
パソコンを持たないエッセンシャルワーカーでも、スマートフォンのみで確定申告が完結する。そんなアプリで注目を集めるのが、株式会社タックスナップだ。代表取締役CEOの田中雄太氏は、プロサッカー選手を目指す過程での挫折を原動力にビジネスの世界へ飛び込み、全社初の営業記録を樹立するなどの成果を上げてきた。VC(ベンチャーキャピタル)での投資実務を経て、なぜ自らリスクを背負う起業の道を選んだのか。少数精鋭でアプリランキング1位を獲得する同社の強みと、個人事業主のバックオフィス業務を支えるインフラ構築への思いに迫る。
プロサッカー選手への挫折からビジネスの最前線へ
ーーまずは、ファーストキャリアについて教えていただけますか。
田中雄太:
サッカーでの挫折をバネに、ビジネスの世界で経営能力を身につけようと考えたことが原点です。私は5歳から18歳までサッカーに打ち込み、中学時代はFC東京のジュニアユースに所属していました。しかし、私はその後、怪我や実力の壁にぶつかり、プロへの道を断念しています。
この挫折経験から、自分のアイデンティティであるサッカーへの情熱をビジネスの世界で活かしたいと考えました。そしてトップをとることを決意したのです。「20代でプロサッカークラブの経営者になる」という目標に向け、まずは確固たる経営能力を培う必要がありました。そこで、起業家精神の強い会社を選び、メディア営業に従事しました。
ーーそこから起業を決意するまでに、どのような経緯があったのでしょうか。
田中雄太:
営業経験を積んだ後、VC(ベンチャーキャピタル)へ転職したことが大きな転機となりました。VCではさまざまなスタートアップ企業の経営者と関わったのですが、特に印象的だったのが、コロナ禍で存続の危機に立つ企業の資金調達を支援したときのことです。私自身もサポートに奔走したものの、最終的に企業を救ったのは、社長自身が見つけてきた出資話でした。
この出来事を通じて、企業が生きるか死ぬかの局面において、投資家はあくまで資金を提供する立場にすぎず、起業家と全く同じ視点に立ちきれないことを痛感しました。「私は当事者になりきれない」という、投資家と起業家の間にある温度差に強い葛藤を覚えたのです。この違和感から、自らリスクを背負ってでもゼロから事業をつくる「当事者」になりたいという思いが確信に変わり、起業する道を選びました。
スマホ完結 個人特化で削ぎ落とした操作性
ーー「タックスナップ」の特長について教えてください。
田中雄太:
スマートフォンのみで全行程が完結する点と、対象を個人事業主に絞り込んでいる点の2つです。既存の会計ソフトはパソコンの使用を前提としたものが多く、エッセンシャルワーカーには導入のハードルがあります。弊社は、スマホ一つで記帳から提出まで簡単に利用できる設計を構築しました。
また、法人対応をあえて行わないことで、機能の複雑化を防いでいます。個人事業主のニーズに特化し、スワイプ操作で仕訳ができるなど、直感的な操作性を追求しました。この徹底した対象の絞り込みにより、現在は正社員8名という少数精鋭の組織ながらも、従業員一人あたりの売上高は高く、優れた生産性を実現しています。アプリランキングでも1位を獲得する規模へと成長しました。
ーーユーザーは日々の業務の中でどのようにアプリを活用しているのですか。
田中雄太:
移動中や休憩中などの「スキマ時間」に、SNSを見るような感覚で使っていただいています。タックスナップの最大の特徴は、金融機関と連携した支出データをもとに、AIが自動で経費の勘定科目を推測する「丸投げ仕分け」の仕組みです。ユーザーは同職種の仕訳データによって、自動で経費かどうかも下処理された仕訳結果を眺めて、修正したいものだけチェックするだけで仕訳が完了します。これにより従来1件60秒かかる経費処理が、タックスナップなら1,000件が最短3秒で終わります。
私自身がかつてフリーランスとして活動していた時期、正確に記帳しようとすると簿記3級程度の知識が必要となり、本業の時間を圧迫する大きな負担だと感じていました。その原体験があるからこそ、これまでの会計ソフトにあった「ユーザーが考え、入力する前提」を崩すことに徹底的にこだわりました。簿記の知識が一切なくても、親指一つの直感的な操作で日々の経理が終わる。この手軽さが、確定申告につきまとう「面倒」「難しい」という精神的なハードルを大きく下げていると自負しています。
個人事業主の「インフラ」となり新卒フリーランスを当たり前に

ーー今後のサービス展開や、目指す社会についてお聞かせください。
田中雄太:
個人事業主が本業に集中できるよう、バックオフィス業務をすべて完結させる「インフラ」となることです。現在はAIを活用し、ユーザー一人ひとりに最適化された次世代の会計体験へのリニューアルを進めています。長期的な目標は、2030年までに個人向けの会計ソフトとしてユーザー数ナンバーワンになることです。
さらに、確定申告にとどまらず、保険や年金、ローン、契約管理などを弊社のサービス内で完結できる仕組みをつくります。事務作業の煩雑さという独立のハードルをなくし、「新卒フリーランス」が就職と並んで当たり前に選ばれる社会を目指しています。
ーー社長ご自身の最終ゴールについてはどのようにお考えでしょうか。
田中雄太:
ビジネスで成功を収めた先に、私のルーツであるサッカー界へ貢献することを目指しています。常に目標は更新し続けていますが、この根底の思いは変わりません。タックスナップの事業を通じて社会に大きな価値を提供し、確固たる経営実績を積む。そして40代でグローバルなプロサッカークラブのオーナー経営者となり、ワールドカップのクラブ版で優勝する。これが私の最大の野望ですね。
編集後記
「確定申告の煩雑さが個人の挑戦を阻む」。そんな社会課題に対し、自身の原体験から「簡単に出来る確定申告」という最適解を提示した田中氏。タックスナップは単なる便利ツールを超え、挑戦者を守る「インフラ」へと着実に進化している。起業家としての泥臭い熱量と、プロサッカークラブオーナーという壮大な野望に向けて突き進む姿に圧倒されるインタビューだった。「新卒フリーランス」が就職の選択肢として当たり前になる未来は、彼らの手によって案外すぐそこまで引き寄せられているのかもしれない。

田中雄太/早稲田実業高校卒業。早稲田大学在学中に米オレゴン州の大学へ交換留学。新卒で株式会社じげんに入社し不動産メディアの営業を担当。その後VCの株式会社サムライインキュベートにてイスラエルスタートアップへの投資・FA事業に従事。2022年11月、個人事業主向けAI確定申告アプリ「タックスナップ」を提供するべく株式会社タックスナップを創業。累計16億円の資金を調達。