※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

仏壇や仏具など宗教用具の製造・卸を手がける株式会社保志。原木の仕入れから加工から組立てまで行える自社工場を国内に持つことを強みとし、近年はデザイナーとのコラボレーションで自由な発想の商品開発も行う。長らく一族経営だった同社だが、法人化79期目で、初の親族外出身者である垣谷昌一氏を取締役社長に迎えた。震災後の激動期に営業部長として組織を立て直し、次代のリーダー育成に注力する垣谷氏に、親族外社長としての決意とこれからの「祈り」の価値についてうかがった。

異業種での挫折から学んだ「商売の本質」

ーーまずは、貴社へ入社した経緯を教えてください。

垣谷昌一:
もともとは大学卒業後に異業種の営業として6年ほど働いていました。その後、父が早くに他界したため、会津若松にあった実家の菓子屋に戻り、家業を継ぎました。しかし、景気の悪化や主要取引先の倒産などが重なり、34歳の時に見切りをつける決心をしたのです。そして新たな道を探す中で出会ったのが、株式会社保志です。

正直なところ、最初は「供養の世界なら急成長はしなくても潰れることはないだろう」という安直な考えもありました。しかし入社試験の際、当時の社長が私一人のために1時間も時間を割き、この仕事の尊さやこれからのビジョンを熱く語ってくれたのです。その熱意に触れ、「何かのご縁だ」と感じて入社を決めました。

ーー入社後はどのような経験を積まれたのでしょうか。

垣谷昌一:
ルートセールスを担当し、全国の販売店様を回りました。新規開拓が中心の以前の営業とは異なり、卸の営業はお客様と長期的な関係を築くことが求められます。定期的に顔を出し、お客様のニーズや地域の動向を把握する中で、「お客様はパートナーであり、自社のファンになっていただくことが重要だ」と学びました。ただモノを売るだけではなく、さまざまな提案を行うこの経験が、私の大きな糧になっています。

その後、東日本大震災が起きた2011年に営業部長に就任しました。当時は需要の急増や震災対応もあり多忙を極めましたが、営業担当者だけが強くても組織は回りません。そこで、営業だけでなくコールセンターや支援スタッフなどの役割分担を明確にし、「人」と「仕組み」を同時に整え、組織の足腰を強化しました。

法人化79期目での大きな転換点 初の親族外社長として描く未来

ーー取締役へ就任された経緯を教えていただけますか。

垣谷昌一:
実は2年前に一度打診があったのですが、同族経営の会社であることもあり、その時は覚悟が持てずお断りしました。しかし再び話をいただいた際、会長から「100年後に残る企業にするために、親族だけにこだわるとよくない。これからはそのときそのとき最適な人材を社長にしていく。」と強い想いを伝えられました。法人化から79期目で初の親族外社長に就任し、「親族にこだわらず優秀な人材に託す」という会長の想いを継承することで、全社員がトップを目指せる夢のある組織づくりを推進していきたいと考えています。

330名程度の社員がいる中で、親族外出身の私がトップを務める姿を示すことで、若手や役職者に「自分も社長になれるかもしれない」と希望を持たせることができる。それが今のトップとしての役割だと話し合い、私も覚悟を決めました。

ーー社長として、どのような組織づくりを目指していますか。

垣谷昌一:
私が入社した当時の営業部は、50代のベテラン社員が多く、昔ながらの固定観念が根強い組織でした。縦割りの組織体制や世代の壁による苦労も経験したからこそ、今は若手が活躍できる柔軟な環境づくりにこだわっています。

会社は「人」でしかありません。ですから、次世代リーダーや経営幹部の育成には特に力を入れています。外部研修だけに頼るのではなく、私自身も一緒に本を読み、リーダーのあり方や組織について語り合う機会を設けています。さらに、入社2、3年目の意欲ある若手を対象とした「未来塾」という勉強会も立ち上げました。OJTも含めて自ら学び深く考える姿勢を育て、より盤石なチームワークを発揮できる組織を築いていきたいと考えています。

国内一貫生産と自ら届ける「祈りと想いのストーリー」

ーー事業内容と貴社の強みについて教えてください。

垣谷昌一:
弊社の強みは、原木の仕入れから加工から組立てまで行える自社工場を国内に持つことにあります。さらに、デザイナーや作家とのコラボレーションを通じて、従来の業界の枠組みを飛び越えた自由な発想の商品開発を行っている点も特徴です。

ーープロモーションにおいて工夫されていることはありますか。

垣谷昌一:
かつての業界には「メーカーは名前を出すな」という風潮がありましたが、生活者にとって「どこでつくられたか」は非常に気になるはずです。そこで弊社では業界の慣習に縛られず、自社のプロモーションチームでSNSなどを活用したブランディングを展開しています。あくまで販売店様を通じた卸売が基本ですが、生活者の動向を直に知るために銀座に直営店(ギャラリー)を構えるなど、お客様に直接「信頼」と「ストーリー」を届けることに注力しています。

ーー今後のビジョンをお話いただけますか。

垣谷昌一:
弊社は「豊かな心を創る」を理念に掲げてます。今後は供養の枠を超え、生まれてから亡くなるまで、人生のあらゆる節目で弊社の商品を手に取っていただけるようなものづくりを目指しています。さらに、何かを想い、祈る気持ちは日本だけにとどまらず、世界共通の想いだと信じています。現にパリでの展示会などにも挑戦しており、日本独自の「祈り」の文化を世界共通の価値として発信していくなど、少しずつグローバルな展開も進めていきたいと考えています。

ーー最後に、ともに働く社員の皆様へ向けたメッセージをお願いします。

垣谷昌一:
50年後、100年後を見据えたとき、現在のお仏壇作りの業態をそのまま続けているかはわかりません。時代とともに供養のスタイルは必ず変化していくため、私たちはお仏壇だけに固執しているわけではないからです。しかし、どのような事業展開になったとしても、お客様の心を豊かにする商品やサービスを提供する理念だけは絶対に忘れないでほしいと伝えています。まずは自らの心を豊かに保ち、それによってお客様の心も豊かにさせる。その揺るぎない信念を胸に、これからも全社員で一丸となって歩んでいきたいですね。

編集後記

創業家以外のトップという大役を引き受けた垣谷氏の言葉の端々からは、「人」への圧倒的な信頼と期待が感じられた。東日本大震災という未曾有の危機に際し、組織の足腰を鍛え上げた実体験が、現在の自律的な組織改革を支えているのだろう。伝統の重みを継承しつつも、メーカー自ら直接発信する姿勢やグローバルを見据えた柔軟な発想力は、業界の常識を覆す力強さがある。100年企業へと歩みを進める株式会社保志が、世界に向けてどのような「豊かな心」を広げていくのか、その飛躍が非常に楽しみだ。

垣谷昌一/1969年福島県会津若松市生まれ。神奈川大学法学部卒業。2004年、株式会社保志に入社。2022年に取締役副社長、2025年に取締役社長就任。