※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

1996年に入社後、メタバースの先駆けとなる最先端研究やカナダ留学を経て、技術を事業化する壁に直面した宮奥健人氏。技術先行の限界を痛感した経験は、現在の「現場感覚」を重んじて顧客のニーズに向き合う姿勢へとつながっている。AIが台頭しビジネス環境が激変する中、NTT西日本グループの技術的先端を牽引する一大ミッションを背負い、社長に就任した。最先端のテクノロジーと泥臭い顧客目線を掛け合わせ、日本から世界へと挑戦を続ける同氏に、事業の優位性と未来への展望を聞いた。

インターネット黎明期の研究と痛感した「技術先行」の限界

ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせいただけますか。

宮奥健人:
1996年に日本電信電話株式会社(NTT)へ入社し、インターネットが普及し始めた時期から11年ほど最先端の研究に携わりました。私は学生時代から情報工学を専攻しており、研究所ではコンピューターグラフィックスやメタバース、タッチパネルを用いたUIなどを研究しました。その一環で、カナダで客員研究員として活動する機会も得ています。

ーー研究員として活躍される中で得た教訓はありますか。

宮奥健人:
2007年頃から研究所の成果を事業化する役割を担った時のことです。多額の投資を行って開発した技術が、必ずしもビジネスにつながっていませんでした。その背景には、技術先行の「Seeds-oriented(シーズオリエンテッド)」(※)なアプローチに陥っており、市場の本当のニーズを捉えきれていないという課題がありました。いくら資料上で優れた理論を展開しても、お客様の「琴線に触れる価値」でなければビジネスは成立しません。この壁にぶつかったことで、自ら現場の生の実感と向き合う「現場目線」の重要性を痛感したのです。

(※)Seeds-oriented(シーズオリエンテッド):企業が持つ独自の技術やノウハウ(=種のシード)を起点に、「その強みを使って何ができるか」を考えて製品や事業を開発するアプローチ。技術主導で革新的なイノベーションを生み出す際に強みを発揮する。

多面的な思考でピンチをチャンスに AI時代における一大ミッション

ーー現在、AIによってビジネス環境が激変していますが、この状況をどう捉えていますか。

宮奥健人:
環境の大きな変化は、別の角度から見ればむしろビジネスの好機になると捉えています。研究の世界に長く身を置き、異なる角度から物事を見て新しい価値を生み出すプロセスを経験してきたからこそ、環境の変化はむしろチャンスだと捉えられているのかもしれません。まさに今、AIの進化はインターネット普及時と同等以上の衝撃で市場を大きく変革していくはずです。再び技術が市場を先導する時代が来たからこそ、技術を知る者が先を読み、機会を掴んでいくべきだと考えています。

ーーその上で、社長としてはどのようなミッションを掲げていますか。

宮奥健人:
最新のAIトレンドにキャッチアップする「技術回帰」と、技術を市場のニーズに結びつける「現場感覚」の2つです。弊社はNTT西日本グループの中で技術的な先端を走り、開発やサービスを牽引していく役割を託されています。その期待に応えるため、まずは原点に戻って最新技術を取り入れる体制を整える必要がありました。しかし、技術の独り歩きは絶対に避けなければなりません。提供する技術が本当にお客さまの課題解決に役立っているのか、現場の声を拾い上げる泥臭いアプローチを同時に重視し、技術力と現場主義の両立を突き詰めていきます。

主力事業の優位性と「AI駆動型経営」の強力な支援

ーー現在の事業内容と、市場における最大の強みを教えてください。

宮奥健人:
主力事業は、データセンターとクラウドサービスです。最大の強みは、2000年の設立当初から運用している独自のデータセンター基盤にあります。弊社の売上高の約8割を占めるこの基盤は、「西日本最大のインターネット接続拠点」としてさまざまな通信事業者やクラウド事業者の接続先が集約されています。今後AIが生み出す膨大なトラフィックを高速かつ安定して処理できる「インフラの中枢」として、強い優位性を持っているのです。

ーーその基盤を活かし、今後注力していくテーマは何ですか。

宮奥健人:
最大の注力テーマは、中堅・中小企業を中心とした「AI駆動型経営への変革」の強力な支援です。AIが普及すると、膨大なトラフィックを自動処理し、複数のクラウドやSaaSへ高速でアクセスする需要が高まります。弊社のデータセンターは多様な接続先が一箇所に集約されているため、瞬時に情報を集めて応答できることがインフラとしての大きな強みです。

この基盤の上で、業務の可視化からAI活用までをワンストップで支える新サービスを展開しています。たとえば、「wakucone plus(ワクコネプラス)」というサービスでは、社員のPC稼働状況やファイル・SaaSへのアクセス状況を分析し、業務フローの課題を明確にします。その上で、機密情報を守りながら安全なクローズド環境で利用できる生成AIサービスを提供します。こうした支援を具体的な業務改善へとつなげ、国内企業の競争力向上に直結する価値を届けていく方針です。

万博での成功とグローバルプラットフォームへの道筋

ーー最先端のテクノロジーを活用した象徴的な取り組みはありますか。

宮奥健人:
2025年に開催された大阪・関西万博において、次世代通信「IOWN(アイオン)」を活用し、外部企業と連携した実証実験を行いました。現在、メディアや放送業界では設備のクラウド化が進んでおり、高画質で大容量の映像データを遅延なくやり取りするためには、極めて高品質な回線が求められます。この万博での実証実験は、最先端のテクノロジーを駆使して未来のインフラをつくり上げる、私たちの姿勢を体現した取り組みとなっています。

ーー将来的には、どのような展望を描いていますか。

宮奥健人:
国内にとどまらず、東南アジアなどの成長市場への事業展開を本格化させます。すでにSaaSやメディア配信事業の海外展開に向けた取り組みを進めており、弊社のデータセンターに海外の大規模クラウド事業者にも集っていただく計画です。「日本を代表するAI活用のプラットフォーム」となり、グローバルでも確固たる存在感を示す企業へと成長する道筋を描いています。

ーー最後に、これからどのようなエンジニアに参画してほしいとお考えですか。

宮奥健人:
技術に対して強いこだわりを持つ方に参画していただきたいですね。ただ研究や開発を行うだけでなく、自ら現場のニーズにしっかりと向き合えることを重視しています。お客様と対話しながらサービスをつくり上げる熱意も、欠かせない要素と言えるでしょう。弊社には国内外の外部企業と関わりながら、大きな裁量を持ってビジネスを生み出せる環境が整っています。技術で社会を牽引したいという志を持つ方に、ぜひ集まっていただけたら嬉しいです。

編集後記

インターネット黎明期から培った確かな技術力と、事業化の苦労から生まれた泥臭い現場目線。この2つを掛け合わせ、国内の中堅・中小企業の変革から、世界を舞台にしたプラットフォーム構想までを描く宮奥氏。最先端のテクノロジーを駆使して社会をアップデートしていく姿勢からは、スケールの大きなワクワク感が伝わってきた。AI時代の中枢を担う同社のさらなる飛躍から目が離せない。

宮奥健人/1996年、日本電信電話株式会社(NTT)入社。研究所にてHuman-Computer Interaction研究に従事。2005年~2006年 Canada, British Columbia大学客員研究員。2011年より西日本電信電話株式会社(NTT西日本)にて技術開発ならびにサービス開発に従事。2024年より同社 技術革新部長。2025年6月よりNTTスマートコネクト株式会社代表取締役社長。