
従来、閉鎖的でネガティブなイメージを持たれることもあったM&A業界。その不透明な業界構造を改革し、テクノロジーの力で新たな風を吹き込んでいるのが、株式会社M&Aサクシードの金蓮実氏だ。同社が提供するのは、企業が自らの価値を客観視し、最適な出会いをつくる「M&A版ビズリーチ」ともいえるプラットフォーム。なぜ未経験からこの業界へ飛び込み、変革を掲げるのか。そこには、「できない」と言われるとやりたくなるという強い原動力と、日本の企業と働く人々への熱い思いがあった。
不可能と言われると燃える原点にある「価値観を変える」力
ーーまずは、金社長の仕事における価値観の原点を教えてください。
金蓮実:
周囲から「無理だ」と言われると、かえってやりたくなってしまうのが私の原動力です。原点は学生時代に遡ります。私は民族学校に通っていたのですが、ある日、チマチョゴリの格好で駅にいたところ、日本の女子高生から「可愛いね」と声をかけられたのです。当時、学校では日本に対するネガティブな側面を教わることもあったため、お互いの環境に壁を感じ、同じ国に住んでいても深く交わることはないと思っていました。しかし、その一言で「本当は友達になれるのかもしれない。狭い世界から飛び出してみたい」という思いが芽生え、周囲の猛反対を押し切って日本の大学へ進学しました。
ーー自らの意思で新しい世界を切り拓いた経験は、その後のキャリアにどう影響しましたか。
金蓮実:
「無理と言われても、やってみなければ分からない」というチャレンジ精神につながりました。就職活動の際、私の通っていた大学から大手の広告代理店へ入社するのは難しいと言われていたのですが、最初から諦めずに挑戦できたのはあのときの経験があったからです。
そもそも広告業界を志望したのは、大学時代に中国へ留学した際、日本にあまり良い感情を持っていなかった現地の友人の一言がきっかけでした。その子が日系大手企業の携帯音楽プレーヤーの広告を見て「これすごい欲しい」と言ったのです。そのとき、広告には人の本音を引き出し、価値観すら変える力があるのだと強烈に感動しました。
この原体験から「絶対に広告に関わる仕事をする」と決意して就職活動を行い、大学卒業後は株式会社リクルートに入社しました。リクルートでは結婚情報誌の事業などに携わったのですが、そこで展開されていたのは、人生の大事な決断において選択肢を整理して提示し、ユーザー自身が自分の価値観に気づいて選べるよう支援するビジネスでした。これこそ、私が中国で感じた広告の力をさらに突き詰めた形だと確信したのです。私の根底にはこのときから常に、「人の価値観を変え、より良い選択肢を提示したい」という思いがあります。
暗いM&A業界を明るく「会社を知るツール」としてのプラットフォーム

ーーそこから、どのような経緯でM&A業界へ足を踏み入れたのでしょうか。
金蓮実:
暗いイメージが先行するM&A業界を明るくし、前向きな選択肢に変えたいと考えたからです。きっかけは、ある企業の社長様からうかがったお話でした。「自分は絶対M&Aで、自分の後継者を探したくない。なぜなら、こんな嘘っぽいダイレクトメールが毎日のように届くからだ」とおっしゃったのです。他業界はインターネットで情報が可視化されているのに対し、当時のM&A業界はアナログで、閉鎖的なイメージが蔓延していました。
会社には経営者だけでなく、社員がいて、その家族や取引先がいます。一社の重みは計り知れません。だからこそ、より透明性が高く、企業にとって前向きな選択肢となる世界をつくらなければならないと強く感じました。
ーー貴社が展開するサービスの具体的な内容と特徴を教えてください。
金蓮実:
一言でいえば、「M&A版ビズリーチ」です。すでにM&Aを決断した企業だけでなく、すべての企業が自社の市場価値を知るために利用できるプラットフォームです。日本の企業の99%は中小企業であり、上場企業のように自社の価値を客観的に知る機会がほとんどありません。
そこで私たちは、独自の強みとして「法人限定の会員制」という設計を取り入れています。売却を迷われているオーナー様には本来、「自社の従業員に登録が知られたらどうしよう」「よく分からない人に自社の情報を見られるのは不安だ」という強い心理的抵抗や傾向がありました。そのため、検索しても出てこないセキュアな環境を担保するためにあえてプラットフォームへの参加を法人に限定したのです。入口の基準を設けて場を厳選したこと(ハードルを上げたこと)が、結果としてオーナー様が安心して登録できる(ハードルを下げる)という効果を生んでいます。
このセキュアな環境のもと、ビズリーチで個人の職務経歴書を登録すると企業から「あなたのこの経歴が自社の戦略に合致するから、こういう夢を一緒に叶えたい」と具体的なオファーが届くのと同じ体験を、会社版で提供しています。オーナー様がプラットフォームにログインすると、約1万社の会員企業の中で「いつ、どんな会社が、どんな理由で、いくらで興味を持ってくれたのか」が全てダイレクトに見られます。さらに、その閲覧数やオファー数の推移が「業界平均と比べて高いのか低いのか」までデータとして客観視できるため、間にいる仲介人の説明だけに頼ることなく、オーナー様自身が現状を深く納得し、安心して前向きに次のステップを選択できる仕組みを構築しています。
「属人化」を脱却する仲間と共に M&Aを経営の当たり前の選択肢へ
ーー今後の採用において、どのような方と一緒に働きたいとお考えですか。
金蓮実:
業界の当たり前を変え、一緒にプロセスの再現性とサービス品質を高めていける仲間をお待ちしています。従来のM&Aアドバイザーは「個人商店」にたとえられ、担当者の能力によってサービスレベルが上下するという課題がありました。私たちは、一部の優秀な担当者のみが行っていた高度なプロセスを言語化し、プラットフォームと仕組みの力で再現性を高めようとしています。ご自身の業績だけでなく、プロセスの仕組み化や業界変革の思いに共感できる方を求めており、M&Aの経験は問いません。
ーー最後に、貴社の今後のビジョンについてお聞かせください。
金蓮実:
3年以内に、経営者同士の日常会話へ当たり前に弊社の名前が出てくる状態をつくることです。たとえば、「M&Aサクシードのかいしゃ価値トレンドを見たらこんなことが起こっていた」「登録してみたら、こんな企業からオファーが来た」といった話題が交わされる社会を目指しています。
これは単に会社の知名度を上げたいわけではなく、「会社が自社を客観的に知る」という考え方が、文化として浸透した証拠になります。M&Aという言葉のハードルを下げ、暗いイメージを明るく変えたいと考えています。企業の成長や存続のための前向きな選択肢として社会に根付かせていくことが、私たちの使命だと確信しています。
編集後記
リクルートでの事業立ち上げや役員経験を通して、一貫して「人々のより良い選択肢」を追求してきた金社長。その情熱は今、M&A業界の不透明な壁を打ち破る力となっている。社員やその家族を重んじる温かな眼差しと、業界の因習を変革する強靭な意志を併せ持つ姿が印象的だ。自社の価値を客観視する文化が日本に定着した先には、企業の希望に満ちた未来が広がっているに違いない。同社の飽くなき挑戦に注目していきたい。

金蓮実/1979年、札幌市生まれ。大学卒業後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)に入社。上海のブライダル事業立ち上げや、人材事業の営業部長を経て、2013年に株式会社リクルートライフスタイル(現:株式会社リクルート)の取締役に就任。2021年11月より株式会社M&Aサクシードの代表取締役社長に就任。プライベートでは3児を育てながら、スポーツ観戦に情熱を注ぐ。株式会社M&Aサクシードのサービス詳細はこちら(URLを挿入)