※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

「20代の社員は2人くらい。平均年齢は50歳を超えていた」。そう振り返る柳慎太郎氏は、現在、ガスや自動車整備、建設といった生活のインフラを支える事業を多角的に展開するカクシングループを率いる代表取締役社長である。同氏が入社した当時の組織は高齢化に直面しており、若返りと組織改革が急務であった。孤軍奮闘の採用活動からスタートし、創業60期という節目に社名を変更して「第二期創業」を掲げるに至る。本記事では、AI時代にこそ求められるブルーカラーの価値と誇りを再定義し、業界の常識を覆す待遇改善に挑む同氏の経営手腕に迫った。

平均年齢50歳超の組織での孤軍奮闘と「第二期創業」への覚悟

ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。

柳慎太郎:
私は幼い頃から、三代目として家業であるヤナギグループ(現・カクシングループ)を継ぐ意識を持って育ち、大学卒業後に他社で3年間営業を経験したのち、2006年に弊社に入社しています。しかし、当時は全体で80名ほどの規模に対して、社員の平均年齢は50歳を超えていました。20代は私を含めて2人しかいない状態で、新卒採用はおろか組織としてのルールも整備されておらず、このままでは先細りすると痛感しました。

ーーそこからどのように組織改革を進めましたか。

柳慎太郎:
まずはゼロから採用活動を始めました。とにかく人がいないため、採用サイトの案内文作成から、会社説明会の受付や司会進行まで、すべて自分でやるしかなかったのです。最初の説明会には20名ほど集まってくれましたが、組織の受け入れ体制をつくるのにはとても苦労しましたね。また、既存のプロパンガス事業だけでは頭打ちになると考え、入社2年目にはウォーターサーバーなどの新規事業も立ち上げています。

ーー社長就任後、60期という節目にどのような決断を下したのでしょうか。

柳慎太郎:
「第二期創業」を宣言し、社名を「カクシングループ」へと変更しました。60期という還暦を迎えるタイミングは、人間にたとえれば第二の人生が始まる時期です。ガスというビジネスモデルで長年やってきた会社を、もう一度成長軌道に乗せるための決断でした。その際、自分たちが何のために存在するのかという理念を徹底的に見直し、「カクシンリョクで世界を豊かにする」というミッションを掲げました。

この「カクシン」という社名には、5つの意味が込められています。まず、世の中を変えていく「革新」。2つ目は、ブレずに信じ抜く「確信」。3つ目は、世の中に必要な事業の真髄である「核心」。4つ目は、個々の長所を活かす「各心」。そして5つ目は、明るく新しい未来を描き創造する力を意味する「描く新緑」です。こうした理念のもと、カクシンライフ、カクシンモビリティ、カクシン建設という現在のグループ体制へと移行したのです。

社員の人生を輝かせるための圧倒的な待遇改善と仕組み化

ーー独自の教育制度についてお聞かせください。

柳慎太郎:
高い人材定着率を実現している理由に、未経験でも着実に成長できる教育制度を整備したことが挙げられます。組織の若返りを図る中で、長年培ってきた「ブラザーシスター制度」が機能しているのです。これは年齢の近い社員が20代の若手を教育し、ちょっとしたことでも相談がしやすくなる仕組みです。さらに「ステップアップ計画」という制度も構築しました。未経験で入社しても、早い段階で0.7人前レベルまで成長できる明確な教育プランを用意しており、これによって、若手が孤立せずにスキルを身につけられる環境が整いました。

ーー社員の待遇面ではどのような改善を行いましたか。

柳慎太郎:
基本給を5万円引き上げるという、大幅なベースアップを実施しました。社員の定着と成長には、教育だけでなく待遇の抜本的な改善が不可欠だからです。さらに、一般社員の年間休日を120日に増やし、残業時間も厳格に管理しています。会社としての現在の目標は、社員の平均年収を600万円まで引き上げることです。

ーー大幅な待遇改善を実現できた最大の理由は何でしょうか。

柳慎太郎:
徹底して生産性を高めているからです。私は生産性向上のことを口酸っぱく言うのですが、それは決して会社を儲けさせるためだけではありません。究極の目的は、社員一人ひとりが自分らしい人生を送り、プライベートを充実させることです。短い時間でしっかり収益を上げ、その分で得た時間とお金を家族や趣味のために使ってほしいと考えています。社員の人生が輝く会社にすることが、私の目指す組織のあり方です。

AIには代替できない「インフラを支える仕事」の誇りと未来

ーー今後の事業展開における最大の注力テーマを教えてください。

柳慎太郎:
究極のテーマは、AIには決して代替することのできない「ブルーカラーの仕事」の価値と誇りを再定義し、業界全体の待遇を劇的に向上させていくことです。水道管やガス設備、自動車整備、建築現場などの領域が対象となります。世の中のインフラを最前線で支える彼らこそが、社会になくてはならない、最高に格好良い存在です。その価値観を広めるためにも、現場の未経験育成や大幅なベースアップなど、業界の常識を覆す取り組みを加速させていきます。

ーー現場の裏側では、最先端技術をどう活用していますか。

柳慎太郎:
営業やバックヤードの業務には、最先端のDXを積極的に取り入れています。現場の作業自体にはどうしても人の手が必要不可欠です。しかし、成績の良い営業のトークスクリプトを解析し、AIを相手にしたロープレを導入することで、営業の再現性を高めています。アナログな商売だからこそ、その裏側では最先端の技術を掛け合わせる方針です。これにより、圧倒的な生産性の高さを追求できると考えています。

ーーグループ全体として、今後はどのようなビジョンを描いているのでしょうか。

柳慎太郎:
将来的には、設備・車検・建設の各領域において「東京No.1」のシェアを獲得することです。しかしそのためにはまず、「足立区で一番人が育ち、一番人気のある会社」になることが重要だと考えています。社員がハッピーに働き、一人ひとりの人生が輝く。そんな中小企業のロールモデルである「ダイアモンドカンパニー」として世の中に大きなインパクトを与えていくのが、私たちの目指す未来です。

編集後記

生活に不可欠なインフラを最前線で支える職業への深いリスペクトと、それを担う社員への熱い思いが終始溢れるインタビューだった。AIや最先端のDXを取り入れる目的が「会社を儲けさせるため」ではなく、「社員の人生を輝かせるため」と断言する姿勢に、真のリーダーシップを感じる。業界の常識を打ち破る大胆なベースアップや未経験育成の仕組みは、採用難に悩む多くの企業にとって希望の光となるはずだ。「足立区から東京No.1へ」と力強く語る柳氏の言葉には底知れぬエネルギーがあり、同社が日本を代表するダイアモンドカンパニーへと飛躍する未来が、今から楽しみでならない。

柳慎太郎/1980年生まれ、立教大学卒業。大手エネルギー企業を経て、2006年にヤナギグループ(現・カクシングループ)に入社。2011年4月代表取締役社長に就任。現在はカクシンライフ、カクシンモビリティ、カクシン建設などグループの舵取りを担い、伝統を重んじながらも「仕組みづくりと変革(革新)」を軸とした強固な経営体制を牽引している。