
創業者である父が築いたモノづくり企業、株式会社マグトロニクス。同社を率いる菅正彦氏は、半導体商社での経験を経て家業に入り、過去の経済危機を乗り越えてきた。トップダウン体制だった組織をデータに基づくロジカルな経営へと変革させ、積極的な中途採用で新しい風を吹き込んでいる。目指すのは「下請け」からの脱却と、設計の上流から最適解を提案する「逆流」の実現。日本のモノづくりの現場力を武器に、売上高100億円規模を目指す同社の戦略と展望に迫る。
シリコンバレーでの経験と私心を排したデータ経営
ーーまずはキャリアのスタートについてお聞かせいただけますか。
菅正彦:
私のファーストキャリアは、現在のモノづくりとは異なり、半導体商社での製品担当でした。米国のスタートアップ企業が見出した新しい半導体を、日本の市場に紹介し売り込む役割です。何もないゼロの状態から、新しい技術の価値を市場に提案していく。この「上流から仕掛ける」経験が、現在の経営方針の源流となっています。大手の指示を待つ下請けではなく、設計から提案する姿勢ですね。その後、父が創業した弊社に入社しました。
ーー貴社に入社後、経営に携わる中で意識されたことは何ですか。
菅正彦:
客観的なデータに基づく判断を徹底することです。父は強いパーソナリティで組織を牽引しており、トップダウンの体制でした。しかし私は従来の慣習や個人の感覚に頼るのではなく、データに基づくロジカルな経営を重視しました。意思決定において最も重要な基準は、自分にとって良いかではなく、会社にとって良いかです。私心を排し、データが示す現実を直視して会社のための選択をする。それが経営の基本であると考えています。
ーーこれまでで苦労されたエピソードを教えてください。
菅正彦:
リーマン・ショックの時期に社長に就任した時のことです。当時は受注が9割減少する厳しい環境でした。出勤日数を調整せざるを得ないなど、本当に苦しい中での社長就任。しかし「ここより低いところはない」との父からのアドバイスに前を向き、現場の立て直しを完遂しました。あの苦境を糧に組織を黒字化へと戻した経験が、現在の挑戦的な姿勢を支える覚悟となっています。
「現場力」と中途採用が生む変革
ーー貴社の強みについてお聞かせください。
菅正彦:
最大の強みは、社員一人ひとりが高い専門性を持ち、お客様の要求以上の価値を返す対応力です。日本のモノづくりの現場は非常に優秀です。機械化や標準化のみに頼るのではなく、現場の人間が独自の工夫や暗黙知を活かして柔軟なモノづくりをすることができます。この現場力に裏打ちされた対応力が、私たちが提供できる価値なのです。
ーー組織風土の面では、どのような点が変化しましたか。
菅正彦:
積極的な中途採用により、外部知見との融合が進んだ点です。現在は社員の約半分が中途入社です。多様な考え方やノウハウを取り入れることで、社風を柔軟にアップデートし続ける文化が生まれました。最初は既存社員からの抵抗感もありましたが、試行錯誤しながら組織を融合させました。今では変化を恐れず新しい環境へ適応できる組織へと変化しています。
中堅企業の「規模感」が武器「逆流」で下請け脱却

ーー近年はDXや環境対応など企業への要求が高度化していますが、どのように対応されていますか。
菅正彦:
弊社が持つ中堅企業ならではの「規模感」と「機動力」の両立で対応しています。DX推進、環境マネージメント対応、情報セキュリティ強化などには一定のリソースが必要です。小規模企業ではその負荷の吸収が難しいですが、弊社には高度な要求を吸収し、お応えできるだけの規模感があります。大手企業よりも現場の温度感が近いのです。何がどう製品につながり、誰の役に立っているのかを実感できる「手触り感」があります。この仕事環境が社員のやりがいにも直結しています。
ーー今後の事業展開について、どのような目標を掲げていらっしゃいますか。
菅正彦:
まずは通過点として、売上高100億円を目指しています。最新の設備投資や社会課題への対応コストを安定的に吸収し、持続可能な成長を実現するために必要な事業規模です。そして最も重要な目標は、大手の発注を待つだけの下請けからの脱却です。自社のノウハウを活かし、設計段階から最適解を提案する技術的な解決策の提供を拡大します。下流から上流へと遡上する「逆流(リバースフロー)」の実現を目指しています。
ーー最後に、これからのモノづくり業界に対する展望をお聞かせいただけますか。
菅正彦:
中堅企業同士が結託し、「モノづくり業」を確立することです。自社で完結できない領域は協力会社とネットワークを築き、互いの強みを活かします。中堅や中小企業が一丸となって高い付加価値を世界に届ける、モノづくりのプラットフォームとなることを志しています。共に新しい価値を創造できる仲間たちと、日本の現場力を発信していきたいですね。
編集後記
創業者の後を継ぎ、データに基づくロジカルな経営へと舵を切った菅正彦氏。過去の経済危機というどん底を経験したからこそ得た、私心を捨てる覚悟が同社の成長を支えている。日本のモノづくりにおける「現場力」への信頼と、下請けから抜け出し「逆流」を起こすというビジョンが印象的であった。中堅企業の機動力を活かし、業界の枠組みを変えようとする株式会社マグトロニクスの挑戦に注目していきたい。

菅正彦/1963年、神奈川県生まれ。明治大学卒業。慶應義塾大学大学院修了。半導体商社を経て、2006年に株式会社マグトロニクスに入社。2010年に代表取締役社長に就任。自社の事業構造改革と業界全体の活性化に注力。