
地域インフラを支える測量や設計などの分野で、強固なグループネットワークを持つ株式会社弘洋第一コンサルタンツ。代表取締役の野口桂司氏は、父の急逝を乗り越え、何もない状態からM&A戦略で事業を拡大してきた。あえて上場しない道を選び、「相手を思いやる」という原点を見つめ直しながら、全国47都道府県、さらには海外展開や最新のDX事業にまで視野を広げている。人を育て、事業をつなぐための組織論と今後の展望に迫った。
「雇用の場をつくる」父の教えと急逝に伴う事業承継の試練
ーーまずは、野口社長のキャリアの原点について教えてください。
野口桂司:
私の原点は、父から学んだ「雇用の場をつくる」という使命です。私自身、若い頃はお金を稼ぐことばかりを考え、実家の会社の下請けになれば手っ取り早く儲かると思い込んでいました。しかし、その考えを父に話したところ、「雇用の場をつくるために会社をつくったんだ。お前はお金しか見ていないのか」と厳しく叱責されたのです。
当時はその言葉の真意を理解しきれずにいました。それでも、お金だけを追い求める生き方に次第に疑問を抱くようになり、「どのような人と人生を歩み、最期を迎えたいか」といった人間同士のつながりの方が重要だと気がついたわけです。
ーー会社の後を継がれた当時の状況についてお聞かせください。
野口桂司:
私が20代の時に父が急逝し、会社の後を継ぐことになりました。当時は、従業員が次々と退職してしまい、さらに、仕事も片道3時間半かかるような遠方の現場しか受注できなくなるなど、非常に厳しい状況でした。しかしそのような中でも、就業規則などのルールもない状態から一つひとつ仕組みをつくっていったり、未経験であった民間の不動産開発に挑戦したりするなど、周囲の方々にたくさん支えていただきながら、なんとか会社を立て直すことができました。
M&Aによる独自の成長戦略とあえて上場しない理由

ーー危機を乗り越えた後、どのような戦略で事業を拡大していったのでしょうか。
野口桂司:
事業展開のスピードを上げるため、M&Aを活用してグループを拡大していきました。初めのうちは地元の三重から愛知へ通い、実績をつくって事務所を立ち上げましたが、雇用を生むまでに約10年の歳月がかかりました。そこで、次に大阪へ展開しようと考えたとき、同じやり方ではさらに10年かかってしまうと考え、自力で拠点を広げるよりも、M&Aを活用したほうが圧倒的に早いという結論に至ったのです。
また、事業をホールディングス化したのは、株価の評価を引き下げるなど、会社と雇用を守るための財務的なメリットがあるためです。私は、ファンドなど外部から集めた資金に頼るのではなく、自ら生み出した利益で事業をつくり出していくことが真の経営だと考えています。そのため、地に足をつけながら、同じように地域で事業を営む企業を仲間に迎える形でグループを広げてきました。
ーー企業規模が拡大してもあえて上場を目指さない理由は何ですか。
野口桂司:
上場しないことには明確な理由が存在します。現在、弊社には177名ほどの社員がおり、グループ全体では486名が在籍するまでに成長しました。もし上場した場合、20人規模の小さな組織に対しても、大きな会社と同じ画一的なルールを一律で適用しなければならなくなります。自社の利益だけを考えるならば、上場して資金を集める道もあるでしょう。
しかし、現場にはそれぞれの適正な規模や適したやり方というものがあるはずです。それらを無理にひとつの枠に押し込めるのは、各企業の良さを消してしまい、現場にとって大きな負担になってしまうと考えました。そのため、各社の実情に寄り添う形を優先し、今のスタイルを貫いているのです。
測量チーム日本一を支える「思いやり」と「グループの力」
ーー組織づくりにおいて、大切にしていることはありますか。
野口桂司:
「人に優しい人になること」、そして「思いやり」と協力体制です。相手がしてほしいことをどれだけ自分が提供できるかが重要になります。仕事は結婚と同じで、見返りを求めるのではなく無償の愛情や思いやりが基盤です。会社のルールに文句をいうのではなく、定められた制度の中で何ができるかを自ら考えるべきだと社員には伝えています。そして、「なぜその地域に会社があるのか」という企業理念や意味を常に問い続けることが大事です。
ーー全国規模のグループならではの強みは何でしょうか。
野口桂司:
季節を問わず仕事ができ、人手不足の時期でも互いに補完し合える点です。現在、グループ内の測量チームは日本一の規模を誇るまでになりました。全国に拠点があるため、雪が降る前に北海道の仕事を終わらせるなどの工夫が可能です。季節の波をならして水平展開し、分け合うことで、互いに助け合いながら事業を回していくことができ、これこそ私たちがグループとして存在する最大の強みです。そのためにも、イベントなどを通じて社長同士、あるいは現場で働く従業員同士のコミュニケーションを積極的に図るように心がけています。
500億円の景色を見据え技術とネットワークを世界へ
ーー今後の展望をお聞かせください。
野口桂司:
まずは売上高100億円、そして次のステージとして300億円の達成が当面の目標です。その際、単に目の前の数字を追うのではなく、500億円規模の企業を経営するような高い視座を持ち、全体を俯瞰しながら事業を進めることが重要だと考えています。
また、具体的な構想として、47都道府県すべてに5億円規模の会社を1社ずつつくることを思い描いています。さらに今後は、国内にとどまらず、弊社で働いてくれている外国人が将来母国へ帰ったときに活躍できるよう、彼らの国に現地法人をつくるといった海外展開も視野に入れています。そうした独自の取り組みを通じて、これからも多くの雇用の場と面白い事業を創出していくつもりです。
ーー会社として、新たに挑戦されていることはありますか。
野口桂司:
独自のネットワークを活かし、日本の優れた技術を海外で売ってもらう仕組みづくりを進めています。国内でも最新技術の導入に積極的です。たとえば、衛星データなどを活用して収穫量の最適化を目指す農業DXの推進があります。ほかにも古い下水道管の点検を、機械で行う事業などを秋田県で実証実験しようと計画中です。東京などの大都市だけでなく、地方でも公平なインフラサービスを受けられるよう、今後も新しい形を追求していきたいですね。
編集後記
「雇用の場をつくる」という父の教えを胸に、社員との対話と信頼関係を基盤として独自のネットワークを構築してきた野口社長。その言葉の端々には、現場の従業員を思いやり、地方格差などの社会課題に対しても自分たちができる最善を尽くそうとする温かな視点があふれていた。500億円の視座から次世代のインフラを思い描き、日本の技術力で地域から世界までを支えようとする同社の歩みは、今後さらに力強さを増していくことだろう。

野口桂司/1977年生まれ。2000年中部大学卒業後、株式会社弘洋コンサルタンツに入社。介護・イベント事業などの立ち上げを経て、同社取締役副社長として全国に支店を展開。2021年以降は積極的なM&A戦略により、全国各地の企業を次々とグループ傘下に収める。2023年、第一航業との合併に伴い株式会社弘洋第一コンサルタンツ代表取締役に就任。地域活性化にも尽力しつつ、さらなるグループ拡大を推進し現在に至る。