
高品質な輸入生地や刺繍、レースを贅沢に用いた婦人服を展開する株式会社インポートロッサ。創業以来、妥協なきものづくりを貫き、独自の世界観を大切にしながら、長く顧客に支持されてきた。一方で、長年同社の服を愛用してきた顧客とともに歩みを重ねる中で、次の世代へ価値をどうつないでいくかという新たな課題にも向き合っている。創業者から事業を引き継いだ同社代表取締役社長の宇野武氏は、この現実と真摯に向き合いながら、伝統を守りつつ次世代に向けた変革を進めている。長年の顧客を大切にしながら新たな世代へどう広げていくかという挑戦、そして現場の声から生まれた新規事業の裏側に迫る。
高品質なものづくりが生む、唯一無二の世界観
ーー社長に就任されるまでの経緯を教えてください。
宇野武:
「ロッサ」は1957年にテイラーとして前会長の吉田貞子が創業しました。お客様一人ひとりのニーズに寄り添った丁寧な服づくりの姿勢は、創業当時から現在まで変わらず受け継がれています。
前会長は私の母の伯母にあたり、幼い頃から孫のように可愛がっていただきました。父も会社に在籍していたため、物心ついた頃から「ロッサ」と「服づくり」はとても身近な存在でした。「自分もこの会社の役に立ちたい」という思いから、2003年に入社しました。
当初から社長を目指していたわけではありませんが、当時の社長であった吉田と事業承継について話し合う中で、誰かがこの会社の歴史を受け継ぎ、未来を築いていかなければならないと考えるようになりました。吉田が会長に就任したことをきっかけに、私が後を継ぎ社長となりました。
ーー貴社の事業内容と、ものづくりにおけるこだわりについてお聞かせください。
宇野武:
大人の女性をターゲットに、生地や刺繍、レースなど素材にこだわった商品づくりを行っています。私たちのものづくりの中心にあるのは、決して妥協しないという姿勢です。例えば、コストを抑えるために安価な生地で代替するということはしません。デザイナーが海外の展示会に足を運び、ハイブランドでも使われるような高品質な生地を直接買い付けます。そうして選び抜いた素材を、贅沢に用いています。その価値をお客様にきちんとお伝えし、ご理解いただいたうえでお買い求めいただくことを大切にしています。
ーー品質ゆえの価格設定かと思いますが、その価値をどのように伝えていますか。
宇野武:
「品質を下げてまで安く売る」という選択肢は、私たちにはありません。大切なのは、なぜその価格なのか、素材や縫製の価値をきちんとお伝えすることです。一般的なアパレルと比べると価格帯は上がりますが、素材や品質に見合った価格設定をしています。「良いものを適正な価格で提供している」。その事実を作り手と売り手が自信を持って語り、納得していただく。それが私たちのスタイルです。
ーー長年愛用されるお客様が多い理由はどこにあるのでしょうか。
宇野武:
独自性のある商品なので、一度気に入っていただくと「他ではなかなか出会えない服だ」と感じていただけるようです。その世界観の芯はぶらさず、自分たちが本当に良いと思うものを作り続けてきました。万人に受ける商品ではないかもしれませんが、価値を理解してくださるお客様と長く深い関係を築くことができています。その関係が、親子二代、三代と受け継がれるブランドにつながっているのだと思います。
お客様と共に歩むブランドのリアルな課題と挑戦

ーー現在の主な顧客層について教えてください。
宇野武:
長くご愛顧いただいているお客様が多く、同社の歩みとともに関係を築いてきてくださった方々に支えられているのが特徴です。長年のお付き合いを続けてくださるお客様が多いことは、私たちにとって何よりの誇りであり、ありがたいことだと感じています。その一方で、今後に向けて顧客層の広がりをどのように生み出していくかも重要なテーマになっています。
ーーそうした状況を踏まえて、今後どのような取り組みが必要だとお考えですか。
宇野武:
その点については、これまでのやり方にとらわれず、伝え方や見せ方も含めて工夫していく必要があると感じています。そのうえで、これまでロッサに触れてこなかった方にも魅力を知っていただけるよう、取り組んでいきたいと考えています。
ーー新規顧客を獲得するために、どのような取り組みをされていますか。
宇野武:
既存のイメージを大きく変えることは簡単ではありません。新しいお客様に向けた商品を加えるだけでは、なかなか届きにくいのが実情です。そこで、これまでのラインナップを大切にしながら、その一部を新しいお客様にも魅力を感じていただける商品へと広げる取り組みを、2020年秋冬から始めました。品質を下げることなく、企業努力によってコストを工夫しながら、新しい価値を提案していきたいと考えています。
現場の声が原動力 新ブランド誕生の裏側
ーーターゲット層を広げるための具体的な取り組みについてお聞かせください。
宇野武:
新たな取り組みとして、昨年の春にスポーツウェアを展開しました。きっかけは、店舗の販売スタッフが拾い上げた「ゴルフ場のクラブハウスに着て行ける、シワになりにくくてお洒落なジャケットが欲しい」というお客様の声です。現場で感じたリアルなニーズをもとに、プロジェクトがスタートしました。
ーー反響や、立ち上げまでの道のりはいかがでしたか。
宇野武:
反響については、まだこれからという段階ですね。立ち上げて間もないこともあり、現在は形にして市場に出していくフェーズだと捉えています。立ち上げにあたっては、新しい領域への挑戦でもあり、簡単ではありませんでした。スポーツウェアは婦人服とは求められる技術やノウハウが大きく異なるため、試行錯誤しながら進めてきました。また、商品コンセプトについても、店舗スタッフを含めたプロジェクトメンバーと、約1年にわたり意見交換を重ねながら固めてきました。
ーーその結果、どのような商品が生まれたのでしょうか。
宇野武:
ジャケットというニーズが出発点ではありましたが、そこから発想を広げ、パンツやシャツも含めたトータルウェアとして展開しています。一般的なスポーツブランドとは異なり、ファッション性と機能性を兼ね備えた、スタイリッシュでありながら動きやすいウェアに仕上がっています。現場の声を起点に、プロジェクトメンバーで議論を重ねてきたことで、これまでにない新しい価値が生まれていると感じています。
次世代へつなぐための組織改革と未来への展望

ーー今後の会社を託す次世代のリーダーには、どのような要素を求めていますか。
宇野武:
私が創業者から会社を引き継いだのは49歳のときでした。振り返ると、もう少し早い段階でバトンを受け取っていれば、さらに多くの挑戦ができたのではないかと感じています。だからこそ、次の世代には30代や40代前半といった早い段階でチャンスを渡したいと考えています。アパレルのようなものづくりの世界では、柔軟な発想や新しい感覚が欠かせません。まだ具体的な候補者が決まっているわけではありませんが、会社の未来のためにも、後継者の育成には早い段階から取り組んでいきたいと考えています。
ーー最後に、今後の展望と、目指す組織のあり方についてお聞かせください。
宇野武:
経営面では、より幅広いお客様にロッサの魅力を届けるとともに、ECと実店舗の両軸で安定した収益を生む体制を築いていきたいと考えています。そして何より、社員一人ひとりが誇りと楽しさを感じながら働ける会社でありたいと思っています。トップダウンだけで動くのではなく、自由な発想で意見を出し合える風土を育てることで、会社はさらに良い方向へ進んでいくと信じています。
編集後記
顧客と共に時を重ね、その価値を深めていく。それは多くの老舗企業にとっての誇りであると同時に、新たな挑戦が求められる局面でもある。同社は、この現実から目を背けることなく、伝統の“ものづくり”という芯を守りながら、次の時代へ歩みを進めている。現場の声を原動力に新たな取り組みを形にしてきた宇野氏の姿勢からは、変化を恐れない柔軟な経営のあり方が感じられた。顧客を大切にし、社員を信じる。その姿勢こそが、これからのロッサを支えていくのだろう。

宇野武/1971年大阪府生まれ、米国シアトル大学卒業。2003年に株式会社インポートロッサ入社。商品管理、店頭販売、総務事務を経て2012年に同社取締役に就任。経理、財務を担い、2021年に代表取締役社長に就任。
▶過去記事を読む【幾重にも「美の本質」を重ねて。未来へと紡いでいく「ロッサ」ストーリー】