※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

証券会社での営業経験を経て、金融仲介業として独立した株式会社みなと相続コンシェル代表取締役の弥田有三氏。顧客と長期的な関係を築く中で直面したのが、相続を取り巻く不透明な仕組みと、家族自身が主体的に手続きできないという課題だった。その解決策として生み出されたクラウドソフト「AI相続」は、年間5000人以上が利用するサービスへと成長した。不動産の「代理人売却」など新たな事業も拡大している。「堂々と報酬をもらえる仕事」を追求する信念と、同社が描く未来のプラットフォームについて話を聞いた。

金融実務の経験から見えた相続手続きに潜む課題

ーーこれまでの経歴と創業に至った背景を教えていただけますでしょうか。

弥田有三:
証券会社でプライベート・バンキング業務に従事した後、金融仲介業者として独立しました。会社員時代よりさらに長期的に資産運用・管理をご一緒させていただく形となり、必然的に相続業務へ携わる機会が増えていったのが相続への問題意識をもった最初のきっかけでした。

ーー実際の相続業務に関わる中でどのような課題に直面したのでしょうか。

弥田有三:
課題は主に2つありました。1つは専門家への報酬体系が持つ合理性の欠如です。税理士報酬は遺産総額に比例するのが通例です。しかし、資産構成が金融資産のみか、不動産や非上場株式を含むかで難易度は変動します。総額に対して一律の割合を基準とする慣習には違和感を拭えませんでした。

もう1つは家族自身の手で申告を行う選択肢が事実上存在しなかったことです。一年間すべてのお金の流れを追う所得税の確定申告に対し、相続税申告は相続発生時点という「一時点」の財産評価と集計が基本です。そのため、実質的な作業ボリュームは、確定申告よりもむしろ少ないことがほとんどなのです。その意味では、故人の財産や暮らしぶりをよく知っている家族たちが自分たちで相続税申告をしたいと考えたときにそれを実行する難易度というのは必ずしも高くありません。ですから、家族たち自身が申告書を作成することは十分可能ですし、家族間で対話を重ねながら進めるということ自体が家族の振り返りとしてもよい未来につながることも多いです。

自分たちではできないと思い込んで専門家へ依頼すること自体は、まだよいのですが、本来水入らずで向き合えばもめなかっただろう家族が、第三者が入ることでむしろもめてしまうことがあり、その現状を打破し、自ら申告できる環境を提供すべく2018年に起業を決意しました。

苦難の開発期間を経て年間5000件の利用実績へ

ーーサービスを形にするまでの過程では、どのような苦労がありましたか。

弥田有三:
税金計算の複雑なロジックを、誰もが直感的なシステムへと落とし込めるエンジニアの確保が難航しました。当初3ヶ月を見込んだ開発期間も、結果的には1年半に及び、その間は無収入の期間が続き、経営的にも苦境に立たされました。しかし、そこで一切の妥協をせず徹底的につくり込んだからこそ、現在の精緻なシステムが完成したのだと自負しています。

ーーリリース後、利用者からはどのような反応が寄せられましたか。

弥田有三:
現在は年間5000件を超える利用実績があり、多くの方にご活用いただいています。利用者からは「家族水入らずで話し合い、納得のいく申告ができた」といった喜びの声をいただくほか、「故人の半生を振り返る有意義な時間になった」という言葉も多数頂戴しました。正確な税金計算の提供は当然の責務です。その上で家族がリビングに集い、対話を重ねるプロセスそのものにこそ真の価値があると確信しています。

情報の非対称性に依存しないフェアな仕事への覚悟

ーー経営者として事業を進める上で譲れない信念は何でしょうか。

弥田有三:
「堂々と報酬を受け取れるフェアでしっかりと社会に価値を提供しているといえる仕事をすること」です。専門知識の差、すなわち情報の非対称性に依存した利益の追求は決して行いません。相応以上の報酬をもらうということも道理に反していると思っています。そんな、もし誰かを騙さなければできないようなものは仕事だと思いませんし、それをしなければいけないくらいならば、会社をたたみます。

ーー貴社の事業にはどのような特徴があるのですか。

弥田有三:
自分でできる相続税申告書作成システム「AI相続」の利用者の増加に伴い、実家を相続するにあたって不動産売却の相談が全国から寄せられるようになりました。ここでも私たちは、直接の仲介業へ乗り出すのではなく「代理人売却」の仕組みを構築。これは査定や販売の過程を中立的な立場で透明性を確保しつつ、お客様をサポートする仕組みです。地域の優良な不動産会社2社に競争原理の中で競っていただくことで納得の結果を実現しています。お客様からは手数料を頂かず、お客様の希望どおり売却できた場合にのみ不動産会社側から紹介料をいただける仕組みを作れたことが信頼へとつながり、結果として企業の強固な収益基盤へと成長を遂げました。

嵐を乗り越える家族のための「波待ち港」を目指して

ーー今後の事業展開について具体的な構想をお聞かせいただけますでしょうか。

弥田有三:
システムの利便性をさらに高め、世代を超えて利用されるサービスへと育成していく方針です。具体的には入力過程でのミスを未然に防ぐ機能や最適な手続きへの気づきを促す仕組みの実装を進めています。また、「AI相続」は相続税申告後もほとんどの方が退会されないのですが、それだけではなく、財産を引き継がれた子どもたちが、ご自身の相続を見据えて別途アカウントを作って利用してくださるようにできればと考えています。

相続というライフイベントは家族に突然降りかかる嵐のようなものです。私たちは困難な時期に安心して身を寄せられる「波待ち港」でありたいと願っています。今後新たな事業を展開する際も不必要なサービスの押し売りは決してしません。顧客にとって真に価値あるものだけを提供します。その信念を貫き、家族の対話と決断を支え続けます。

編集後記

既存の慣習に合理的な問いを投げかけ、「家族自身の手による相続」という新たな選択肢を提示した弥田氏。その根底に流れるのは徹底したフェアネスへの希求と提供価値に見合う報酬のみを受け取るという揺るぎない覚悟である。効率と利益が優先されがちな現代において「家族の対話」を重視する姿勢が多くの支持を集める理由なのだろう。同社の生み出した仕組みが今後どれほど多くの家族を支える港となっていくのか。その航海の行く末を見守りたい。

弥田有三/1977年、静岡県出身。2000年に滋賀大学経済学部卒業後、証券会社に入社。プライベート・バンキング業務を経て、2006年、富裕層の長期的資産運用・管理に特化し、金融仲介業として独立。実践家であることを信条とし、自身の資産も率先して運用。2018年、みなと相続コンシェル設立。自分でできる相続税申告書ソフト「AI相続」および代理人売却をリリース。