※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

2012年に東京駅丸の内駅舎の保存・復原工事が完了し、創建当時の姿を見事に蘇らせた光景を覚えている人も多いだろう。建築史に刻まれるこの歴史的なプロジェクトにも建材を納め、東日本の数々の大型建築物に携わってきたのが、日新シャーリング株式会社だ。

同社は鉄骨材料の加工から納品までをワンストップで手がける確かな技術力で、建設業界から厚い信頼を獲得している。今回は、同社の代表取締役社長である茂田氏に、独自の経営手法や社員とともに成長を目指す姿勢、そして会社の未来像についてお話をうかがった。

コロナ禍にも関わらず2019年以降、毎年成長する秘訣

ーー入社までの経緯を教えてください。

茂田勝昭:
武蔵工業大学を卒業後、積水ハウス株式会社に入社し、設計から現場監督、営業まで幅広い業務を経験しました。独立を考えていたところ、義父から「うちでやればいい」と誘いを受け、新たな挑戦の場として弊社への入社を決意したのです。入社から4年が経った頃、現会長が70歳を迎えるタイミングで社長に就任しました。

入社後の4年間、義父から具体的な指示を受けることはほとんどなく、日中は総務、経理、経営企画などの事務系業務をこなし、定時後は作業着に着替えて製造現場で社員に教わりながら業務を覚える日々を過ごしました。こうして約2年間、現場の最前線で実務を習得し、経営者としての基盤を築いたのです。

当時、弊社の年商は8億円、社員数は20名程度でしたが、これを年商10億円、さらに30億円に成長させるビジョンを描き、必要な社員数や赤字解消の方策などを常に模索していました。

ーー社長就任後、どのような改革を実施しましたか?

茂田勝昭:
抜本的な改革を行いました。まず取り組んだのは、徹底的なコストダウンです。同時に、営業活動についても場当たり的な方法を改め、既存顧客を安定的に訪問できる体制を整えました。

具体的には、往訪情報のデータ化による顧客対応の見える化を進め、新規顧客については年間目標を設定し、定期的な会議で戦略を話し合う仕組みを構築したのです。これに加えて、事業計画書を毎年策定し、全部門が同じ目標と認識を共有できる体制を確立しました。

さらに力をいれたのが、社員一人ひとりが仕事を通じて、より充実した人生を実現できる環境づくりです。各ポジションで達成したい目標を議論し、それを発表会の形で共有する場を設けたところ、社員の意識に確かな変化が表れ始めました。

人は「こうなりたい」と願うイメージが強いほど、その姿に近づけるものです。この取り組みを通じて、当たり前のことを当たり前に行い、それを継続する力こそが成功の鍵だと確信しました。

有名建築物にも貢献する企業が求める人材

ーー貴社の事業内容や強みについて教えてください。

茂田勝昭:
弊社は、大規模建築物の鉄骨材料を切断、溶断、加工まで一貫して手がける会社です。具体的には、東京駅の八重洲口の屋根や新国立競技場など、日本を代表するランドマークにも弊社の製品が使用されており、これらのプロジェクトに携われたことを大変誇りに思っています。

特筆すべき弊社の強みは、大手企業の系列に属していない独立系の企業であることです。そのため取引先に制約がなく、大手建材商社や鉄工所をはじめ、幅広い企業との取引が可能です。このような体制を築けたのも、1950年の創業以来、地道な営業努力を積み重ねてきた成果だと考えています。

ーーどのような人材を求めていますか?

茂田勝昭:
弊社が求める人物像は、素直で前向きで、仕事に真剣に取り組む姿勢を持つ方です。新卒で弊社に入り、イチから成長したいと考える方を歓迎していますが、中途採用の方にも広く門戸を開いています。一方で、学歴は特に重視しておらず、実際に弊社で活躍している社員の中には高卒の方も多くいます。

私が常に強調しているのは「当たり前のことを当たり前にできる力」の大切さです。たとえば、感謝の気持ちをきちんと言葉で伝えること、メールに対する迅速な返信など、基本的なことを継続して実行できる方に来ていただけると嬉しいです。

働きやすさと挑戦心!理想の組織づくりへの道

ーー今後の展望と目標をお聞かせください。

茂田勝昭:
5年以内に年商100億円の企業を目指しています。しかし、その実現に向けて、新規顧客をどんどん増やすといった短期的な施策に頼るのではなく、むしろ10年後、20年後を見据えた会社体制の整備に注力する方針です。

その一環として、工場の効率化を図り、既存のお客様に対しても価格競争力のある製品を提供できるよう努めるとともに、周囲のニーズに応じた工場の増設も視野に入れています。なにより、これまで築いてきたお客様との「ご縁」を大切にしながら、未来に向けた持続可能な成長を追求していく所存です。

ーー社員の力を大切にされる理由を教えてください。

茂田勝昭:
鉄は溶かしてレーザーやプラズマ、ガスを使って切断しますが、その際に熱を加えるため、どうしても歪みが生じてしまいます。弊社はその歪みを直す技術に優れていますが、機械化の進展につれ、こうした技術でさえもいずれ誰でも簡単にできるようになるでしょう。つまり、商品力だけで他社との差別化を図ることが難しくなる時代が確実に来るのです。

だからこそ弊社は、商品そのもので競うのではなく、「人」で勝負する必要があると考えています。社員一人ひとりが基本を徹底し、それを継続することが、結果として会社全体の競争力につながるのです。

商売の本質は、「その会社が好きだから取引したい」という顧客の信頼と愛着にあり、これがなければ最終的には資本力のある企業に太刀打ちできません。しかし、世界中に中小企業が存在し続けているのは、そこに「人間力」があるからです。当たり前のことを確実に行い、それを継続できる社員の存在こそが、弊社の最強の武器だと信じています。この「当たり前」を続けることこそ、実は一番難しい課題なのです。

編集後記

製造業の枠を超え、技術力以上に「人の力」を重視する茂田氏の経営哲学には深い共感を覚える。「当たり前のことを当たり前に継続する」という一見素朴な言葉の中に、茂田氏の揺るぎない信念と企業の礎があるのだろう。そしてその理念が、顧客との信頼関係や社員の成長を支える原動力となっている。日本の大規模建築を支える存在として、日新シャーリング株式会社の更なる発展に期待が高まる。

茂田勝昭/1973年(昭和48年)、神奈川県生まれ。武蔵工業大学(現:東京都市大学)卒、1995年(平成7年)、積水ハウス株式会社に技術職として入社し、現場監督、営業を経て、2002年(平成14年)、日新シャーリング株式会社へ入社。2006年(平成18年)、同社代表取締役社長に就任。現在に至る。