※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

「ひと握りの才能ある者しか報われない」という業界の構造的課題を変えるべく、2007年に株式会社クリエイターズマッチを創業した呉京樹氏。創業直後の危機を「教育」と制作プロセスの資産化(特許技術)によって乗り越え、見事に事業を立て直した。AI台頭でモノづくりが激変する中、同社は創業20周年を迎える今、産業を支えるインフラ企業へと進化します。これまでの軌跡と今後の展望、ともに未来を創る仲間に求める思いを聞いた。

ひと握りの才能ある者しか報われない業界を変える 起業の原点と初期の挫折

ーーまずは、起業の原点についてお聞かせください。

呉京樹:
「一部の天才しか報われない」という、クリエイティブ業界の構造的な課題への危機感が原点です。私はもともとゲーム会社や映像制作会社でデザイナーをしていたのですが、当時の業界は非常に労働集約的な環境でした。どれだけ時間をかけても良い作品が生まれるとは限らない中で、長時間の残業が常態化していたのです。クリエイターの生活環境や、それに見合った報酬の基準も明確に定義されていませんでした。

また、教育モデルが不在だったことも大きな課題でした。先輩の背中を見て育つような職人的な文化が根強く、成功の論理が言語化されていなかったのです。こうした状況を打破し、クリエイターが商業デザイナーとして自立し、しっかりと生活できる社会や仕組みをつくる必要があると強く感じたことが、現在の会社を立ち上げるきっかけになりました。

ーーそこからどのように起業へと至ったのですか。

呉京樹:
制作の供給量と品質を安定させる仕組みを構築したことが大きいですね。フリーランスのクリエイターが活躍できる市場をつくれないかと考えていた矢先、インターネットのバナー広告が急増する兆しがありました。2007年当時は純広告からアドネットワークへと移行する過渡期であり、バナーの制作量が爆発的に増えると予見しました。

そこで、フリーランスクリエイターのネットワークとバナー制作の市場を掛け合わせたのです。圧倒的な仕事の供給量を生み出し、多くのクリエイターの雇用を守れると考えました。外部の教育機関に直談判し、5万人の卒業生ネットワークを基盤にして事業をスタートさせました。

ーー事業の立ち上げは、順調に進みましたか。

呉京樹:
わずか半年で事業破綻の寸前にまで追い込まれました。広告代理店などからの需要は非常に高く、大量の仕事の依頼が舞い込みましたが、肝心のクリエイター側が追いつかなかったのです。仕事のある優秀なクリエイターはネットワークに頼る必要がありません。集まったのは実績やスキルがまだまだ浅い方々ばかりで、結果として、クリエイティブの品質も納期を守るというビジネススキルもお客様の要求に応えられませんでした。すべての仕事をお断りすることになり、大きな挫折を味わいました。

失敗から学んだ「教育」の重要性とプロセスを資産化する特許技術

ーーその困難な状況から、どのように立て直したのでしょうか。

呉京樹:
一からクリエイターを育てる教育事業へ舵を切りました。失敗の原因は、教育を怠り、ネットワークをつくっただけで「できる人がいる」と思い込んでしまったことです。そこで翌年から、スキルとビジネス双方の教育事業へと方針転換しました。

私たちが手掛けるのは、単なるツールの使い方ではなく、論理的なクリエイティブ思考を身につける教育です。自社で教育を担うことで、「顔の見えるクリエイター」のネットワークを構築し、品質と信頼を担保できる仕組みをつくったのです。現在では月間2000本超の制作物を、属人性を排して安定供給できる基盤になっています。

ーー属人性を排して安定供給できる基盤とは、具体的にどのようなものですか。

呉京樹:
制作過程を可視化・資産化する管理ツール「AdFlow(アドフロー)」です。根幹にあるのは、特許取得済みの「プロセスベースデザイン」という思想。個人の好みに左右されやすい「完成品」の評価ではなく、「誰と議論し、どう思考して修正したか」という過程こそが重要です。この過程をデータとして蓄積することでデザインの再現性を高め、クリエイターの深い思考プロセス自体を価値として評価する仕組みをつくりました。

AI時代を生き抜くあらゆる「ものづくり」を支えるインフラへ

ーーAIの進化についてどのように考えていますか。

呉京樹:
人間がより良くつくるためのデータこそが、今後の優位性になると捉えています。AIにより数秒でデザインができる時代になり、弊社の主戦場であったバナーやLP制作なども少なからず影響を受ける危機感はあります。しかし、クリエイターという定義を「ものをつくる人」と広義に捉えれば、AIには置き換えられない領域がまだ多く存在するのです。AIが機能的な価値を担う時代だからこそ、人間がより良くつくるためのデータや、試行錯誤した過程の価値はむしろ高まります。

ーー新サービス「TaskRelay」について教えてください。

呉京樹:
あらゆる産業の属人化を防ぐ新たなツールです。AdFlowはデザイン管理に特化していましたが、Task Relayは建設や製造、商品管理など、あらゆる「ものづくり」の現場における作業履歴を管理します。クリエイティブ領域で培った工数管理のノウハウを活かし、最適な過程を可視化するという本質は同じです。

AdFlowは月額20万円からという大手企業向けの価格設定でした。一方、Task Relayは1アカウント2400円と導入のハードルを下げています。中小企業を含めた全産業への横展開を進めており、これが次の10年に向けた大きな挑戦です。

「当事者」として自ら事業を牽引し理念をともに実現する仲間を

ーー今後、組織を牽引していく営業責任者候補には、どのような要素を求めていますか。

呉京樹:
自ら事業を牽引し、組織を更新できる「事業家」としての視点です。第一に、クリエイティブやものづくりに対する強い敬意を持っていることが不可欠です。弊社の事業は、クリエイターが抱える業界の不条理を解決したいという使命感から始まっています。そこへの共感と誠実さがなければ、この仕事は務まりません。その上で、与えられた仕組みの維持や管理に留まるのではなく、高い当事者意識を持って、率先して事業を引っ張るリーダーシップを持つ方を求めています。

ーー最後に、今後の展望についてお話しいただけますか。

呉京樹:
すべての「ものづくり」に携わる人が、正当に評価され豊かに働ける社会の実現を目指しています。創業時から「Creator First, Creative Change.」という指針を掲げ、クリエイターの未来を豊かにするという目標に一切嘘をつかずに歩んできました。現在は地方自治体と連携した教育や雇用創出など、社会的意義のある活動にも取り組んでいます。デザイン業界にとどまらず、あらゆるものづくりに携わる人々を救うプラットフォームを実現するため、これからも揺るがずに挑戦を続けていきます。

編集後記

クリエイティブ業界が抱える構造的な課題に対し、真正面から挑み続ける呉社長。創業直後の事業破綻という挫折から逃げることなく、「教育」という本質的な解決策を見出し、事業を立て直した軌跡がうかがえる。AIの台頭という環境変化に対しても「プロセスベースデザイン」の思想で適応し、建設や製造などあらゆるものづくりのインフラへと事業を拡張する現在のフェーズは、まさに第2創業期と呼ぶにふさわしい。理念と事業の両輪を回す同社で、ともに「クリエイターが輝ける社会」をつくり上げる新たなリーダーの誕生に期待したい。

呉京樹/デジタルハリウッドを卒業後、ゲーム会社・映像制作会社にてデザイナーとして活躍。その後、営業としてソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社に入社。営業マネージャーを経て、2006年独立。Web制作会社の創業を経て、オンライン広告の拡大を予測し、バナー・LPの制作に特化した株式会社クリエイターズマッチを2007年に設立。同社代表取締役。