
ポーラ・オルビスグループの100%子会社として、2023年に設立された株式会社ポーラメディカル。「ドクター向けの美容医療領域」と「画像解析技術を活用したヘルスケア領域」を軸にテクノロジー主導の事業展開を進めている。なかでも、暑熱対策ツール「カオカラ®」は、建設現場などにおける安全・衛生管理という社会課題にアプローチするプロダクトとして注目を集めている。エビデンスを重視した価値提供と、新たな市場をつくる「関係経済」を掲げる、同社代表取締役社長の松本剛氏に、自身の原点と今後の展望をうかがった。
最初の3年で培われた「ファクト」への執着
ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせいただけますか。
松本剛:
学生時代に化粧品と創薬の両方にまたがる研究をしていたことから、その双方に携われる会社としてポーラ化成工業株式会社に入社しました。入社後、最初の3年間で担当したのは化粧品の中身の分析業務です。当時は現在のような全成分表示の義務がなく、他社の製造手法が不明確な時代。だからこそ、計測機器を用いた技術的なアプローチで中身を徹底的に解析していました。この地味とも言える分析の積み重ねこそが、今の私のベースです。きっちりとファクトを掴み、データに基づいて物事を判断する。その姿勢は、この3年間で深く自分の中に根付きました。
ーーその後のキャリアはどのように進んだのでしょうか。
松本剛:
その後、分析技術を活かして健康食品の基礎研究をリードする部署へ異動し、そこで十数年携わることになります。肌への機能が確認された特定保健用食品「ディフェンセラ」の開発などについて、基礎試験からリードしてきました。さらに皮膚科学の基礎研究部隊のマネジメントや、知財、薬事、安全性、研究戦略などの統括をひと通り経験しています。
さまざまな部署を経てきましたが、私の根本にある強い思いは変わりません。それは、「エビデンスに基づいて世の中に意味のある活動をし、価値を提供したい」ということ。この信念が、現在の経営判断の軸にもなっています。
「美容医療領域」と「ヘルスケア領域」 エビデンスを軸にした2つの事業展開

ーー改めて、現在の貴社の事業内容について教えてください。
松本剛:
私たちは、その「エビデンス」を武器に、「肌ソリューションカンパニー」として世の中に貢献することを目指しています。具体的には、人の肌を心身の状態や生活環境が最前線で表出する「生体インターフェース」として捉えています。その変化や兆候を科学的に読み解くことで、美容や医療行為、さらには日常生活やQOL(生活の質)の向上に関わる未解決課題を解決していきたいと考えています。
現在は、このビジョンを2つの柱で事業化しています。1つは、エビデンスに最も価値を感じてくださる医師向けの美容医療事業です。皮膚科や美容皮膚科の先生方に対し、クリニック専売の化粧品「Dive(ダイヴ)®」や連携クリニックと取得した美容施術と組み合わせた臨床知見情報を提供しています。
もう1つは、独自の画像解析技術を応用した製品を展開するヘルスケア事業です。具体的には、顔の画像から心身の状態をモニタリングするプログラムを搭載したタブレット端末などのデバイスを製造し、販売・レンタルで提供しています。現在は、この技術を活かした暑熱対策ツール「カオカラ®」をメインに、建設現場や工場といった過酷な環境下で働く方々の健康を守るサポートを行っています。
ーー「カオカラ®」について詳しくお話しいただけますか。
松本剛:
「カオカラ®」は、主に建設・土木現場や工場などで働く方々の体調不調を防ぐための画期的なツールです。使い方はいたってシンプルで、現場のタブレットで顔を撮影するだけで汗のかき具合、血流に紐づく赤みの度合いや表情に出る疲労感までもAIで瞬時に解析し、設置場所の環境データも踏まえた判定を行います。その結果は4段階の色で分かりやすく表示する仕組みです。
これにより現場管理者は、客観的なデータに基づいた休憩の指示や、声かけなどのコミュニケーションが可能になります。個人情報を過度に取得せず手軽に導入できる点が現場のニーズに合致し、すでに累計で約5000台まで達しました。
他者と手を組み新たな市場を創出する「関係経済」

ーー今後の展望についてお聞かせください。
松本剛:
会社としては、5年後には売上高100億円規模を目指しています。そのためには新規事業の創出が不可欠です。たとえば、ヘルスケア事業では新しい技術の展開を構想しています。顔の画像から高齢者の「認知や身体機能低下」をモニタリングする技術です。美容領域でも新たなビジネスの構築を目指しています。お客様の髪の毛や尿からiPS細胞を用いて、ご自身の皮膚をシャーレ上で再現する技術です。あなたの肌に必要なケアをパーソナライズして提案できるようにします。
ーーそうした革新的な事業を実現するために大切にされていることは何でしょうか。
松本剛:
「関係性の構築」です。自分たちだけで売上高を立てて利益を独占するのではなく、さまざまなステークホルダーやパートナー企業と手を組みます。一緒に同じ世界観をつくっていく「関係経済」を強く意識しています。新しい技術をビジネスとして社会実装するには、専門機関や外部の企業様との協業が必須です。
ただ、現在直面している課題もあります。私たちが持つエビデンスや技術的な情報を、正しく世の中に広報するリソースが不足している点です。そのため、技術を深く理解して論理的に情報発信ができる「技術広報」の経験者や、技術と情報を組み合わせて新規事業を構築できる人材を求めています。さまざまな人たちと手を組み、エビデンスに基づいた意味のある活動を共に加速させていきます。
編集後記
ファクトとデータを追求する研究者としての真摯な姿勢と、人とのつながりや「関係経済」を重んじる温かな人柄が印象的だ。松本氏のその両面が、株式会社ポーラメディカルの革新的なサービスの源泉となっている。「カオカラ」をはじめとする同社のエビデンスに基づいた技術は、今後さらに多くの企業や人々の課題を解決していくだろう。5年後の売上高100億円という目標に向け、どのようなパートナーと新しい市場を切り拓いていくのか。同社のこれからの飛躍から目が離せない。

松本剛/福岡県生まれ、東京理科大学材料工学研究科修士卒業。1997年にポーラ化成工業株式会社に入社し、研究開発業務を担う。健康食品・皮膚科学研究・知財戦略、薬事、成分分析、安全性等のマネジメントを経て、研究技術資産を生かした美容医療事業を立ち上げた。2025年に株式会社ポーラメディカルの代表取締役社長に就任。肌や顔解析技術をコアとし、医家向け化粧品に加え暑熱対策などのヘルスケア分野に拡張。