
撮影場所:WeWork KDX虎ノ門一丁目
近年、出社回帰が進んでいる中で、オフィス街における昼食環境の課題が再び浮き彫りになっている。さらに、税制改革により社食の補助額が引き上がるため、企業が税制メリットを受けられるようになった。これを背景に、福利厚生としての「社食」に改めて注目が集まっている。そんな中、有名店の食事を届ける事業を展開しているのが、株式会社みんなの社食だ。コールセンターのアルバイトから前身となる新規事業の立ち上げを経験し、同社を創業した齋藤武仁氏に、大手町で目の当たりにした食の格差と、目指す「食のインフラ」への思いを聞いた。
「くるめし」でのアルバイトから新規事業立ち上げへ
ーーまずは、起業の原点をお聞かせいただけますか。
齋藤武仁:
法人向けのお弁当手配サービス「くるめし」のコールセンターで、アルバイトを始めたことが原点です。1年ほど経った頃、電話口でお客様から「温かいお弁当がいい」「スープがついていたら嬉しい」といった要望を頻繁にいただくようになりました。
ただ当時は食品衛生上、お弁当は温度を下げて提供する必要があるため、上司からは対応できないと断るよう指示を受けていたのです。しかし、私はお客様が望んでいるのに応えられない現状に納得できませんでした。そこで、保温用のごはんジャーやスープジャーなどの機材ごと配達すれば、温かいまま食べてもらえるのではないかと考えていたところ、当時の社長で現在弊社の取締役Co-Founderでもある石川も同じことを考えていたと意気投合し、「じゃあ一緒にやる?」と声をかけてもらいました。私が温かいものを届けたいと考えていたタイミングと、石川が社食事業を始めたいと考えていたタイミングが偶然重なり、くるめし初のインターン生として2人で新規事業立ち上げることになったのです。
そうしてスタートした前身事業である「みんなの食堂」は、顧客の支持を得て順調に拡大していきました。しかし、2020年にコロナの影響を大きく受けてサービスは中断せざるを得なくなり、その後はお蔵入り状態になってしまいました。
大手町で目の当たりにした「ランチ難民」と「食の格差」
ーーそこから、なぜ現在の「みんなの社食」を立ち上げることになったのですか。
齋藤武仁:
実はその後、別業界での勤務や海外生活を経験したのですが、帰国後にオフィス街で、昼食環境における深刻な格差を目の当たりにしたことがきっかけです。当時、知人が勤める大手企業の社員食堂を訪れる機会がありました。高層ビルの最上階にあり、温かくて健康的な食事が手頃な価格で提供される素晴らしい環境でした。しかし、ビルを出た後に地下飲食店街で見た光景は対照的でした。どこのお店も人がいっぱいで、高価格なランチに長蛇の列ができ、コンビニすら混雑していたのです。
ーーその光景から、どのような課題を感じたのですか。
齋藤武仁:
大企業と中小企業の間にある「食の格差」に強い違和感を抱きました。社食環境が整っている大企業の人たちが手頃な価格でゆっくり食事を楽しめる一方で、社食を持てない中小企業の人たちが、高いランチ代を払い、並ぶ時間もなくコンビニで済ませている。働くという行為は平等に尊いにもかかわらず、こうした「ランチ難民」や食の格差が存在するのはおかしいと感じたのです。働く人のランチ環境に長年変化が起きていないことに気付き、この課題を解決する事業は社会に必要であり、自分が挑戦するべきだと強く思いました。そこで、すぐに石川に連絡を取り、再び協力して株式会社みんなの社食を立ち上げたというわけです。
当たり前に社会に根付く「食のインフラ」へ

ーー「有名店社食」のサービスには、具体的にどのような価値や特徴があるのでしょうか。
齋藤武仁:
他のサービスにも既存の大手企業の社食にもない、「有名店社食」の最大の特徴は「飽きがこない」点にあります。自社で調理や配送を持たず、人気飲食店と法人をつなぐプラットフォームとして展開しているのが特徴です。食べログの「百名店」に選出されるような有名店が多数加盟しており、毎日違う店舗の料理をお届けしています。
一般的な社食の場合、単一の厨房でつくるためどうしても味付けが似通ってしまう課題がありました。しかし弊社のサービスを利用すれば、日替わりで異なるキッチンでつくられた多彩な味わいのメニューを楽しめます。そのため、社食を持たない企業様はもちろん、既に豪華な設備をお持ちの大手企業様からも、飽きを防止するコンテンツとして選ばれている状況です。


ーー事業を拡大していく上で現在注力されていることはありますか。
齋藤武仁:
現在最も重要視しているのは、顧客体験の徹底的な磨き込みです。需要に対してお待ちいただいているお客様も多い状態ですが、売上の拡大を急ぐのではなく、質の高いサービスを提供し続けるためのオペレーション構築に力を注いでいます。
その実現に不可欠なのが採用活動です。現在は経営と執行を分離し、実務をわずか5名の社員で回しており、需要に応えるための体制強化が急務となっています。提供サービスが市場に受け入れられる段階には到達したものの、体験価値をさらに高めるためには人材が足りていません。私たちのビジョンに共感し、新しい市場を共に開拓してくれる仲間を求めているところです。
ーー最後に、今後の展望をお願いします。
齋藤武仁:
私たちは、「食のインフラ」をつくり上げたいと考えています。誰もが日常的に利用し、当たり前に社会に根付くプラットフォームへの成長を見据えています。毎日美味しいものを温かい状態で食べられれば、「午後からも頑張ろう」と前向きな気持ちになれるでしょう。食にはそうした力があると信じています。「食の格差をなくし、働く人を支えたい」という思いを根底に持ち、これからも顧客の体験価値を磨き続け、社会に不可欠なサービスへと育てていきます。
編集後記
コールセンターでのアルバイト時代に抱いた「顧客の要望に応えたい」という思いが日本のオフィス環境を大きく変えようとしている。齋藤氏との対話で印象的だったのは、規模の拡大よりも「顧客体験の向上」と「格差の解消」に向けられた揺るぎない信念である。出社回帰が進んでいることや、税制メリットを受けられる状況を背景に、同社のサービスは働く人々を支える重要なインフラになりつつある。これからのビジネスシーンにどのような革新をもたらすのか、株式会社みんなの社食の前には視界が開けた未来が広がっている。

齋藤武仁/慶應義塾大学法学部政治学科卒業。在学中、日本最大の法人向けフードデリバリー「株式会社くるめし」にて前身事業の立ち上げを経験。卒業後はメガバンクにて中小企業向け融資を担当後、独立系VCに参画し、食領域を中心に数億円の投資とハンズオン支援を実行。その後、パートナーの海外駐在を機にイスラエルへ専業主夫として移住。戦争により日本へ避難した後、働く人のランチの課題を改めて痛感し、2024年6月に株式会社みんなの社食を創業。