IT業界は、急速な技術革新と市場変化に対応し続けることが求められる業界だ。そんな中、半世紀にわたり成長を続け、独自の企業文化を築き上げてきたのが日本企画株式会社である。創業50周年を迎え、新たにデジタルトランスフォーメーション(DX)を軸とした企業成長を目指す同社。今回は、代表取締役社長の利哲平氏から、これまでの成長の軌跡、ユニークな人材育成方法、そして今後の展望などについてうかがった。
3代にわたり築いてきた50年の軌跡
ーー代表取締役になるまでの経緯を教えてください。
利哲平:
弊社は私の父、利清二郎が1974年4月に創業しました。今年で創業50周年です。その後、2008年に父の弟、つまり私の叔父にあたる哲雄が2代目の代表取締役に就任し、今年3月に私が3代目の代表取締役社長に就任いたしました。半世紀にわたる組織経営の伝統を受け継ぎつつ、新しい時代に即した経営を行っていくことが私の使命です。
ーー社長に就任されてから、まずどのようなことに取り組まれたのでしょうか?
利哲平:
就任後、まず取り組んだのは会社全体の将来像を描くことです。具体的には10年先を見据えたビジョンや長期計画、グランドデザインを策定し、6月の経営計画発表会で幹部社員に発表しましたが、このアクションが今後の弊社の方向性を示す非常に重要な機会となりました。具体的な取り組みとしては、まず事業構造の転換を図り、SES(システムエンジニアリングサービス)から自社主体の事業へシフトすることです。特にDX分野に注目しており、弊社の技術力を最大限に活かせる、成長が見込まれる重要な市場だと確信しています。
ーー創業50周年、成長の道のりは順風満帆だったのでしょうか?
利哲平:
弊社の成長過程は「1・3・5の壁」という概念で説明できます。最初に直面したのは売上30億円の壁で、設立から20年で30億円近くに到達したものの、そこから売上を伸ばすにはさらに10年かかりました。戦略や人材の採用や教育、社内の仕組みを改善し、設立30年でようやく売上30億円の壁を突破することができました。その後は比較的スムーズに進み、3年で44億円まで成長しました。次に挑戦したのが50億円の壁です。おかげさまで2021年に売上50億円を突破し、現在も順調に成長を続けています。
3つの柱からなる独自の企業文化が事業を支える
ーーこれまでに特に印象に残っている出来事や困難だった経験について教えてください。
利哲平:
2015年、私が経営企画に携わり始めた頃、プライバシーマークの運用を担当していた責任者が急逝するという事態に直面しました。彼の業務が属人化していたため、誰もプライバシーマークの運用方法に詳しい者がいない状況になり、迅速な対応が求められました。
急きょ、4名のプロジェクトチームを立ち上げ、次の審査期間までの限られた時間を最大限に活用し、短期間で制度の再構築に取り組むことを決意し、新たなプライバシーマーク制度をイチからつくり直しました。非常にハードでしたが、メンバー全員が一丸となって取り組んだ結果、無事に審査を通過することができました。
この経験を通じて、業務の属人化がいかに危険かを痛感し、以降は知識や技能の共有を徹底することを社内のルールとし、「ワンオペ(一人作業)」の廃止を進めました。社員全員が重要な業務についての知識を持ち、互いにフォローし合える体制を築くことで、組織全体のリスク管理能力を高めることができたと思っています。この取り組みは、現在の弊社の安定した運営にも大いに寄与しています。
ーー貴社の事業の強みについてお聞かせいただけますか?
利哲平:
弊社の強みは50年の歴史で培ってきた企業文化であり、特に「3つの柱」が事業の土台となっています。1つ目は倫理観で、倫理法人会の活動を通じて社員に自己責任の意識を浸透させています。2つ目は心の教育で、掃除道の教えを取り入れ、社員の心のケアや職場環境の向上に努めています。3つ目は農業で、アナログな作業を通じて創造性を養い、人間性を豊かにする教育の一環です。
ーー社員の意識向上のために行っていることや伝えている言葉を教えてください。
利哲平:
社員の意識向上には、創業以来の伝統と最新の知見を組み合わせたアプローチをとっています。創業者が常々口にしていた「不平不満は口にするな」という言葉を伝え続け、問題解決策を考える姿勢を重視しています。また、持続的なモチベーションは自分自身でしか上げられないと考え、具体的な目標設定を通じて社員が自ら考え、行動するよう促しています。形式的な取り組みを見直し、効果的な方法に置き換えています。
DXを軸とした未来戦略と多様な人材確保への挑戦
ーー今後の展望についてお聞かせください。
利哲平:
最も重要なキーワードはDXです。DXは従来型のシステム開発とは異なり、ビジネスエコシステム全体を対象としています。製造業の例では、材料の仕入れから加工、販売までの工程全体をデジタル化し、リアルタイムで経営判断ができる仕組みを構築します。また、社会課題の解決にもDXは大きな役割を果たし、ITを活用した解決策を提供する可能性があり、これにより、社会全体のデジタル化と効率化を促進したいと考えています。
ーー人材の採用についてはどのようにお考えですか。
利哲平:
現状では採用環境が厳しく、大手企業に対抗するためには、特にコンサルティング能力を持つ人材の採用に力を入れる必要があります。また、日本人だけでなく外国人材の採用も重要であり、昨年ベトナムの会社をM&Aで取得し、グループ会社としました。今後は、海外拠点との協業も含め、多様性を高めていきます。
さらに、社内での育成プログラムも充実させ、社員が自ら成長できる環境を整えています。具体的には、リーダーシップ研修や専門技術の習得を支援する制度を設け、社員一人ひとりが持つポテンシャルを最大限に引き出す取り組みを進めています。社員が自己啓発に努めることで、企業全体の競争力も高まると考えています。
編集後記
利社長の語る日本企画の歩みは、半世紀にわたる挑戦の歴史だ。「1・3・5の壁」を乗り越え、独自の企業文化を築き上げてきた姿勢に感銘を受けた。特に印象的だったのは、ITと農業を融合させた人材育成の取り組みで、デジタル時代においても人間性を大切にする経営哲学が光っている。同社は、技術革新だけでなく、社員一人ひとりの成長を重視し、持続可能な企業運営を目指している。その結果、企業としての一体感が生まれ、組織全体の力が結集していることが感じられた。今後も、さらなる飛躍を遂げ、多様な分野で革新を起こしてくれるだろう。
利哲平/1975年千葉県生まれ。2006年立教大学大学院にて経営学修士課程(MBA)修了。同年に日本企画株式会社へ入社。公認情報システム監査人(CISA)の資格取得後、セキュリティ分野ではコンサルタントとしても活動。2018年に同社取締役、2023年に経営企画本部長に就任。同年ベトナムのサクセスソフトウェアサービス社をM&A。2024年代表取締役社長に就任。現在はベトナムや北米ビジネスにも注目している。