
金属リサイクル業として、建物の解体現場などから資源回収を担う株式会社ミヤザキ・メタルサービス。同社の代表取締役、宮崎宏一氏は外資系金融での法人営業を経て家業へ戻り、約1億円の赤字という状況から、約2年で業績回復を遂げた。同業他社の2〜3倍の人員体制を武器に、現在は20代や30代の若手社員が最前線で活躍している。AI時代にあえて「ブルーカラー」の価値を見出す同氏に、世襲に頼らず自律的な100年企業を目指すための行動とその背景についてうかがった。
10年の外資金融経験と事業承継を決意させた一言
ーーまずはファーストキャリアについてお聞かせいただけますか。
宮崎宏一:
大学卒業後、外資系企業のゼネラル・エレクトリックに入社し、約10年間法人向けの融資営業を担当しました。そこでは億単位の設備投資の融資案件に関わり、企業の財務状況を正確に把握するための決算書を読み解く力を徹底的に鍛えられました。
また、事業再生やコンサルティング業務などを通じ、経営トップと深く関われたことも大きな財産です。彼らが何を考え、どのような論理で投資判断を下すのか、「生きた教材」としてリアルな経営判断を間近で見続けた経験は、現在の会社経営の基盤となっています。
ーーその後、家業である貴社へ入社した理由は何でしたか。
宮崎宏一:
実はもともと家業を継ぐつもりはありませんでした。きっかけは融資営業でお付き合いのあったお客様からの言葉です。長期融資の審査では企業の10年後を見据えるため、事業承継の話題がよく出ます。あるとき、お客様から「お前はうちの心配ばかりしているが、自分の家のことも考えたらどうだ」と言われ、ハッとしました。そこで実家の状況を確認すると、次の世代へ渡せる体制ができていないことが判明したのです。
私は前職で事業承継のコンサルにも携わっていたため、後継者選びの難しさを理解していました。昨日まで同僚として横並びで切磋琢磨していた社員の一人を、急に社長へと引き上げることは社内が割れるリスクがあり、かといって外部からの登用も反発を招きかねません。その点、「社長の息子が帰ってきた」という形であれば、納得感はどうあれ「致し方無し」で引き継ぎがなされる様子を見てきました。ただ家業に入ることは早期に決断したものの、サラリーマンとして即時の退職は難しく、1年程度の引継を行ってからの移籍としました。
現場の声と強みの再定義で赤字から業績回復へ

ーー入社後はどのような経験をされましたか。
宮崎宏一:
最初は余計な肩書きをつけず、「営業見習い」からスタートしました。社長の息子が大層な肩書で入ってくるのは、長年現場を支えてきた社員さんからすれば面白いものではありませんし、突然上から来られても受け入れ難く感じるだけだからです。
最初の半年間は現場にも出ました。戦力にならないのは理解した上で、現場がどれだけ難しい作業をしているか、現場の苦労がどこにあるのかを自分の肌で感じたかったのです。
ーー当時の貴社の状況についてお聞かせください。
宮崎宏一:
私が入社した当時は億単位の赤字が続く厳しい経営状況でした。このままでは立ち行かなくなるため、営業手法を見直す必要がありました。そこで、既存のお客様の声をもとに自社の強みを再定義することにしたのです。やみくもに新規開拓をせず、まずは長年お付き合いのあるお客様のもとへ足を運び、「なぜうちを使ってくれるのか」を聞いて回りました。
そこで見えてきたのは、「小回りの利く対応力」です。大阪の解体現場は敷地に余裕がないケースが多く、最初は小さなトラックで少しずつ鉄を運び出さねばなりません。人手不足で自社運搬が難しい工事会社にとって、柔軟かつ素早く対応できる弊社の機動力は大きな強みです。この点を強化するために採用を通じて人員数を同業他社の2~3倍水準に引き上げ、その魅力を資料化し、同様のニーズを持つ企業様に営業をかけることで、徐々に業績が回復へと傾いていきました。
ーー改めて、現在の事業内容をお話しいただけますか。
宮崎宏一:
主に建物の解体時などに発生する、鉄を中心とした金属スクラップのリサイクル事業を展開しています。取り扱う金属の約9割が鉄で、残り1割がアルミニウムなどの非鉄金属です。
ものづくりの過程で出る削りかすなどを回収することもありますが、私たちが特に得意としているのは、建物を壊した際に出てくるスクラップの回収です。先ほども話した「小回りの利く対応力」を活かし、敷地に余裕がない都市部ならではの解体現場のニーズにしっかりと応えることで、事業の柱としています。
「会社が何を求めているか」を明確化し若手が当事者意識を持つ組織へ
ーー社内環境において工夫されている点を教えてください。
宮崎宏一:
現在は20〜30代の若手社員が中心となって活躍しています。私が入社した当時と比べて、人員は倍以上に増えました。その要因の一つは、スマホ向けの採用サイトをいち早く整備し、マーケット加熱より1年ほど先んじて採用に動けたことです。ただ、人が入ってきても定着しなければ意味がありません。
そこで注力したのが「会社が何を求めているか」を明確に示す評価制度の構築です。技術要件を12項目に細分化し、「一人でトラックに乗れる」「クレーンを操作できる」などの基準を設けました。自分が今どこにいて、次は何ができればどの役職になり、待遇がどのように変わっていくかを明示することで、会社が求める方向性と個人の努力が結びつき、納得感を持って働ける環境を整える努力をしています。
ーー社員育成のための取り組みはどのようなものですか。
宮崎宏一:
若手社員が主体的に活動する場として、入社10年未満の社員だけで月1回集まる「若手プロジェクト」を発足しました。上の世代に気兼ねなく、自分たちで問題意識を持って取り組むテーマを決めてもらう取り組みです。このプロジェクトは日々の業務に対する“公式な愚痴”を吐き出せる場でもあります。ただし、不満を言って終わりではなく「どうすれば状況が良くなるか」という解決策までセットで考えてもらいます。
たとえば昨年は、若手社員から「近隣住民とのトラブルを防ぎたい」という声が上がりました。そこで彼らは、地域の方々との関係を構築するため、地元の盆踊りに出店する企画を自発的に立案、実行してくれたのです。不満を前向きな行動へ昇華させる経験は、社員の当事者意識を大きく育てます。さらに、彼らが主体的に楽しく働く姿を見て、その友人が入社してくれるという良いサイクルも生まれています。
AI時代に高まる現場の価値 システムで永続する100年企業を目指す
ーー今後AIの発展により、貴社の事業はどのような影響を受けるとお考えですか。
宮崎宏一:
現場で身体を動かすブルーカラーの価値は、今後間違いなく高まっていくと考えています。私たちは、製造業のように同じものを効率的につくり続ける環境とは真逆の世界にいて、建物の解体現場は毎回形も立地も異なります。さらに、扱うのは重たい鉄。こうした非定型な物理的作業は、AIが最も代替しにくい領域です。ホワイトカラーの仕事の一部がAIに取って代わられる一方で、現場の力はより重要になるでしょう。
ーー最後に今後の展望をお聞かせください。
宮崎宏一:
現場の確かな技術と、私が前職で培ってきたような論理的な管理体制を融合させたいと考えています。現場の力は重要ですが、それだけでは組織は大きくなりません。ホワイトカラー的な要素を取り入れたバランスの良い会社にしていくつもりです。
また、会社の目標は「永続すること」です。「特定の誰かがいないと回らない」という属人的な状態から脱却する必要があります。そのためには予算管理や責任の所在を数値で論理的に説明できるシステムをつくらなければなりません。世襲という狭い選択肢に頼るのではなく、誰がトップになっても健全に運営できる体制を整えます。そして、100年続く企業をつくり上げていきたいと考えています。
編集後記
外資系企業という異なる世界で培った論理的思考を武器に、厳しい経営状況にあった老舗企業を立て直した宮崎社長。印象的だったのは、やみくもに改革を押し付けるのではなく、「見習い」として現場の苦労を知り、顧客の声に真摯に耳を傾ける姿勢だ。明確な評価制度と若手が躍動する社風は、人手不足に悩む多くの業界のヒントになるだろう。AI時代において独自の強みを放つ同社が、今後どのような100年企業へ進化するのか、その飛躍が楽しみだ。

宮崎宏一/1982年、大阪府生まれ。高校までは競泳のスポーツ推薦で進学し、2006年に関西学院大学を卒業。米国のゼネラル・エレクトリック(GE)の金融部門に入社して10年間、法人向け金融の営業を経験。2016年に株式会社ミヤザキ・メタルサービスへ入社。2021年に常務取締役、2026年に代表取締役に就任。