
製麺機メーカーとして事業を展開する傍ら、自社の食品工場で日々何万食もの麺を製造し続ける株式会社スズキ麺工。長い歴史の中では、10期連続の赤字という極めて厳しい経営状況も経験した。しかし、独自のアプローチと強烈なリーダーシップでV字回復を成し遂げている。独自の「半生ラーメン」開発秘話から、「宮大工」としての誇り、そして次世代を見据えたAI活用まで。数々の困難を乗り越え、未来の製麺業界を牽引する鈴木保夫氏に、その行動の背景や今後の展望を聞いた。
どん底からの社長就任 「半生ラーメン」の製品化と徹底したコスト削減
ーーまずは、貴社に入社された経緯からお聞かせください。
鈴木保夫:
もともと大学卒業後は、東京の大手食品メーカーへ入社しました。しかしその2年後、会社の業績が厳しくなり、家業に入ることになったのです。入社後はまず製造の現場に入ったのですが、怪我をしてしまい、それをきっかけに研究開発室へと異動することになりました。そこで、まだ世の中に定着していなかった「半生ラーメン」というジャンルの設備と製品を開発し、これが大手鉄道会社と共同で展開したことで大きな反響を呼んで、結果的に多くの大手企業の目に留まることになりました。
ーー大手企業との取引を契機に、事業の拡大は順調でしたか。
鈴木保夫:
実は2001年に会社として深刻な経営危機に直面し、事業の抜本的な見直しを行いました。当時、大手小売業向けのベンダー事業に参入していたのですが、想定通りには進んでいませんでした。経営資源の多くがそちらに吸い取られ、その結果、10期連続の赤字に陥ったのです。会社が非常に厳しい状況の中、30代半ばだった私が急遽社長に就任することになりました。就任翌日からすぐに事業の再建に奔走し、食品工場の閉鎖やベンダー事業の抜本的な見直しなど、大きな決断を下していきました。給与カットなどとにかく徹底的なコスト削減を断行し、なんとか事業を立て直してV字回復を果たすことができたのです。
スローガンは「明日の風を掴もう」 機械と麺づくりのプロである「宮大工」としての矜持

ーー事業を立て直した現在、大切にされている方針は何ですか。
鈴木保夫:
「明日の風を掴もう」という言葉を、スローガンとして最も大事にしています。企業が生き残るためには、去年や昨日と同じことをしていては成長できず、あっという間に競合他社に埋もれてしまいます。明日の風を掴むべく、常に情報や技術を取り入れ、着実に新しいものを開発していく姿勢が全社員の羅針盤になるのです。
ーー新しい開発を進める中で、貴社ならではの強みはどのような点にあるとお考えですか。
鈴木保夫:
製麺機をつくる「機械屋」でありながら、自社の食品工場を持ち、麺づくりという「ソフト」の領域も「超専門」としている点です。小麦粉は非常に難しい素材ですから、毎日同じ機械で同じように作っていても、その日の気温や湿度によって、均一な品質ではつくれません。素材の特性を見て柔軟に微調整を行う、いわば「宮大工」のような存在でありたいと考えています。無理な規模の拡大ばかりを追うのではなく、独自のノウハウでお客様の設備を長く守り抜く職人集団であることが私たちの強みです。
ーー自社工場での麺づくりにおいて、特に意識されていることを教えてください。
鈴木保夫:
食品安全の国際規格であるFSSC22000を、中四国エリアでもトップクラスの早さで取得しました。私たちは大手企業向けの製品をつくらせていただいています。そのため品質保証とものづくりの水準を常に高く保ち、お客様からの信頼を確固たるものにすることを徹底しています。
自前主義にこだわらないソリューション提案と最新技術が拓く未来
ーー高い品質基準を維持する中で描く、5年後、10年後のビジョンをお聞かせください。
鈴木保夫:
新しい麺づくりをしたいときに「まずはスズキ麺工に相談しよう」といわれる存在になることです。その際、必ずしも自前の機械を売ることにこだわりません。お客様の予算や要望に合わせて、自社にない機械であれば他社から調達して提案します。麺をつくりたいという企業様の課題を解決する、包括的なソリューション提案ができる会社でありたいと考えています。
ーー人材育成や社内環境についてはどのような取り組みをされていますか。
鈴木保夫:
これからの時代を見据え、人材育成には非常に力を注いできました。社内ではいち早く最新の生成AIを活用した研修を導入し、業務へのAI活用を推進しています。また、製麺設備においてもオペレーターの癖をデータ化するような技術の活用を進めているところです。また、設備も数年おきに最新鋭のものに入れ替える方針をとりました。20代の社員は新しい道具がないと面白みを感じないものです。そのため設備投資はできるだけ積極的に行い、働きやすくワクワクできる良い環境を整えています。
ーー新しい技術を積極的に導入する環境で、今後どのような人物を求めていますか。
鈴木保夫:
華々しい経歴や高い身体能力などは必要はありません。製麺や機械加工という仕事に対して真っ直ぐに向き合い、会社とともに成長していける方を求めています。うちの会社に入って技術や資格を身につけ、お客様と深い信頼関係を築きながら、胸を張って職務に打ち込む。そんな熱意を持った方に、ぜひ仲間に加わっていただきたいですね。
編集後記
深刻な経営危機を乗り越え、製麺業界における設備製造と麺づくりの両軸を極めた同社の代表取締役、鈴木保夫氏。「うちは宮大工でいい」という言葉には、職人集団としての確固たる矜持が滲んでいた。自前主義にこだわらないソリューション提案力と、惜しみない設備投資による若手育成への熱意。数々の苦難を乗り越えてきた同社だからこそ生み出せる新たな価値が、これからの製麺業界にどのような変革をもたらすのか期待が高まる。

鈴木保夫/1962年岡山県生まれ、立正大学卒。大手食品会社等での修業を経てスズキ麺工へ入社。研究開発部門で半生ラーメンの設備開発等に携わった後、30代半ばで同社代表取締役社長に就任。「明日の風を掴もう」をスローガンに経営再建を果たし、現在は製麺機と製麺事業のシナジーを生かした事業展開を進めるとともに、製造の自動化や人材育成に注力している。