
1958年に創業し、茨城県でプロパンガスの供給を主軸としてきた「川島プロパン」。その歴史を受け継ぎ、代表取締役として株式会社NEXT・カワシマを率いるのが川嶋啓太氏だ。家業へ戻る前、関西やニューヨークへ飛び出し、さらにマーケティング会社でビジネスの最前線を経験した。目指すのは、単なるガス供給業からの脱却と、地域に暮らす人々の困りごとを解決するインフラ企業への進化である。100年企業を見据え、顧客と深く向き合う地域密着型のビジネスモデルについて話を聞いた。
100年企業への使命感 関西とNYで培った「多角的な視点」
ーーまずは、家業を継ぐ決意をされた背景についてお聞かせください。
川嶋啓太:
将来はこの会社を続けていく責務があると感じていたからです。弊社は1958年に祖父が創業した会社で、3人兄弟の長男として生まれた私は、物心ついた頃から事業を継ぐものだと思っていました。祖父と父には「100年企業にしていきたい」という共通の目標があり、そのタイミングで会社を牽引するのは私だと考えていたのです。
しかし、高校まで茨城で過ごす中で、一つの観点からしか物事が見えなくなることへの危機感を抱きました。そこで、問題が起こったときに多角的に事柄を見極める力が必要だと感じ、知り合いが誰もいない関西の大学へ進学。価値観の違う人たちと出会い、視野を広げていきました。
ーー大学で視野を広げた後、次に向かったステージを教えてください。
川嶋啓太:
ニューヨークへの語学留学です。より多くの角度から物事を見ることができれば、強くなれると考えたからです。語学学校に通っていましたが、英語を流暢に話すことが目的ではなく、毎日違う人とコミュニケーションを取ることを自分の目標にしていました。さまざまな国籍や宗教の背景を持つ人たちや、現地の日本人駐在員と対等に話す中で、思考の角度をさらに増やすことができました。
ーー帰国後は、すぐに家業へ戻られたのでしょうか。
川嶋啓太:
戻らずに、SNSを活用して人と企業をつなげるマーケティング会社へ就職しました。実家の持つ「信用」という資産を最大限に活かす仕組みづくりを学ぶためです。父からは「ガス供給業に就くなら同業に就職したほうが良い」と言われましたが、専門知識は後からでも学べます。実家に戻った際に出せる最大の価値は、長年築き上げたつながりをビジネスに変えていくことだと考えたのです。
「ガス屋」のレッテルを外し地域の困りごとを解決する

ーー実家に戻られた後に着手されたことの中で、特に大きな変革は何でしたか。
川嶋啓太:
社名を「NEXT・カワシマ」へと変更したことです。「ガス供給業でしかない」という先入観を払拭するためでした。旧社名「川島プロパン」には良い部分もありますが、自社のガスを使っていない方にとっては相談のハードルが高くなってしまいます。50年以上続く「川島」という歴史は残しつつ、新たな仕掛けを行う意味を持たせました。「Next to(隣)」という寄り添う意味合いを掛け合わせ、「NEXT・カワシマ」としたのです。
ーー現在は、どのような事業を展開されていますか。
川嶋啓太:
生活の困りごとを解決し、「困った」を「良かった」に変える事業を展開しています。プロパンガスの供給を軸に、水回りの修理やリフォームなど家回りのインフラ事業を行っています。たとえば、「動画配信サービスを見たい」という高齢のお客様からのご相談にも無償で駆けつけて解決します。
また、地域の困りごとを解決し、関係性を築くために「らぽくらぶ」という会員サービスも展開中です。数百円の月額で、地域の店舗で使える優待券を発行したり、自社企画のイベントへ優先案内するなど、地元に特化したサービスを提供しています。現在は約4000世帯にご加入いただき、困ったときに「まずはカワシマさんに聞いてみよう」と思い出してもらえる関係性を築いています。
あえて「狭く深く」つながる時代に合わせた人間力
ーー社員が地域と深くつながる組織体制の秘訣は何でしょうか。
川嶋啓太:
社員が自らやりたいことを稟議書で提案できる環境づくりを徹底していることです。現在、離職率はほぼゼロで、産休中の社員が転居先からリモートでの就業を希望するほど、会社に愛着を持ってくれています。また、私自身が社長室にこもらず、社員と同じフロアの真ん中に座って風通しを良くしていることも要因の一つです。
お客様からの問い合わせは以前の約3倍に増えましたが、社員数は増やしていません。AIやシステムを活用して社内業務を徹底的に効率化し、生み出した時間をすべてお客様との対面での解決や提案にシフトしたからです。その結果、お客様から社員個人の携帯に直接相談の電話がかかってくるほどの信頼関係が生まれ、物販部門の利益はここ数年で大きく成長しました。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
川嶋啓太:
あえて商圏を広げず、お客様を半径20キロ圏内に絞り、「狭く深く」関係を築いていくことです。遠くへ事業を広げると、困ったときにすぐ駆けつけられず、浅い関係になってしまうからです。現在はこの地域密着型のビジネスモデルノウハウを、他県で事業を営む同業者へコンサルティングとして提供し始めています。
各地域のインフラ企業が独自の会員組織をつくり、地域の生活を豊かにしていくサポートをしたいと考えています。そして10年後には、会社の利益を社員にしっかり還元し、平均給与を高い水準に引き上げる目標に向かって進んでいきます。
編集後記
ガス供給という伝統的な事業を基盤とし、新たな価値を見出した川嶋氏。特筆すべきは、AIやシステムで社内業務を徹底的に効率化する一方、浮いた時間をすべて顧客との泥臭い対面接点に注ぎ込んでいる点だ。あえて商圏を半径20キロに絞り、「狭く深く」地域の生活に入り込む決断は、人口減少社会における地方企業の確かな羅針盤となるだろう。社名に込められた寄り添う姿勢が、社員と地域を幸せにする未来を予感させる。

川嶋啓太/1988年、茨城県ひたちなか市生まれ。立命館大学卒業。大学在学中に米国ニューヨークへ留学、その後東京のITベンチャー企業に入社し、マザーズ上場を経験。2016年に家業の株式会社川島プロパンに入社後、独自の会員サービスを開始。2018年に屋号を株式会社NEXT・カワシマに変更、エネルギーインフラ企業から“地域の人たちをつなげるインフラ企業”へ転換を図っている。2023年4月に代表取締役社長に就任。