
プラスチック成形などを手がける吉川化成グループの一員として、医療機器の販売を担う株式会社フジメディカル。2024年、同社の代表取締役社長に就任した吉川拓哉氏は、かつては活躍するプロゴルファーを目指していたという異色の経歴を持つ。家業である吉川化成株式会社に入社後、タイでの大規模洪水という未曾有の危機を現場で経験した。そこでの教訓を胸に「現場への権限委譲」と「前向きな対話」を軸とした独自の組織づくりを実践している。特定の医療分野で自社ブランド確立を目指す同氏に、これまでの歩みと今後の展望を聞いた。
プロゴルファーへの挑戦から一転 タイの大洪水で見えた「現場主義」の本質
ーーまずは、家業である吉川化成に入社するまでの経緯を教えていただけますか。
吉川拓哉:
私は昔からゴルフをやっており、大学卒業後はプロゴルファーとして活動していました。しかし、4年間ほどプレーを続け、25、26歳になった頃に第一線で活躍し続けるのは難しいと限界を感じたのです。ちょうどその頃、父が社長になり、世界で事業を展開している姿を間近で見ました。その姿に影響を受け、せっかく入社するなら組織を牽引するリーダーになろうと決意し、家業である吉川化成へ飛び込んだのです。入社後は、まず営業担当としてマレーシアへ赴任しました。その後、タイの拠点立ち上げにも携わり、計8年ほど東南アジアに駐在して現場の最前線で経験を積みました。
ーーご自身の経営観に大きな影響を与えた転機はありますか。
吉川拓哉:
2011年にタイで起きた大洪水での経験です。弊社の工場も深く水に浸かり、3つある工場のうち2つが機能停止に陥りました。お客様からの問い合わせが殺到する中、設備も水没し、自分たちではどうにもならない厳しい状況です。そのとき、現地の深刻な状況と日本の本社の間には、情報の伝達における難しさがありました。非常時であっても、意思決定の前に詳細な資料が必要になるなど、現場のスピード感に対応するのが難しい状況だったのです。
この経験から、有事の際は現地に権限を完全に委譲するか、本部が自ら現場へ赴いて即断即決するべきだと痛感しました。現在、私自身がトラブルに対応する際は、現場に予算の枠を外して意思決定を任せるか、あるいは自ら現地へ飛んですべての判断を下すようにしています。
「悩み」はあえて聞かない 前向きな対話が引き出す組織の一体感

ーー事業を成長させる上で、組織づくりにおいて意識されていることは何ですか。
吉川拓哉:
組織の「一体感」を創出することです。目標となる「ありたい姿」を明確にし、そこへ向かって全員が同じ方向を向くことが重要です。そのために、社員とのコミュニケーションの取り方には独自のルールを設けています。具体的には、1対1の対話などの機会を設けていますが、私は社員から「悩みごと」をあえて聞き出さないようにしています。
ーーあえて悩みを聞かないのは、どのような理由があるのですか。
吉川拓哉:
経営陣が現場の悩みを聞いたとしても、組織の構造上すぐに解決できない場合が多いからです。たとえば給与への不満を聞き、安易に「なんとかするよ」と約束して実行できなければ、かえって組織への不信感につながります。そのため、私は徹底して「最近仕事で良かったこと」を聞き出します。
たとえば「こんな加工方法を見つけて、自分でもやってみたい」といった前向きな話が出れば、「それはいいね、次はこれだけの予算を投資しよう」とその場で背中を押すのです。そういった、良い部分を掘り下げて事業の成長につなげることが、私のマネジメントの基本です。また、どんなに厳しい状況でも「大丈夫だ」という理由を伝え、社員には常に夢を見てもらうことが私の役割だと考えています。そして、こうした組織運営や現在の弊社の目覚ましい発展は、私一人の力ではなく、副社長である久保寺の心強い支えがあってこそのものだと感謝しています。
特定分野のトップへ 現場の声から生まれる「自社ブランド」の展望
ーー貴社ならではの強みを教えてください。
吉川拓哉:
大手が深く入り込んでいない特定の医療分野における製品ラインナップです。そこに、2019年にものづくりを担う親会社である吉川化成のグループに加わったことで、大きな相乗効果が生まれました。これまでは外部の企業から仕入れた製品を販売することしかできませんでした。しかし現在は医療現場の医師から「こんな製品がつくれないか」という声を聞いています。
これにより、グループ内で開発から製造、販売までを一貫して行える体制が整いました。社員たちともよく「いつか医療ドラマのエンドロールに、自分たちの医療機器の名前が出たらテンションが上がるよね」といった夢を語り合っています。この強みを活かし、すべて自社で手がける独自のブランドの確立を本格的に進めています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
吉川拓哉:
「特定の医療分野といえばフジメディカル」といわれるようなブランドを確立することです。しかし、その目標に向けて製品開発を進める上で、弊社には一つの大きな課題がありました。弊社の営業担当は現時点では全員男性であり、特に婦人科という領域においては、異性である男性が現場の中まで深く入り込んでいくことが難しいという点です。
そこでこの課題を解決するため、現役の看護師や助産師の方々を仲間に迎えた専門のチームを新たに立ち上げました。彼女たちと密に連携することで、現場のリアルな声や改善点を引き出し、製品開発に直接活かしています。このようなアプローチは業界でも珍しいはずです。今後も現場の声を第一に、医師や患者様の人生をより良くするための製品づくりに挑戦し続けていきます。
編集後記
過酷な現場を乗り越えてきた経験から導き出された「前向きな対話」を重んじる吉川氏の経営手法は、組織に力強いエネルギーと一体感をもたらしている。また、現役の看護師や助産師をチームに迎え入れ、医療現場のリアルな声を製品開発へ直結させる実行力は、同社が目指す自社ブランドの確立を確実なものへと変えていくに違いない。医療従事者や患者の未来をより良くするため、現場に寄り添う同社の飽くなき挑戦はこれからも続く。いつか医療ドラマのエンドロールにその名が刻まれる日を楽しみに、今後のさらなる飛躍に注目していきたい。

吉川拓哉/1978年大阪府生まれ、立命館大学卒。プロゴルファーとして国内外ツアーに参戦後、2006年吉川化成株式会社入社。海外勤務や事業再建を経て専務取締役に就任。2024年に同社グループ会社である株式会社フジメディカル代表取締役社長就任。MBA取得後はゴルフと経営の融合活動を推進。同社の発展は久保寺副社長の心強い支えがあってこそのものだと語る。