
2017年に東京青果株式会社へ入社し、長年培われてきたアナログな現場にデジタルの風を吹き込んだ川田光太氏。経営戦略室でのDXをはじめ、2020年の市場法改正に伴う物流改革や直送取引の拡大など、次々と組織のアップデートを手がけてきた。2023年に代表取締役社長に就任した同氏は「現状打破」をスローガンに掲げる。日本一の市場運営者としての地位をさらに確固たるものにしようとする同氏に、商社時代に培った経営のリアルな視点から、青果流通が直面する課題や持続可能な農業に向けた未来の展望まで、幅広く語っていただいた。
商社の多角的な業務から得た経営とリスク管理のリアル
ーーまずは、貴社へ入社される前のご経歴についてお聞かせいただけますか。
川田光太:
2006年に学習院大学を卒業したのち、広く社会貢献につながるような事業に携わりたいと考えて商社へ入社しました。当時は、海外で勤務したいという希望に加えて、食や電力など社会のインフラ整備に関わる仕事に魅力を感じていたためです。
ーー商社ではどのような業務をご経験されましたか。
川田光太:
入社して最初の2年間は経理部に配属され、企業決算の仕組みや上場を維持するために必要な基礎知識を身につけました。続く3年間はリスクマネジメント部門で与信管理などに携わり、輸入から販売に至るまでの全工程に潜むリスクや契約に関する商売のノウハウを深く学んでいます。
その後、6年目からは穀物部門へ異動し、とうもろこしや大豆といった動物用飼料原料の営業部で国内外の事業投資やグループ会社の経営も担当しており、組織としてどのように損益を上げていくのかといったマネジメントの真髄を経験することができました。そして最後の2年間は、シンガポールの事業会社へ部長として出向しています。商社のさまざまな部門で培ったこれらの経験すべてが、現在の会社経営において大きな糧となっています。
2017年青果物流通業界へ アナログな現場で見出した見える化と物流改革

ーー貴社へ入社されたきっかけは何でしたか。
川田光太:
自分の考えや力を試してみたいという気持ちが強くなったことが、最大の理由ですね。2017年に入社した当時は、海外での部長職以上に大きな権限を持ち、自ら意思決定ができる仕事を求めていました。また、一時的に日本から離れたことで、日本の食の流通や青果の仕事に対して改めて興味が湧いたことも後押しとなりました。
ーー入社後、まずどのようなことに取り組まれたのでしょうか。
川田光太:
経営戦略室に配属となり、まずは一般的なデジタルツールを導入し、それを社内に浸透させることから始めました。前職では入社当日からデジタルツールでスケジュール管理を行っていましたが、弊社では誰一人使っておらず、ホワイトボードで予定を管理したり、口頭で会議の調整をするといった状況だったのです。そこで、時間あたりの生産性を上げて、効率的に仕事をするためのDXを急務として進めました。
ーーDXを進める中で、次に見えてきた課題は何でしたか。
川田光太:
現場の作業が見える化されていないことでした。青果は季節性が激しく、産地や品目、量が目まぐるしく変化するため、機械化で完全に対応することはできず、人の手で柔軟に作業しなければならない部分が多くあります。しかし、当時の物流現場にはマニュアルがなく、実態を正確に把握できていませんでした。そこで、入荷量や引き取り状況、従業員の作業時間などをデータ化・分析し、労働効率を高めるための「見える化」を徹底したのです。
また、物流面での大きな転機となったのが、2020年の卸売市場法改正です。それまでは扱う全荷物を市場に集める義務があり、狭いスペースで大量の人手をかけて荷物をさばく必要がありましたが、法改正によって市場を通さない「直送取引」が可能になりました。弊社はこれにいち早く対応し、産地から直接お客様の倉庫へ運べる荷物を分析して、直接運ぶ仕組みを構築しました。その結果、現在では弊社が扱う約2400億円の取扱高のうち、2割近くを直送取引が占めるようになり、業界で先行するまでになったのです。
社長就任の決意 日本一の市場運営を支える強固な信頼関係
ーー2023年の社長就任時に掲げた思いをお聞かせください。
川田光太:
私は、入社当初から経営者のつもりで仕事をしてきました。そのため、心構えが劇的に変わることはありませんでしたが、経営者として「現状打破」や「変化への挑戦」というメッセージを強く打ち出す必要性を感じました。時代や世代が変わる中で、挑戦し続ける文化を根付かせなければ会社の成長は止まってしまうのです。社員一人ひとりが自分なりの価値を見い出していくことを積極的に促しています。
ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか。
川田光太:
最大の強みは、70年以上の歴史の中で産地やお客様と築き上げてきた信頼関係です。農業は気候によって豊作の年もあれば不作の年もあり、状況が良いときだけ付き合う関係では商売は成り立ちません。お客様からの評価を産地にフィードバックし、産地がそれに応えて改善するという相互のサイクルを長年続けてきたことが、圧倒的な信頼感につながっています。
ーーその強みを活かした新たな挑戦についてうかがえますか。
川田光太:
情報還元のデジタル化や、直送取引などの新しい商売形態、輸出事業の拡大などに熱量を持って取り組んでいます。かつて紙や郵送でやり取りしていた日々の売上高データをデジタル化し、情報を即座に産地へ戻すことで、流通コスト全体の削減に貢献しています。また、2019年には輸出室を立ち上げ、日本の農産物を海外へ展開する専門組織をつくりました。産地からも「東一(東京青果)に任せれば海外への販路もつくれる」と評価いただき、売上高も大きく成長しています。
需要の最前線を産地へ 時代の変化を牽引する開発部の存在

ーー5年後、10年後の青果業界の姿をどのように見据えていますか。
川田光太:
販売を通じて農家の手取りを増やし、農業が儲かるビジネスとして維持・発展していくよう貢献することが私たちの大きな使命です。業界として最も危機感を持っているのは、後継者不足や地方の過疎化に伴う農家の減少にほかなりません。
私たちが直接農業を行うことは不可能でも、持続的な農業の維持に貢献するため、SNSなどを活用して産地の魅力発信を進めています。さらに、市場のニーズを的確に捉えて産地にフィードバックし、青果市場を牽引して変化を起こしていくことが重要だと考えています。
ーーニーズのフィードバックとは具体的にどのようなことでしょうか。
川田光太:
時代とともに変化する規格の需要を読み取り、つくり手に改善を求めることです。それにより、生産の効率化や売上高の最大化につなげています。たとえば、ほうれん草はスーパーの生鮮用と冷凍食品の工場用で求められる規格が異なります。スイカもかつて冷蔵庫に入りきらない大玉から小玉へ需要がシフトしましたが、現在はカットフルーツの需要が伸びており、カット加工するなら無駄なく商品化できる大玉の方が効率的であるため、再び大玉が求められるようになっています。消費者のニーズは常に変化し続けているのです。
ーー需要の変化を的確に捉えるための組織的な工夫を教えてください。
川田光太:
かつて昭和40年代までは競りがほぼ100%でしたが、現在は量販店などのバイヤーと事前に商談する相対取引が増え、競りは全体の5%程度にまで減っています。そのため弊社には売り方を時代に合わせて変え、提案を行う専門組織である開発部が存在します。
市場で荷物を受け取って競りにかけるだけの受動態では通用しません。開発部が量販店などのお客様と直接商談して、エンドユーザーの需要をいち早くキャッチし、「こういう規格でつくれば選別の手間が省けてコストが下がる」と産地へ提案するのです。需要の変化を読み取り、つくり手に改善を求める機能が弊社の成長を支えています。
日々の商売に嘘は通用しない デジタル世代とともに挑む青果流通の未来
ーー今後新たな挑戦を進める上で、どのような人材を求めていますか。
川田光太:
これからの変革を牽引していくために新しい考え方を持った人材が必要です。特に、DXに強いデジタルネイティブな20代の若手を求めており、働く環境も整え、男女問わず採用を進めているところです。
人物像として一番に挙げたいのは「嘘をつかず正直な仕事ができる人」ですね。青果の卸売は1回の取引で得られる利益はわずかであり、一時的な利益のためにごまかして高く売っても、騙すメリットよりも失う信頼の方がはるかに大きいのです。そんなことをしていたら、すぐに破綻してしまうでしょう。私たちは毎日同じお客様と顔を合わせて商売をします。日々の積み重ねと量で勝負しているからこそ誠実に商売と向き合い、人として信頼関係を築けることが何よりも重要です。
ーー今後の青果流通においてデジタル技術をどのように活用するお考えですか。
川田光太:
情報伝達のスピードを上げ、需要と供給の予測精度を高めるために活用します。物流のスピードを物理的に上げるのには限界がありますが、情報伝達のスピードを上げることはコスト削減に直結します。ベテランの知見とデジタルネイティブな20代の若手の力を融合させ、情報処理の精度とスピードをさらに高めていく方針です。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
川田光太:
長い歴史の中で培ってきた信頼を基盤に、需要と供給の変化を鋭く捉え、会社の形を進化させ続けていきます。弊社は常に時代の変化に応じて自らの姿を変えながら商売を行ってきました。どれだけ時代が変わっても最後にビジネスを動かすのは人です。次世代を担う人材の育成を決して忘れず、青果流通の未来を牽引していきます。
編集後記
今回の川田光太氏への取材を通じて、同社が持つ「情報ネットワークの力」と、現状に甘んじない「挑戦のDNA」を深く感じた。前職で培われた緻密なリスク管理とグローバルな経営視点は、青果流通という歴史ある現場に確実なイノベーションをもたらしている。一方で特に印象的だったのは、最先端の効率化を推進しつつも、ビジネスの根底にある「日々の嘘のない誠実な対話」を何よりも重んじている点だ。生産者の高齢化や後継者不足という日本農業の課題に対し、消費者の細かなニーズを産地へ還元して「稼げる農業」を支援する。流通業の枠を超えつつも、長年培われた盤石な信頼関係を基盤にして、ベテランの知見とデジタルネイティブな次世代の力を融合させる東京青果。日本の食のインフラを支え、青果流通の未来を切り拓く同社の飽くなき挑戦は、これからも続く。

川田光太/1984年生まれ。2006年に学習院大学経済学部経営学科を卒業。丸紅株式会社に入社。約11年間の勤務を経て、2017年4月に東京青果株式会社に顧問(経営戦略室)として参画。同年6月に同社の取締役に就任。以降、常務取締役、専務取締役と要職を歴任。経営戦略室長として経営基盤の強化を牽引するとともに、総務、経理、情報システムなど、多岐にわたる部門を統括し、組織運営に尽力する。2023年6月、東京青果株式会社の代表取締役社長(COO)に就任。現在は、株式会社東京青果研修センター、大田市場ロジスティクスセンター株式会社の代表取締役社長を務める。さらに、株式会社大田花きの社外取締役、東一神田青果株式会社の取締役も兼任し、青果物流通業界の最前線でグループ全体の多角的な事業運営と発展を力強くリードしている。