
大学在学中に起業し、現在デジタルマーケティングプラットフォーム「Sitecore」においてアジアNo.1の実績を持つ株式会社LYZONの代表取締役、藤田健氏。同氏は、大手企業が競合する市場において「標準化」を武器に着実な地位を築いた。現在は長年培った知見と最新のAI技術を掛け合わせ、中堅企業向けの新しいシステム開発手法を確立しようとしている。激変する業界の中で、同社が描く「AI×マーケティング」の未来とは何か。藤田氏の原体験から今後の展望までを詳しく聞いた。
アメリカでの衝撃が原体験に 大学在学中に選んだ「起業」という道
ーー起業という道を意識し始めたきっかけについて教えてください。
藤田健:
私が在籍していた東京大学の工学部では、卒業後に外資系金融機関や総合商社、コンサルティング会社へ就職するのが一般的でした。実際に周りの学生の多くがそのような道を選んでおり、私自身も一度社会経験を積んでから起業しようと考えていたのです。しかし、大学2年生の春休みに友人とアメリカへ行き、現地の大学を視察したことが大きな転機となりました。
教授からの勧めもあり、マサチューセッツ工科大学のメディアラボなどで10名から15名ほどの方々と直接会う機会を得ました。現地でさまざまな人と交流する中で、「若いうちから起業する選択肢もある」「アメリカではそれが一般的である」と大きな衝撃を受けたのです。また、高校生の時に父親が起業して苦労する姿を見ていたことや、親戚に経営者が多かったことも影響しているかもしれません。そこで、帰国して1ヶ月半ほど経った頃、「まずは実行してみよう」と決心しました。
ーー帰国後、具体的にどのような行動を起こされたのでしょうか。
藤田健:
大学3年生のときに知人の会社の屋号を借りて、システム開発の仕事を始めました。東京大学の友人を集めて仕事に取り組んでおり、多い時で20名から30名ほどのアルバイトを抱えていました。自ら営業をして案件を獲得し、契約書を作成した上でアルバイトのメンバーに業務を割り振り、そして私が最終確認を行ってお客様へ納品するという一連のビジネスの流れを当時から経験していました。現在でこそ学生起業は珍しくありませんが、当時は非常に少なかった時代です。振り返ると一緒に活動していたメンバーは優秀な人材ばかりで、今では世界的に活躍している人も多くいます。
苦境を打破しアジアNo.1へ導いた開発の標準化戦略
ーー創業から現在に至るまでに、会社の転機となった出来事を教えてください。
藤田健:
成長の起点となったのは、「Sitecore(サイトコア)」との出会いです。2007年に創業して以来、技術を蓄積して多くのことに挑戦してきましたが、なかなか会社の成長に結びつかず、苦しんだ時期がありました。そんな中でSitecoreに出会い、同分野に注力した結果、一昨年には国内、さらにはアジアでNo.1の実績として表彰していただくことができたのです。名だたる大手企業が存在する中でこの結果を残せたことは、私たちの大きな自信につながりました。
ーー大手企業がひしめく中、No.1のシェアを獲得できた勝因は何ですか。
藤田健:
最大の理由は、開発手法や設計の「標準化」に成功したことでしょう。私たちが扱うのは、数千から数万ページに及ぶ大手企業向けの大規模サイト案件が中心です。各社の事情に応じた個別調整が多くなるため、本来この領域での標準化は非常に困難です。しかし、さまざまな外部企業と連携して費用を抑えながら多くの案件をこなす中で、変化の兆しがありました。設計書や開発の共通部分など「標準化できる要素」を見つけ出し、着実に実績を積み重ねてきたのです。
ーーその「標準化」は、競合に対してどのような優位性を生み出しましたか。
藤田健:
大手企業はさまざまな要望に広く対応しなければならず、一つの領域に資源を集中させることが難しい状況にあります。一方、私たちは一つの領域に特化し、標準化の土台を持った状態で事業を開始できます。そのため、ゼロからつくるよりも品質と開発速度を格段に上げることが可能です。結果的に、ノウハウやツールの蓄積において優位性を築くことができました。
Webサイトから「Webシステム」へ 中堅企業に向けた新たな柱

ーー強固な基盤を持つ現在、次なる事業展開として何を見据えていますか。
藤田健:
既存の領域でトップを走り続けることは大前提ですが、今後さらに違う事業の柱を何本かつくっていく必要があります。現在、AIの進化により小規模なWebサイトであれば、デザインから構築まで数分で完了する時代になりつつあり、単にWebサイトをつくるだけの市場は縮小していくでしょう。
大手企業の案件を通じて実感しているのは、現在求められているものがWebサイトではなく「Webシステム」に変化しているという事実です。たとえば、製品情報を載せるだけでなく、ログインしてポイントが貯まったり、購買やコミュニティと連動したりするような会員システムが求められています。
ーー高度なシステム構築のノウハウを、今後はどのような形で展開していく予定ですか。
藤田健:
現在力を入れているのが、数百人から数千人規模の中堅企業に向けた「オールAI開発」というサービスです。私たちが得意とする会員サイトなどの業務システムのノウハウを活かし、仕様を入力するだけで設計から実装、テストまでをAIが行う仕組みを構築しました。既製のクラウドサービスでは独自の差別化ができず、かといってゼロからの開発では費用がかかりすぎます。こうした課題を持つ中堅企業に対し、従来の半額程度の費用で個別調整されたシステムを提供できることが私たちの大きな強みです。
AIの波を乗りこなし強固な連携でさらなる飛躍へ
ーーAI技術は、社内の業務や開発現場において具体的にどう活用されていますか。
藤田健:
「AI×マーケティング」と掲げている通り、自社の業務にもAIを積極的に活用しています。たとえば自社のブログ記事は、私が1時間話した音声をAIが読み取り、文章作成から画像生成、管理表の更新までほぼ全自動で行っています。開発現場でも、これまで長期間かかっていた作業をAIで代替できるように、社内人員をAI開発チームへ移行させている段階です。
ーーAI変革期における今後の組織づくりや企業としての展望をお聞かせください。
藤田健:
現在はありがたいことに、全ての案件がWeb経由や既存顧客からの紹介で成り立っていますが、今後は会社の認知を広げる一環として、オンラインセミナーなどの施策を始める予定です。同時に、これまで少し弱まっていた外部企業との連携を再び強化していきたいと考えています。
社会の仕組みがAIによって大きく変わろうとしています。私たちはその変化の最前線で技術を牽引し、新しいビジネスの形を実現していく段階にあります。すぐに採用を大規模に拡大するわけではありませんが、将来的な取り組みとしてこの変革期にAIを活用した支援を広く展開していくつもりです。そのためにも、外部企業も含めて私たちの認知をさらに広げていきたいと思っています。
編集後記
学生時代のアメリカ訪問で得た刺激を胸に起業し、独自の「標準化」戦略で大規模市場における確固たる実績を築き上げた藤田氏。インタビューを通して最も印象的だったのは、AIがもたらす業界の激変を恐れることなく、自社の新たな柱として真っ向から取り組む先見性だ。大手向けのノウハウを中堅企業向けの「オールAI開発」へと昇華させる戦略は、長年の知見がある同社だからこそ成し得る業だろう。AIとマーケティングを駆使し、Webシステムの常識を覆し続ける同社が、今後どのような成長曲線を描くのか期待が高まる。

藤田健/1982年、東京都出身。2006年、東京大学工学部システム創成学科卒業。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻。在学中の2007年に、株式会社LYZONを創業し、代表取締役に就任。現在は株式会社ソルパックの非常勤取締役も務める。