
大阪府内と首都圏を中心に介護施設を展開し、“介護難民がいない社会”の実現を目指すPanda Care株式会社。24時間看護師が対応する充実したサービスを低価格で提供する独自のビジネスモデルを確立している。同社の成長を支えるのは、経営管理から人事評価、さらには将来的なケアプランの自動作成までを見据えた先進的なAIの活用だ。オーナー企業からの脱却と株式上場を視野に入れ、社名を一新した同社は、介護業界の未来をどのように描き、変革しようとしているのか。代表取締役の毛遠鷹氏に、その事業戦略と次世代ヘルスケアへの展望を聞いた。
日本の素晴らしい介護サービスを、海外へ広めたい
ーーまずは、貴社を起業されるまでのご経歴を教えていただけますか。
毛遠鷹:
私は2004年に来日し、最初の2年間は東京の日本語学校に通っていました。その後、大阪の大学に入学したのですが、在学中に社会勉強をしたいと考え、アパレル関係の事業を立ち上げます。
当初は、中国の市場から仕入れた商品を携え、関西の商店街にあるブティックへ直接足を運び、飛び込みで委託販売の提案を行うところからスタートしました。地道な営業活動を2年間続ける中で徐々に人脈が広がり、大手総合アパレル企業との出会いに恵まれます。
その後はOEMの下請け生産を任されるようになり、複数の女性向けブランドにおける商品調達・供給に長年携わることとなりました。品質や納期、コストのバランスを求められる環境の中で、安定した供給体制を築き上げていきました。
しかし、東日本大震災の発生により事業環境は大きく変化し、アパレル事業は縮小を余儀なくされます。そこで新たな展開として、中国の百貨店を中心に低価格帯の生活雑貨を扱う小売事業へと舵を切りました。海外市場における新たな可能性を見出し、事業領域の転換を図ることとなりました。
ーー現在の介護事業を始められたきっかけは何だったのでしょうか。
毛遠鷹:
きっかけは、中国に住む私の祖母が脳梗塞で倒れ、介護が必要になったことでした。当時の中国は、日本のように高齢者向け施設の制度や技術が整っておらず、祖母に十分なサービスを受けさせてあげられなかったのです。
日本では、費用の多くが国から負担されますが、中国では全て自己負担です。また、「介護職」という職種や国家資格そのものがなく、専門知識を持つ人材も不足しています。そうした環境もあって、祖母は寝たきりの状態から誤嚥性肺炎を併発し、1週間も経たずに他界してしまいました。忙しかった両親の代わりに私の面倒を見てくれた祖母をこのような形で亡くしたことは、本当にショックでした。
その後、日本できめ細やかで温かい医療・介護サービスを目の当たりにしたとき、「これを母国に持ち帰り、私と同じ思いをした方の手助けがしたい」と強く思いました。中国も高齢化社会に入っており、私の両親も近い将来、施設に入る年齢です。その時までに日本のサービスを中国へ広め、自分の施設で両親を迎えることが私の夢の1つとなりました。そこで、まずは日本の介護事情を深く学ぶ必要があると考え、2018年に弊社を立ち上げました。
介護難民ゼロを目指す独自のサービスモデル

ーー貴社の介護サービスにおける強みやこだわりについて教えてください。
毛遠鷹:
私たちの最大の特徴は、充実した医療・介護体制を備えながら、月額9.9万円という価格帯でサービスを提供している点にあります。施設では看護師による24時間対応体制を整えており、自立した生活が可能な方から、医療ニーズの高い方、看取りが必要な方まで幅広く受け入れています。特に医療処置への対応力に強みがあり、日常的なケアに加えてリハビリの提供も行っております。そのため、一般的な介護施設では受け入れが難しいケースにも柔軟に対応できる体制です。
また、この価格設定は生活保護費の基準を意識した水準としており、「世の中に介護難民がいない社会をつくりたい」という理念のもと、経済的な理由で介護を受けられない方を生まない仕組みづくりに取り組んでいます。
ーー今後の店舗展開については、どのようにお考えですか。
毛遠鷹:
現在は大阪府内および千葉・埼玉・茨城といった関東圏を中心に展開しており、今後もこれらのエリアを軸に拡大していく方針です。人材や資金力とのバランスを踏まえながら、持続可能な成長を重視し、無理のない形で事業を広げていきたいと考えています。具体的には、2030年までに50棟体制の構築を目標としており、着実に拠点を増やしていく計画です。
AI活用で切り拓く次世代ヘルスケアの未来
ーー充実したサービスを低価格で提供できる理由は何でしょうか。
毛遠鷹:
長年の現場経験で培ってきた運営ノウハウを持つ人材による管理体制に加え、現在はAIの活用による経営管理の高度化にも取り組んでいる点が大きな特徴です。多施設展開を進める中で、人の目だけでは把握しきれない課題が生じることを見据え、社内データを活用したモニタリング体制の整備を進めています。
具体的には、各施設の稼働状況や人員配置、介護記録などのデータをもとに、異常値や改善が必要なポイントを可視化し、迅速な意思決定につなげる仕組みづくりを進めています。これにより、現場の負担軽減と運営効率の向上を図るとともに、施設ごとのサービス品質のばらつきを抑え、全体として安定したサービス提供を目指しています。
ーー店舗運営の効率化以外には、どのようにAIを活用されているのでしょうか。
毛遠鷹:
運営管理にとどまらず、公平な人事評価の実現においてもAIの活用を進めています。勤怠情報や業務記録、インシデントの履歴など、個々の職員の働きぶりに関するデータを蓄積・可視化することで、主観に偏らない客観的な評価を可能にしました。最終的な評価は人が行うものの、データを基に判断することで、より納得感のある人事評価につなげています。
さらに将来的には、これまでの現場運営で蓄積してきた知見をもとに、ケアプランやリハビリプランの自動作成を支援するAIの開発も視野に入れています。こうした仕組みを自社内で活用するだけでなく、運用できる人材の育成とあわせて外部への展開も見据え、介護業界全体の質の向上に貢献していく考えです。
「パンダ」に込めた希望とパブリックカンパニーへの道
ーー2025年に社名を変更された経緯をお聞かせください。
毛遠鷹:
社名変更の背景には、オーナー企業からの脱却を図り、将来的な株式上場(IPO)を見据えてパブリックカンパニーを目指すという方針があります。社会的信頼を高め、持続的に成長し続ける企業基盤を構築していくための重要な意思決定でした。新たな名称には、親しみやすさと安心感を大切にしたいという思いを込めています。利用者様や職員にとって、日々の生活の中で前向きな気持ちを持てる存在でありたいという考えから、温かみや柔らかさを感じられるイメージを重視しました。
今後は、そのコンセプトを具体的な形として体現する取り組みも進めていきます。施設内空間をパンダをモチーフとした「パンダ博物館」という癒しの空間へリニューアルし、利用者様が日常の中で楽しみや癒しを感じられる環境づくりを目指しています。視覚的にも親しみやすく、自然と笑顔が生まれる空間の創出に取り組んでいきます。
また、社会的責任の一環として、和歌山県生まれのパンダ飼育拠点への継続的な支援も行っています。良浜(らうひん)、結浜(ゆいひん)、彩浜(さいひん)、楓浜(ふうひん)といった個体を含め、パンダたちが暮らす環境を支えるために毎月の寄付を行っており、こうした活動を通じて命や自然への理解を深めるきっかけづくりにもつなげていきたいと考えています。施設運営と社会貢献を両立させながら、利用者様・職員・社会のすべてにとって価値のある取り組みを広げていく方針です。
ーー株式上場はいつ頃を予定されているのでしょうか。
毛遠鷹:
具体的なスケジュールとしては、年内に東京証券取引所へ上場意向を表明し、順調に進めば2027年の春頃の上場を目指しています。そのための準備はすでに本格的に進めているところです。上場はゴールではなく、会社がさらに成長していくための通過点だと考えています。
「人づくり」が未来を拓く 社員と共に挑む、世界への貢献
ーー社員の育成ではどのような点に力を入れていますか。
毛遠鷹:
社員教育においては、まず業務の標準化を重視し、各種マニュアルの整備を進めています。それらを基にした動画コンテンツをeラーニングとして提供。定期的なテストを実施することで、理解度や習熟度を可視化できる仕組みを構築しました。これにより、一人ひとりに対して適切なフィードバックが可能となり、着実な成長を支援しています。特に管理職に対しては、プレイヤーとしての役割だけでなく、部下の育成やチーム全体の成果を最大化するマネジメント力の強化に重点を置きました。組織として持続的に成長していくために、人を育てる力を重要なテーマとして位置づけています。
また、こうした教育体制を通じて、社員自身がキャリアプランを描き、挑戦し続けられる環境づくりにも力を入れています。業界水準を意識した待遇や福利厚生といった面に加え、介護という仕事を通じて社会に貢献しているという実感や誇りを持てることも、働く上での大きな価値だと考えています。
ーーこれからの成長に向け、どのような人材を求めていらっしゃいますか。
毛遠鷹:
求める人物像として重視しているのは、提案力・思考力・改善力を兼ね備えた方です。事業規模が拡大していく中で、各部門において「現状をより良くするためには何ができるか」を自ら考え、主体的に行動できる人材が不可欠だと考えています。
採用については、即戦力として活躍いただける中途採用と、将来の中核を担う人材を育成する新卒採用の双方を重視し、バランスよく進めていく方針です。長期的に成長し続ける企業であるためには、新卒社員を一から育てていくことが重要であり、それ自体が企業としての責任の一つであると捉えています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。
毛遠鷹:
上場はあくまで一つの通過点であり、私たちが目指しているのは、単なる介護サービス提供企業ではなく、AIを活用したヘルスケア分野の先進企業として、日本のみならず世界の介護領域に貢献できる存在になることです。具体的には、AIサービス、人材教育、そして実地での介護サービス、この3つを一体化させた仕組みを構築し、パッケージとして国内外へ展開していくことを視野に入れています。自社だけで世界中に施設を展開するには限界がありますが、この仕組みを通じて各国のパートナーと連携することで、場所に関わらず一定水準の介護サービスを適正な価格で提供できる社会の実現を目指しています。
こうした取り組みを通じて、「介護難民がいない社会」を実現することが最終的な目標です。その実現に向けて、ヘルスケア業界の新たなスタンダードを創り出していきたいと考えています。
編集後記
「介護難民がいない社会をつくる」という明確なビジョンのもと、同社は着実に歩みを進めている。その特徴は、AIを単なる効率化ツールとしてではなく、サービス品質の均一化や人材評価、さらには新たな価値創出の中核として位置づけている点にある。これは、これまで労働集約型とされてきた介護業界に対して、新たな可能性を提示する取り組みと言えるだろう。また、事業の拡大と同時に、社会課題そのものに向き合い続ける姿勢も印象的である。テクノロジーと人の力を融合させながら、より多くの人が適切なケアを受けられる環境を整えていく。その取り組みは、自社の成長にとどまらず、業界全体の未来を見据えたものとなっている。同社の挑戦は、これからのヘルスケアのあり方に一石を投じるものであり、その動向に大きな期待が寄せられる。

毛遠鷹/2004年に来日し、摂南大学を卒業。卒業後起業し、アパレル商社を長年経営していたが、その後雑貨小売りなどに注力。2018年に株式会社M.Y.Y(現・Panda Care株式会社)を設立し介護福祉事業を開始。現在に至る。