオリティを維持していくこと」、この2つが両立してこそ意味があると腹落ちしている意識の高いスタッフがいることです。この「利益」と「質」の幸福な両立をおもしろいと思える優秀な人材にこそ、会社をリードしてもらいたいと考えています。

また、社内の各セクションが縦割りで施策を決めるのではなく、セクション間の連携を深めることも重要であると認識しています。たとえば、営業部では、入居を検討されている方へゲストハウスやサービスのご案内を行っていますが、案内側と受入れ側のゲストハウスとの間に認識の齟齬が生じないよう、定期的にミーティングを実施しています。さらに、営業部と各ゲストハウスを統括する運営事業部との間でもミーティングを行い、方針や情報共有を図っています。また、ゲストの増加やスタッフの退職等により、介護職をはじめとするゲストハウスのスタッフをタイムリーに補充する必要が生じます。そのため、各ゲストハウスを統括する運営事業部と採用チームとのミーティングも重視しています。

ーー貴社が掲げるブランドメッセージは、どのようにして生まれたのですか。

河合淳:
弊社では2023年に、パーパスと、その実現に必要な考え方やメッセージを含む全体の枠組みを策定しました。私たちが掲げる「人生に、グッドタイムを。」(※)というブランドメッセージもその一部です。これらはトップダウンではなく、東西の施設長から選出されたメンバーと本社のブランド戦略部署が、半年をかけてスタッフの声を集約しながらつくり上げたものです。その中で、お客様との約束として「ゲストの身体を支えるだけではなく、心を支え、ご家族を支えます。」「安心と賑わいのある“グッドタイム”を提供します。」と掲げています。

さらに、従業員満足度の観点から「私たちは輝きます。ゲストが輝くために。」という言葉も入れました。ゲストの「賑わい」を生み出すためには、まず働くスタッフ自身が「輝き」を持っていなければならないからです。ゲストとスタッフ、双方の幸福をセットで追求する姿勢を込めています。

(※)グッドタイムリビングでは、高齢期を「グッドタイム(人生最良のとき)」と考え、安心と賑わいのある高品位な暮らしを実現する高齢者の住まいをご提供しています。

ICTは「心のゆとり」を生む道具 ゲストハウスから広がる新たなキャリアパス

ーー働きやすい環境づくりのために、テクノロジーはどのように活用されていますか。

河合淳:
弊社が導入を進めているICTは、直接的な介護を代替するものというより、バックオフィスの事務作業を軽減するシステムが中心です。たとえば、請求システムを刷新し、各ゲストハウスでの業務負荷を減らす取り組みを進めています。その目的は決して単なるコストカットではありません。業務を効率化して浮いた時間を、ゲストとの深い対話や、その人の望みを叶えるための「クリエイティブなケア」に充ててほしいのです。ICTは、スタッフに「心のゆとり」を生み出すための道具だと捉えています。

ーースタッフの方々には、どのような「ケア」を期待されているのでしょうか。

河合淳:
たとえば、お部屋に閉じこもりがちなゲストに対して、無理に外へ促すのではなく、さりげなくお茶飲みに誘ったり、気の合いそうな他のゲストとの時間をセッティングしたりする。そうやって楽しみを見出してもらうための創意工夫こそが、この仕事におけるクリエイティビティです。忙しすぎるとこうした工夫ができなくなってしまうため、スタッフが相談し合いながら実践できる環境を維持したいですね。

ーー今後の人事評価制度や、求める人物像について教えてください。

河合淳:
「介護職はゲストハウスでキャリアを積むもの」という固定観念を壊し、ゲストハウスから本社マネジメント層への道筋を整備するなど、キャリアの複線化を進めています。介護の実務で専門性を極めたい人もいれば、管理職として組織を動かしたい人もいる。多様なキャリアを選択できる組織づくりを推進しているところです。私たちが求めるのは、相手の喜びを自分のやりがいへつなげ、相手の価値観を尊重できる人です。さらに、現状に対し主体的に改善策を考え、実行できる方に来ていただきたいですね。「人の話を聞く」というコミュニケーションの基本を大切にできる方とともに、これからのグッドタイムリビングをつくっていきたいと願っています。

編集後記

異業種から介護業界のトップに就任した河合氏。証券業界で磨かれた思考と、「適正な利益を出してこそ高い品質とスタッフの処遇が守れる」という現実的な視座が、同社の経営を力強く牽引している。「利益」と「質」の両立を面白がる社風の中、働くスタッフの誇りを称賛し、活躍を可視化しようとする姿勢には深い人間愛が滲む。事務作業をICTで効率化し、その時間をゲストへの「クリエイティブなケア」に振り向ける考え方は、福祉における真の豊かさを教えてくれる。多様なキャリアパスが整備され、自律的に動けるスタッフが増えることで、同社がどのような進化を遂げるのか未来が非常に楽しみだ。

河合淳/1967年大阪府生まれ。1991年関西学院大学卒業後、大和証券株式会社に入社。複数の支店長を歴任し、2021年4月に京都支店資産コンサルタント第二部長に就任。2023年4月にグッドタイムリビング株式会社代表取締役社長に就任。