
1950年の創業以来、炭鉱関連ビジネスから砕石、そして産業機器や建設機械へと、時代の変化に合わせて柔軟に事業を転換・拡大してきた株式会社南陽。そんな日本のインフラとモノづくりを長年にわたり支え続けてきた老舗商社において、非創業家出身として初めてトップのバトンを受け取ったのが、代表取締役社長の篠崎学氏だ。オーナー家経営からの脱却を見据え、「次世代リーダーの育成」や「組織の惰性の打破」に挑む同氏に、誠実さを貫くリーダーシップと、新たな成長戦略の全貌をうかがった。
時計・宝石の異業種から機械商社へ 幾多の修羅場が育てた「腹をくくる覚悟」
ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせください。
篠崎学:
私は新卒から南陽に在籍していたわけではありません。以前は時計や宝石といった嗜好品を扱う異業種の商社に身を置いていました。そこでは、上場準備に向けた準備スタッフの一人として携わっていたのですが、1997年頃から急激に市場環境が変化したこともあり、キャリアを考え直すようになりました。その際、自分自身が上場準備を経験していたからこそ、「実際に上場している企業はどう動いているのか、内側から見てみたい」という思いが強くなったのです。そこで前職を辞めて、2001年に南陽へ中途入社をしました。嗜好品を扱っていた前職とは業界も顧客層も全く異なりますが、組織を動かすマネジメントの観点など、共通して活きる経験は多かったですね。
ーー社長に就任されるまでの期間で、最もご自身を成長させた出来事は何でしたか。
篠崎学:
いくつかありますが、まずは東京証券取引所への上場準備に携わったことです。日本で最も審査が厳しいと言われる基準、特に内部統制の難しい部分をクリアし、「もっと良い会社にしたい」という当時の社長(現会長)の思いのもと、2017年12月に上場を果たせたことは大きなターニングポイントでしたね。
また、不祥事対応も最前線で苦慮した経験です。問題解決のために立ち続けるうちに、気がつけば精神的に強く鍛えられていました。そして何より厳しかったのは、2008年のリーマン・ショックによる業績の悪化です。コスト削減がいかに重要かを痛感し、交際費や旅費交通費を徹底して見直すなど、厳しい環境を乗り越えてきました。
ーー数々の厳しい危機に対して、どのような姿勢で向き合ってきましたか。
篠崎学:
逃げずに真正面から向き合わなければ見えてこない景色があります。もちろん落ち込むこともありますが、後から振り返れば、一番辛い思いをしているときこそが最も成長しているときなのです。だからこそ、困難から逃げず、最終的には自分自身が「責任をとる覚悟」をもつことが、リーダーには不可欠だと考えています。
「上がズルいと組織は腐敗する」 ありのままを貫く誠実な信念

ーー非創業家として初の社長就任の打診を受けた際のお気持ちはいかがでしたか。
篠崎学:
就任する1年前、当時の社長(現会長)から突然「社長を代わって」と言われたときは本当に驚きましたね。その後、秋頃に正式な話になり、「次を任せる」と言われたときは、私でいいのかという戸惑いがありました。これまで社長を目指してキャリアを積んできたわけではなかったので、実はしばらくは憂鬱な日々が続いていたのです。
しかし、深く思い悩む中で心境に変化が生まれました。これまで組織に守られてきた立場から、今度は自分が全責任を引き受け、組織を守る側へと舵を切らなければならないのだと気づいたのです。振り返れば、あの憂鬱だった日々は、トップとしての覚悟を決めるために不可欠な期間だったのだと思います。
ーー全責任を担うトップとして大切にされている信念をお聞かせください。
篠崎学:
一番の軸は「ズルいことをしない」「背伸びをしない」「自分たちにできることをしっかりやる」といった真っ直ぐな姿勢です。人を欺かない誠実さは、組織運営において最も重要です。企業が腐敗していくのは上の人間がズルいことをしたときであり、上がズルいことをして許されているのを見ると、下にいる社員は自分たちもやっていいのだと勘違いし、組織全体がおかしくなってしまいます。だからこそ、上に立つ人間は常に毅然とした態度で、不正やごまかしを許さないモラルを持ち続けなければなりません。
ーーそんな思いを社員の方々にはどのように伝えていますか。
篠崎学:
何か特別なことをするというよりも、常に「ありのままの私」を出すようにしています。たとえば、飲み会が開かれれば顔を出しますし、社員との距離感はかなり近いと思います。弊社は大企業ではないからこそ、風通しの良さが非常に重要です。私が社長になる前から、20代の社員や新卒などの若手に対してもフランクに接する文化が根付いていたため、その良い雰囲気は今でも大切にしています。
時代に合わせて事業を転換 最大の武器である「目利き力」とダイナミズム
ーー改めて、貴社の事業内容についてお聞かせいただけますか。
篠崎学:
弊社グループは現在、ショベルカーなどの販売やレンタルを行う建設機械事業と、半導体製造装置などを扱う産業機器事業の2本柱で展開しています。自社製品を開発するメーカーとしての側面も持ち合わせていますが、売上の主軸は多様なメーカーの製品を取り扱う商社としての機能です。特定の自社製品に縛られず、土木・建設業界から最先端の半導体業界まで、市場のニーズに合わせて幅広い選択肢を持てる柔軟な事業構造そのものが、私たちの競争力の源泉となっています。
ーーお客様から最も評価されているポイントはどこにありますか。
篠崎学:
最大の武器は「目利き力」です。お客様が「こんな課題を解決したい」というぼんやりとしたニーズを抱えているとき、弊社の営業担当は膨大なメーカーの製品の中から、最も適合するものを的確に選び出し提案できます。メーカーであれば自社の製品しか売ることができませんが、私たちは特定の製品に縛られることなく、お客様にとっての最適解をフラットな視点で導き出せます。「南陽に相談すれば、必ず良い提案をしてくれる」というお客様との深い信頼関係こそが、私たちの最大の強みです。
ーー若手社員が貴社で働く「面白さ」はどこにあるとお考えですか。
篠崎学:
日本のインフラやモノづくりを根本から支える、ダイナミックなビジネスを動かせる点です。私たちが提案した機械や装置が、世の中の大きなプロジェクトや製品づくりに直結している手応えを感じられます。そして何より、社員自身が「これが面白いんじゃないか」と思った新しい製品やサービスを発掘し、それを社内に広げてビジネス化していくチャレンジができる環境があります。受け身ではなく、能動的に動ける人にとっては非常に面白いフィールドです。
年功序列の廃止と「惰性」への危機感 若手社員の能動的な挑戦を促す文化
ーー能動的な挑戦を促すために、組織や制度の面で変革されていることはありますか。
篠崎学:
私が社長に就任してから、人事評価における年功序列を廃止しました。そのため、実力があってしっかりと成果を出した社員には、年齢にかかわらずどんどん引き上げていく方針を明確にしています。もちろん長い歴史を持つ会社なので、一気に変えて組織にアレルギーを起こさせないよう、少しずつ浸透させている段階です。しかし、実力を見極めて適切に評価する文化を根付かせることは、企業の成長に不可欠です。
ーー人材育成の面では、具体的にどのような取り組みをされていますか。
篠崎学:
これまでは現場で先輩の背中を見て覚えるという属人的な育成の色合いが強かったのですが、現在はより全社的かつ組織的な人材育成の仕組みへと移行しています。成長スピードは人それぞれ異なるため、一人ひとりの状況をしっかりと見極めながら、優秀な人材には早くから責任ある仕事を与え、全員が確実に成長できる環境を整えていきたいと考えています。
ーー歴史ある組織において、新しい挑戦を生み出すための課題は何でしょうか。
篠崎学:
一番のハードルは、組織の中に潜む「惰性」です。「今までこのやり方で上手くいってきたのだから、そのままでいい」という、現状維持の考え方が広がることを最も恐れています。市場や世の中のニーズは常に変化しており、既存の成功パターンに固執していればいずれ必ず衰退します。だからこそ、社員一人ひとりが「このままではいけない」という危機感を持ち、常に世の中の変化に合わせて自らを進化させ続ける組織でなければなりません。
M&AとASEAN進出 次世代経営幹部を育て新たな商社の景色をつくる

ーー今後の成長戦略として、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか。
篠崎学:
急成長を追うのではなく、企業の質を高めながらコツコツと着実に成長し、投資家の皆様の期待に応えていくのが弊社の基本路線です。その上で注力しているのが、M&Aやアライアンスの推進です。世の中には優れた技術を持ちながら、営業力不足や事業化のノウハウがないために埋もれている中小メーカーがたくさんあります。そこに私たちの営業力や市場のニーズをすり合わせる企画力を掛け合わせることで、新たな価値を創造していきたいと考えています。
ーー海外市場への展開についてはいかがお考えですか。
篠崎学:
日本の市場だけを見ていては、今後の成長に限界があります。そこで現在は、ベトナムなどのASEAN市場の開拓を進めています。しかし、海外展開を成功させるためには20代の社員の力が必要です。現状はベテランの幹部社員が海外拠点をまとめていることが多いですが、今後は海外で活躍したいと手を挙げた20代の社員が、グローバルなプロジェクトに関わり、成長できるような仕組みをもっと充実させていきたいと考えています。
ーー最後に、これからの南陽を担う「次世代リーダー」に求める思いをお聞かせください。
篠崎学:
同族経営から脱却した今、一部の人間だけでなく、多くの社員が経営者目線を持つことが重要です。会社の置かれている状況を大局的に把握し、何が最優先されるべきかを判断できる感覚を養ってほしいと思います。
そしてリーダーとして最も大切なのは、自分と「違う意見」を受け入れる度量です。自分が正しいと強引に押し進めるのではなく、反対意見の背景にある真意を掘り下げて考える。そこにこそ、組織を正しい方向へ導くヒントがあります。最終的な責任から逃げず、腹をくくって挑戦できる次世代のリーダーたちとともに、南陽の新たな景色をつくっていきたいと考えています。
編集後記
篠崎氏の穏やかな語り口の奥底にある「腹をくくる覚悟」に強く心を揺さぶられた。幾多の修羅場を越えてきたからこそ行き着いた「決してごまかさない」という真っ直ぐな姿勢は、企業が向かうべき北極星のように揺るぎない。現状維持を是とせず、痛みを伴う変革の最前線に自ら立つその背中からは、長年培われてきた顧客との深い信頼を次世代へとつなぐ並々ならぬ熱量を感じた。大局的な視点を持つ次代のリーダーたちと、若手のあくなき挑戦心が交わるとき、この会社はかつてないほどの大きな飛躍を遂げるに違いない。

篠崎学/1968年7月21日生まれ。福岡県福岡市出身。福岡県立修猷館高等学校、愛媛大学法文学部卒業。2001年、株式会社南陽に入社。取締役管理本部長兼経営企画室長、常務取締役管理本部長兼経営企画室長を経て、2023年より非創業家出身で初の代表取締役社長に就任。