※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

2022年に設立された株式会社SHINSEKAI Technologies。AIとデジタル技術を駆使し、ファンコミュニティの運営支援など「関係性をデザインする」事業を展開している。同社の代表取締役社長である大社武氏は、学生時代から一貫して「人の心を動かす仕組み」を探求し、その後サイバーエージェントでの活躍を経て起業の道へ進んだ。AIが進化し社会の合理化が進む現代に、同社はなぜ「小さなコミュニティ」に焦点を当てるのか。事業の2本柱や独自のAI活用法、そして見据える大きな目標について思いを聞いた。

16歳で出会ったフジロックの熱狂「新しい当たり前」をつくる環境へ

ーーまずは、起業を志すようになった原点についてお聞かせいただけますか。

大社武:
起業の原点は、16歳のときに参加したフジロックフェスティバルです。そこで、10万人もの人々が音楽という共通の目的で集い、熱狂して一体となる景色に鳥肌が立つほど感動しました。このとき、「いつか私も、誰かにこういう感動や出会いのきっかけを与えられる人になりたい」と決意したのです。

その思いを形にするために、学生時代はフリーランスのプロデューサーとしてイベント企画などを精力的に手がけ、主に特定の界隈の人たちを渋谷に集めて「kawaii TOKYO」というコンセプトで世界へ発信する活動をしていました。当時はSNS普及前でしたが、集客や発信などの活動を通してインターネットの強い影響力を目の当たりにし、これからの時代はインターネットが社会を大きく変えると確信しました。

ーー大学卒業後は、どのような道に進んだのですか。

大社武:
「いずれは起業したい」という目標があったため、成長できる環境であり、インターネットビジネスに強いサイバーエージェント社に入りました。どれだけ時代が変わっても「新しい当たり前をつくり続ける」という企業文化が、私の目指す方向性と非常に合致していたのです。入社後は、BtoCの総合格闘技とも言えるソーシャルゲーム事業を志願し、そこでユーザーをその気にさせる「関係性の構築」に没頭しました。その結果、1年目で新人賞を獲得でき、その後も子会社の立ち上げなどを任せていただきました。若くして抜擢された経験は、今の事業にもつながる私の財産となっています。

「鳥肌が立つ感動」から「関係性のデザイン」へ 事業を支える2つの柱

ーーその後、貴社を設立された経緯をお聞かせください。

大社武:
独立後、まずは株式会社TORIHADAという会社を設立しました。同社では「鳥肌が立つ感動をつくる」というミッションを掲げ、インフルエンサーマーケティング事業などを展開していました。これからの時代はAIや自動化によって社会がより合理的になるからこそ、人が感動や共感を覚えること自体が、経済活動において最も重要な判断基準になると考えたのです。

しかし、事業を進める中で、単にSNSで話題を集めるだけでなく、いかに長く持続的に広がる「関係性」を築くかという点がクライアントから求められるようになりました。私自身もファン同士の熱量あるつながりに大きな可能性を感じていました。そこで、この関係性構築に特化するべく、2022年に株式会社SHINSEKAI Technologiesを新たに創業したのです。

ーー具体的にどのような事業を展開しているのですか。

大社武:
大きく2つの軸で事業を展開しています。

1つ目は、日本のトップゲームなど有名IPにおける、グローバルなユーザーコミュニティの運営です。国内外のファンに向けて公式コミュニティを運営し、ファン同士が交流して熱量を高め合う場所を創出しています。

2つ目は、インフルエンサーやブランドに向けたファンコミュニティの運営支援です。ここで中核となるのが、自社で提供しているコミュニティプラットフォーム「MURA(ムーラ)」です。「MURA」はLINEミニアプリを基盤としているため、ユーザーが新たなアプリをダウンロードする手間なく気軽に参加できるのが特徴です。AIを活用してユーザーの行動分析や自動でモデレーションを行うなど、運用を効率化しつつ代行を行っています。これにより、単なるファン交流にとどまらず、熱量を持ったユーザーの商品購入やクチコミ(UGC)が循環するソーシャルコマースの仕組みまで構築でき、個人や企業がコミュニティビジネスを始めやすい環境を整えています。

さらに弊社の大きな強みは、「バズらせて熱量を生み出す」マーケティングの実践力にあるといえるでしょう。例えば韓国発のアイスの事例では、インフルエンサーの起用だけでなく、マスメディアを活用したPRイベントやSNSのアルゴリズム形成までを総合的に設計し、完売の熱狂を生み出しました。プラットフォームの提供にとどまらず、こうした多角的なアプローチで確実に熱量を生み出せるのが私たちの強みです。

「何を」ではなく「なぜ」買ったか 小さな界隈に生まれる熱量

ーー事業の根幹として、企業や個人のコミュニティ形成を重視して支援する理由は何ですか。

大社武:
これからの時代に本当に重要となるのは、「何を買ったか」という過去のデータではなく、「なぜ買ったか」という動機です。そして「その人がデジタル上でどういうつながりを持っているか」が鍵を握ります。広く大衆に呼びかけるのではなく、熱量のある「小さな村(界隈)」をつくることが購買行動において極めて重要です。趣味や好みが共通する村の中で、信頼できる人から“お勧め”されるからこそ、人は納得して商品を購入します。私たちはデジタル上のコミュニケーションを通じ、そうした確かな信頼関係を築くサポートをしています。

ーー事業を展開していく中で、社内の業務体制において工夫されていることはありますか。

大社武:
社内の業務全般において、単なるツールの導入にとどまらずAIをインフラとして徹底活用しています。会議には必ずAI社員を参加させて、終了後数分で議事録を共有したり、タスクの振り分けまで自動で行う仕組みを構築しました。また、社内のナレッジ共有やデータ集計などにもAIエージェントを組み込み、業務の属人化や無駄な待機時間を徹底的に削ぎ落としています。

私たちがここまで徹底する理由は、AIは人の仕事を奪うものではなく、人の可能性を最大化するための存在だからです。AI時代だからこそ、人間同士の関係性や、人にしか生み出せないプレミアムな価値がより高まります。非効率な作業はすべてAIで効率化し、人間は本質的な「関係性づくり」に集中する。この「AIによる極端な効率化」と「人による極端なアナログ的価値(人間味)」の掛け合わせこそが、私たちの組織体制における最大の強みであり、工夫している点です。

ーー今後はどのような目標を見据えていますか。

大社武:
目指すのは、1000億円規模の企業へと成長させることです。現状とのギャップはまだ大きいですが、IPとコミュニティ、そしてそこから生まれる熱量には、それだけの巨大な市場ポテンシャルがあると確信しています。デジタル化が極まり、AIがコンテンツを自動生成する時代になります。そのため、人は本質的な居場所や生きがいを共有できるアナログ的な「つながり」を強く求めるようになるのです。私たちはその熱量を最大化し、企業やクリエイターのビジネスパートナーとして新たな挑戦を続けていきます。

編集後記

取材を通して印象的だったのは、大社氏がデジタル空間における「人間らしい感情の揺れ動き」にこそ活路を見出している点だ。取材の終盤、大社氏はAIを自在に使いこなす様を「オーケストレーション(指揮)」にたとえる一方で、デジタルを一切使わずに感動を届ける「合唱」を、最も尊く人間らしい行為として熱く語ってくれた。テクノロジーが進化し、あらゆるモノが自動化・効率化されていくからこそ、人々は「合唱」で生まれるような体温のあるつながりや一体感をより強く求めるようになるのだろう。徹底したAI活用で組織をスマートにしつつ、その先にある「人のつながり」を重んじる同社。今後どのようなスケールで新たな世界をデザインしていくのか、その飛躍が楽しみだ。

大社武/1987年生まれ。東京都出身。明治学院大学卒業。株式会社サイバーエージェントにてゲーム運営事業に従事した後、インフルエンサーマーケティング企業、株式会社TORIHADAを創業。2022年に株式会社SHINSEKAI Technologiesを設立し、代表取締役社長に就任。「行き場を失った個人の熱量を繋げる」を理念に掲げ、コミュニティ運用とAIを融合した関係性インフラの構築に取り組んでいる。