※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

「日本の食卓を支える基盤になりたい」。そう語る小林格氏は、総合商社での20年にわたる青果事業の経験を積み、50歳で株式会社ファーマインドの舵取りを担う道を選んだ。同社は「生産者と消費者をつなぐ」という理念のもと、国内外の調達から販売までを一貫して手がけている。50歳という節目で安定した環境を離れ、次世代を見据えた青果流通の未来をどう描いているのか。昨年、新たに代表取締役社長兼COOに就任した小林氏が思い描く、青果流通業界において独自の存在感を放つ企業の軌跡と未来の展望に迫る。

バナナの現場で知った一貫したビジネスのダイナミズム

ーー社会人としてのキャリアは、どのようにスタートされたのでしょうか。

小林格:
総合商社に入社し、以来約20年間にわたり青果事業に携わってきました。キャリアの大きな転機となったのは、フィリピンのミンダナオ島にあるバナナの一大産地、ダバオでの駐在経験です。私は港のすぐそばにある事務所に勤務し、現場では畑でバナナを栽培している生産担当者たちと日々言葉を交わし、同時に日本で小売店に販売する営業担当者ともやり取りをしていました。生産から船での輸送、そして日本の消費者の手に届くまでを一貫して管理するビジネスの規模の大きさに触れたことは、非常に印象的でしたね。これが青果ビジネスの魅力に深く引き込まれるきっかけとなりました。

ーーその後、どのような経緯で貴社へ参画されたのですか。

小林格:
実は以前からつながりがあり、2013〜2016年にかけて、私は一度弊社に出向した時期がありました。そして2024年に50歳になったタイミングで再び出向の機会を得たのですが、約10年ぶりに戻ってみて驚いたのは、事業規模が大きく広がっていたことでした。りんごやいちごといった国産商材の取り扱いや自社での生産事業など、10年前にはなかった新しい取り組みがたくさん始まっていたのです。総合商社での仕事は恵まれた環境でしたが、自分で担当を選べないという側面もあります。今後の人生を考えたとき、自らの手でバリューチェーンを統合するこの仕事に本腰を入れたいと思い、2025年に弊社への正式な参画を決意しました。

ーートップとして組織を率いる上で大切にしている軸は何ですか。

小林格:
弊社には、創業者が30年以上にわたって強力なリーダーシップで牽引してきた歴史があります。しかし、私自身はこれまでと全く同じ経営手法をとることはできないと考え、これからはチームでの経営が不可欠だと思い至りました。そのため、経営幹部や現場の声をしっかり聞き、時には学ぶ姿勢を大切にしています。

ただし、最終的な決断を下すのはトップの役割です。周囲の意見を十分に聞いた上で決断を恐れず、その結果に責任を持つこと。この「聞くこと」と「決断し責任を持つこと」の2つを経営における重要な軸として据えています。

独自の低温流通網が支える青果流通の基盤

ーー改めて、貴社の事業概要と最大の強みについて教えていただけますか。

小林格:
弊社の企業理念は、「生産者と消費者をつなぐ」ことです。国内外での調達から船やトラックでの輸送、全国の青果センターの運営、そして店頭への提案までをグループ内で完結させています。業界を見渡してもこれらすべてを担っている企業は弊社しかありません。

このシステムを支える強みの源泉がバナナです。バナナは一年中安定して供給される商品であり、現在日本国内のバナナ追熟加工において弊社は約30%のシェアを持っています。つまり、日本で消費されるバナナの約3分の1が弊社の流通網を通っている計算です。この通年で動く膨大な物量があるからこそ、全国の青果センターやトラックを毎日稼働させ続けるための設備投資が可能となります。

ーーその強固な流通網は現在の社会課題にどう貢献するのでしょうか。

小林格:
現在国内では、トラックの運転手不足など、深刻な物流危機が起きています。「つくっても運べない」という状況が顕著になりつつあるのです。しかし弊社には、全国で日々稼働するトラックのネットワークがあります。この空きスペースを活用し、自社の商品だけでなく他社の商品の輸送にも対応しています。バナナを軸とした基盤に他の商材を組み合わせることで流通効率を高め、結果として消費者へ安定して青果を届ける仕組みを維持しているのです。

日本の農業を守る大規模な果樹生産への挑戦

ーー現在日本が抱える、農業従事者の減少かつ高齢化による生産量の低下という課題に対し、自社で新たに取り組んでいることはありますか。

小林格:
もともとブロッコリーなどの生産を手がけてきましたが、近年特に力を入れているのが果樹の生産です。現在、青森でのりんごや千葉でのぶどう、茨城・大分での梨、茨城でのいちごなど、さまざまな果樹の大規模生産にも挑戦しています。果樹は、ものによっては苗木を植えてから収穫できるようになるまで、約5年という長い年月がかかる作物です。高齢化でリタイアする農家が増える一方、新規参入や設備投資に踏み切る人が少なく、生産量の減少が加速しやすいという構造的な課題を抱えています。

ーー農業が抱える構造的な課題へどのようにアプローチしていますか。

小林格:
私たちが目指しているのは、大規模生産のための新たな方法論を確立することです。たとえば木を密植させたり、機械が入りやすい樹形に整えたりすることで、単位面積あたりの作業人数を減らし効率化を図るノウハウを蓄積しています。企業が農業に参入する以上、経済的にも成り立つモデルをつくらなければ持続しません。私たちが大規模生産の成功モデルを確立できれば、他の生産者にもその手法を広めることができます。自社の商材として扱うだけでなく、日本の果樹生産の基盤を下支えし、おいしいフルーツが当たり前に食べられる環境を未来に残すことが私たちの大きな使命です。

専門性から全体最適へ 次世代を担う経営人材の育成

ーー組織が成長する中で人材育成についてはどのようにお考えですか。

小林格:
弊社はこれまで「機能分化」という文化を大切にし、青果センターや営業、調達など、まずはそれぞれの現場で専門家を育てる方針をとってきました。新入社員も現場での実務研修を通じて一つの分野のプロになることを求められます。しかし、会社が大きくなり次の時代を担う経営陣を育てていく段階に入った今、縦の専門性だけでなく、横のつながりを見渡せる視野の広い人材が必要になってきました。

そんな人材を育てるべく、現在は月に1回、部長以上の管理職約80名が参加するグループ業務会議を開催しています。この場で次世代のリーダー候補に自部署の課題や取り組みをプレゼンしてもらって全社的な議論を行う機会を設けることで、自分の部署以外の動きを知り、グループ全体への視野を広げるのが目的です。

また、グループ会社の役員向けに経営層としての思考法を学ぶ研修を実施したり、青果センター内での配置転換を通じて複数の業務プロセスを経験させたりもしています。これまでの強みである専門性を大切にしつつ、横断的に事業を理解できる経営幹部を育成していくことが私の重要な役割の一つです。

ーー最後に、日本の食卓を支える基盤としてどのような将来像を描いていますか。

小林格:
私たちが果たすべき最大の使命は、日本の消費者の日々の豊かで健康な暮らしを支える基盤になることです。そのためには、青果センターの加工能力や輸送力を高める「機能の拡大」と、より多くの商品を扱い基盤の維持拡大を図る「規模の拡大」、この2つの柱を強化し続ける必要があります。両輪を回し続けることで、私たちは青果流通業界においてユニークでオンリーワン、そしてナンバーワンの会社になりたいと考えています。

青果の流通は普段消費者の方々からは見えにくい裏方の役割かもしれません。しかし私たちの挑戦が日本の食卓をより豊かにし、生産者の想いを正しく届けることにつながると信じています。これからも歩みを止めることなく、新たな価値を創造し続けていきます。

編集後記

取材中、小林氏の言葉の端々から感じられたのは、長年携わってきた青果ビジネスに対する深い愛情と、日本の食のインフラを守り抜くという確固たる覚悟だった。バナナを起点に築き上げた強固な低温流通網を武器に、物流危機や果樹の生産減少といった国内の社会課題に真っ向から挑む同社。豊富な実務経験に裏打ちされた「聞く耳」と「決断力」を併せ持つ新トップの就任により、日本の青果流通においてどのような変革をもたらすのか。そのさらなる飛躍から目が離せない。

小林格/1974年生まれ、大阪府出身。1997年東京大学経済学部卒業、住友商事株式会社入社。その後、Sumifru Philippines(ダバオ駐在)、Sumifru Singapore(シンガポール駐在)、株式会社ファーマインドへの出向等を含めて、一貫して青果を中心とした食料事業に携わる。2025年1月にファーマインドに入社し、同年4月に同社代表取締役社長兼COOに就任。