※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

全日本空輸(ANA)での旅客サービスからキャリアをスタートし、香港での人材開発や大手人材会社でのダイバーシティチームの牽引を経験してきた瀬田千恵子氏。外資系の大手消費財メーカーでは人事まで幅広く携わってきた。一貫して「人と組織の変化・成長」の最前線に身を置いてきた同氏。株式会社チームボックスに参画後、2026年6月には同社の共同代表に就任し、「依存からの脱却」を掲げて組織変革を牽引している。AI化が加速する時代において、あえて「人間臭さ」を武器に伴走型支援を展開する同社。リーダー育成の最前線で見出した「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性と、未来の組織が目指す新しい働き方について伺った。

答えのない不条理に耐える「人」と向き合い続けたキャリアの原点

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

瀬田千恵子:
新卒で全日本空輸(ANA)に入社し、旅客サービス部門でキャリアをスタートさせました。働く場所として空港を選んだのは、多様な人と接したいという思いがあったからです。もともとグローバルでダイバーシティな環境を好むため、さまざまな方に接客できる業務は当時の自分にとって大きな刺激でした。だからこそ、私のこれまでの歩みの中で「人」は外せないキーワードとなっています。

ただ、20代から30代前半までは転職回数が多く、企業から経歴を気にされることも少なくありませんでした。当時は確固たる軸がなく、「人と携わりたい」程度の気持ちだったのです。現在のように人の成長に関する使命感などを抱いていたわけではなく、ひたすら目の前の仕事にじたばたしながら取り組んでいた時期だったと振り返っています。

ーーその後のキャリアで大きな転機となった出来事を教えてください。

瀬田千恵子:
香港に渡り、現地スタッフの採用や育成に携わったことが最初の転機です。文化が異なるメンバーと関わる難しさを感じる一方で、育成を通じて人が成長していく面白さに気づきました。

その後、日本に戻って人材サービス会社のパソナへ転職し、営業部門でマネジメントを任されたことも大きな出来事ですね。年齢も価値観も多様なチームをまとめ、人を育てながら成果を上げる経験をしました。このミドルマネージャーとしての活動を通じて、人と組織が変化する醍醐味を肌で感じ、やがてリーダーを育てることを生業にしたいと考えるようになったのです。

ーーマネジメントで直面した困難はどのように乗り越えられたのでしょうか。

瀬田千恵子:
営業時代は数字を上げることへの執着が強く、すぐに結果を出したい「ポジティブ・ケイパビリティ(実行力)」が前面に出ていました。しかし、人材育成や会社経営を担うようになると、人間関係の摩擦やすぐには答えが出ないジレンマに直面することが増えたのです。

そこで必要になったのが、あえて結論を急がず、曖昧な状態に耐えながら俯瞰して考え抜く「ネガティブ・ケイパビリティ」でした。チームボックスに参画し、多様で個性豊かなメンバーと本音で関わり合いながら関係性を築く中で、時間をかけてようやくこの耐える力を養うことができたと感じています。

「社長依存」からの脱却と共同代表就任に込めた覚悟

ーー貴社の共同代表に就任された経緯をお聞かせください。

瀬田千恵子:
2020年秋に業務委託として関わり始め、大学院進学や前職の退職を経てフルコミットするようになり、取締役やCOOを経てきました。共同代表に就任した最大の理由は、「社長依存」からの脱却です。

創業から10年以上、弊社はもう一人の代表である中竹の看板や信用で成長してきた側面があります。しかし、一人の役員が退任したこの3年ほどの間に、メンバーの意識が大きく変わりました。中竹ありきではなく、自分たち自身で価値をつくり、お客様に選ばれ、貢献する。そのプロセスを通じて、仕事のやりがいや社会に価値を発揮する面白さを実感するメンバーが増えてきたのです。これからの時代を勝ち抜くためには、自分たちのバリューで勝負できる組織にならなければならない。その覚悟を示すための共同代表就任でした。

ーー代表に就任されてから、社内ではどのような変化がありましたか。

瀬田千恵子:
明らかに「依存」から「自律」へとシフトしています。弊社はシニア層のコーチも多いのですが、ここ数年で大学生のインターン生などを採用し、組織の若返りを図りました。ここで重要なのは、自身の成長も他者の成長も信じる「グロースマインドセット」の浸透です。年齢や経験にかかわらず、年配のメンバーが若手のひたむきな姿勢から真摯に学びます。若手もベテランから吸収する「相互学習」の姿勢が定着しました。この世代を超えた学び合いが、組織変革の最大の起爆剤になっています。

実直に伴走する「唯一無二」の強みとその先に描く未来

ーー貴社がお客様から選ばれ続ける理由は何だとお考えですか。

瀬田千恵子:
私たちの最大の強みは、実践的な伴走型支援と、そこに宿る「人間臭さ(ヒューマニティ)」です。答えのない人材育成の領域だからこそ、愚直に顧客のリーダーに寄り添い、忍耐強く伴走し続けます。

私たちは、コンサルタントを「リーダーを映す鏡」だと捉えています。お客様に本当に変わっていただくためには、私利私欲を捨ててお客様を第一優先とし、時には耳の痛いフィードバックをお伝えすることも厭いません。そして同時に、教える側である私たち自身も、常に既存の価値観を手放す「アンラーン」を実践し、お客様と一緒に変わり続ける覚悟を持っています。

ーー今後の事業展開や、貴社が描くビジョンについて教えてください。

瀬田千恵子:
来期は、AIを戦略的に取り入れつつも、私たちのコアである「泥臭さ」や「ともに学び合う人間味」をさらに進化させていきます。変化に適応する「アダプタビリティー」と、未来に向けて準備する「フューチャーレディネス」を兼ね備え、AIと人間味を高度に融合させていくことが大きなテーマです。

また、私個人の影響力強化にも注力します。実践知と学術的な知見を掛け合わせた情報発信やアメリカの研究所の翻訳本の出版に加え、2026年10月にはトロントで開催される国際学会に登壇する予定です。こうした発信力を両輪とすることで、最終的には日系企業から「グローバルリーダー」を輩出する実績をさらに増やしていく方針です。

ーーグローバル展開を見据え、組織体制としてはどのような形を目指していますか。

瀬田千恵子:
3年から5年後には、正社員30人規模の組織を目指しています。しかし、ただ規模を拡大するだけでなく、組織に依存しない自由な働き方を推奨していくつもりです。具体的には、「ダブルキャリア」などの新しい働き方を積極的に取り入れます。たとえば、大学教授を務めながら私たちのプロジェクトに参画していただくような形ですね。

私たちが求めているのは、自律しながらも会社の理念を共有し、こうした新しい働き方の中でともに成長・貢献していける若手の方々です。また、ご自身の専門性を活かしてサービスの可能性を広げてくださる専門人材も渇望しています。私たちと一緒に挑戦してくれる方々との出会いを、心から楽しみにしています。

編集後記

「答えのない不条理に耐える力」。瀬田氏が語るネガティブ・ケイパビリティは、すべてのリーダーに求められる素養だろう。変化が激しく正解が見えない現代のビジネスにおいてこの力は非常に重要だ。テクノロジーの波を拒まず、AIを使いこなしながらも、あえて「人間臭さ」をコアな価値として研ぎ澄ませていく同社。既存の枠組みに縛られない自由な働き方を掲げ、組織への依存から個の自律へと舵を切った。これからどのようなグローバルリーダーを輩出していくのか、その次なる飛躍に期待が高まる。

瀬田千恵子/兵庫県生まれ。全日本空輸(ANA)で旅客サービス業務に従事した後、小売業界で店長として現場の人材採用・育成を担う。その後、香港に渡り、現地日系外食グループで人材開発を担う。帰国後は大手の人材会社で人材派遣、採用、コンサルティングに加え、新規事業の立ち上げに携わる。外資系の消費財企業でHRアシスタントマネージャーを務めたのちに独立。2026年6月、株式会社チームボックス代表取締役COOに就任。