
国内の大手運送事業者と連携し、「JITBOXチャーター便」という共同輸配送プラットフォームを展開するボックスチャーター株式会社。同社の代表取締役社長を務める柴﨑安利氏は、ヤマト運輸での事務職からキャリアをスタートし、物流ターミナルの最前線で現場を指揮してきた。昨今の社会課題に向き合いながら、デジタル化の推進や自律型組織の構築を進める同氏に、極限の現場から得た教訓や、若手の挑戦を後押しする思い、日本における新たな物流の選択肢を目指す展望について詳しく話を聞いた。
極限状態の現場で痛感した「社会的インフラ」の重みとデジタルデータ活用への目覚め
ーーまずは、社会人としての最初のキャリアを教えていただけますか。
柴﨑安利:
1999年にヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)へ事務職として入社したのが始まりです。キャリアの多くの時間は、都道府県ごとに設けられた大規模な荷物の仕分けターミナルの運営に携わり、全国から集まる大量の荷物を小分けにして各営業所へ送り出す仕分け業務を長く経験しました。その後、関西ゲートウェイ長やネットワーク統括部での要職を経て、2023年に執行役員を務めたのち、2025年にボックスチャーター株式会社の代表取締役社長に就任しました。現場の最前線で働く中で、私たちの仕事が地域の皆様の生活を支えているのだと強く実感するようになりました。
ーーこれまでに仕事への向き合い方が大きく変わった転機について聞かせてください。
柴﨑安利:
最大の転機は、2019年10月の消費税増税時の駆け込み需要による極限状態に対応した経験です。当時、私が責任者を務めていた仕分けターミナルに、増税前の駆け込み需要などの影響で想定をはるかに超える大量の荷物が一気に押し寄せました。現場は荷物を捌ききれなくなるほどの極限状態に陥ったのです。自分が判断を誤れば、特定の地域のお客様に荷物が届かなくなってしまいます。凄まじいプレッシャーの中で、私たちが担う物流の重要性を実感しました。
ーー社会的インフラを背負う経験から得た最大の教訓は何でしたか。
柴﨑安利:
物流はどのような状況下であっても社会的インフラであり続け、日本のサプライチェーンを守り抜かなければならない重要な業種であると痛感したことです。あの極限状態の現場で責任の重さを学ぶとともに、マンパワーだけで乗り切ることの限界も悟りました。当時はまだデジタルトランスフォーメーションの概念すら浸透していませんでしたが、この使命を果たすためには「デジタルの力で解決できないか」と強く考えるようになったのです。この時の気付きが、現在の仕組みづくりに向き合う原点になっています。
時代を先読みした「共同輸配送モデル」とカゴ台車から生まれた新サービス

ーー貴社が設立されたのは、どのような背景があったのですか。
柴﨑安利:
2002年の設立当時、大手運送事業者の各社代表は、物流業界に潜む積載効率の低下やドライバーへの過度な負担に着目していました。これは現在の2024年問題に繋がる課題です。「やがて1社では荷物を運べなくなる未来が来る」と、配送単位を規格化するユニットロード化(貨物を標準的な単位にまとめて輸送する手法)を打ち出しました。あわせて、加盟会社の輸送ネットワークを共有する共同輸配送プラットフォームを構築し、社会課題の解決と持続可能な物流の実現を目指してサービスを開始したのです。
ーー中ロット輸送に特化したサービスが高く評価されている理由は何ですか。
柴﨑安利:
「JITBOXチャーター便」(※)は、小ロットの宅配便と大ロットのトラック貸切便の間にある空白領域を独自に支えています。実はここで使われているカゴ台車(ロールボックスパレット)は、もともとヤマト運輸が宅急便の仕分け等の効率化を目的に開発したものです。その空間を法人向けに販売してみたところ大ヒットに繋がり、販売本数は111万本(2025年度実績)を突破いたしました。集荷・配達を都道府県ごとに地域を熟知した加盟会社が担当しますので、配達時間指定の遵守率99.8%という確実性を実現しています。また、鉄柵で守られたボックスにより荷物事故の発生率は0.04%と低く、リターナブルな梱包資材の活用によって年間約27トンの廃材排出を削減するなど環境負荷の低減にも貢献していることが、選ばれ続ける理由です。
(※)サービスに関する紹介動画はこちら
「誰を笑顔にするか」という利他の精神と若手が挑戦できる組織づくり
ーーデジタル化を進める根底にある、ご自身の信念をお聞かせいただけますか。
柴﨑安利:
常に軸にしているのは、「誰を笑顔にするか」という利他の精神です。自分が、あるいは自社がどうなるかよりも、周りの皆様がいかに幸せになっていただくかを第一に考えています。
社長に就任してから、加盟会社の事業所へ直接うかがい現場のオペレーションを確認することがありました。その際、加盟会社の方から「本当に荷主の物流課題を解決する良い商品だ」「荷主様も大変喜んでいらっしゃる」という言葉を直接聞き、大変感謝するとともに、提供するサービスにさらに磨きをかけなければと強く感じました。現場の生の声が、事業を前進させる大きな原動力になっています。
ーー社員の皆様にはどのような姿勢で仕事に向き合ってほしいとお考えですか。
柴﨑安利:
「逃げずに、信念を持って仕事に向き合ってほしい」と思っています。仕事には大きな壁がつきものですが、あふれんばかりの当事者意識を持って壁を乗り越えてほしいのです。また社員には「許される失敗はたくさんして糧にしてほしい。取り返しのつかない失敗は社長が責任をとる」と伝えており、若手が当事者意識を持って果敢に挑戦できる環境づくりを大切にしています。この安心感の中で、失敗を恐れず果敢に挑戦し、新たな気づきを得るチャンスにしてほしいと考えています。
未知の顧客を切り開く「楽ラク運送手配」と目指すべき物流の未来
ーー新たな顧客層へアプローチするための新事業について教えてください。
柴﨑安利:
現在、Web上で見積もりから配送依頼まで完結する「楽ラク運送手配」というサービスによる新規層の開拓を進めています。これまでサービスの利用者は製造業や運輸業、卸売・小売業が中心でしたが、一般のオフィスなどからも荷物を送るニーズは確実にあると考えています。そうした方々は物流の専門知識がないため、どの配送手段を選べばいいかわからないことが少なくありません。
「楽ラク運送手配」は、日にちや荷物の詳細や物量を入力するだけで最適な運び方を提案し、手軽に比較検討できる仕組みを構築しています。さらに、社内やお客様向けの窓口において、生成AIを活用したチャットボットを導入し、スムーズな問い合わせ対応を実現するなどデジタルの面でも変革を続けています。
ーー事業をさらに拡大していく上でどのようなネットワーク強化を構想していますか。
柴﨑安利:
全国の物流ネットワークをより強固なものにしていくためには、現在参加いただいている15グループ49社の加盟会社の皆様との関係を深耕するだけでなく、新たな仲間を増やしていくことが重要です。その一環として、2026年7月には新潟運輸株式会社様に加盟会社として加わっていただきました。新潟県と中核都市を結ぶ強力な路線網を持つ企業様が加わることで、対応できる領域はさらに広がります。今後もフランチャイズ展開を積極的に進め、お客様の課題解決に貢献できる体制を拡充していく方針です。
ーー最後に、今後会社として目指す展望についてお聞かせください。
柴﨑安利:
日本における「第3の物流の選択肢」へと成長し、確固たるポジションを築くことです。宅配便やトラック貸切便といった誰もが知るサービスと並び、選択肢の一つとして当たり前に選ばれる存在になりたいと考えています。社会的インフラとしての重責を胸に、これからも現場の声に真摯に耳を傾け、皆様を笑顔にできる新しい物流の形を全社一丸となって追求していきます。
編集後記
物流業界が直面する構造的な課題に対して、時代を先読みし確固たる解決策を提示してきたボックスチャーター株式会社。現場の痛みを熟知する柴﨑社長が語る「誰を笑顔にするか」という利他の精神は、加盟会社との強固な信頼関係にも表れている。デジタルの力を活用し、新たな顧客層へアプローチを続ける同社の挑戦は、物流の未来を明るく照らすだろう。日本における新たな共同輸配送プラットフォームとして飛躍する姿に、今後も注目していきたい。

柴﨑安利/1999年にヤマト運輸株式会社に入社。2017年には関西支社の副支社長や関西ゲートウェイ長を歴任し、重要拠点の運営を牽引。2019年からはネットワーク統括部などで輸配送網の構築・最適化の要職を務める。2023年、同社の執行役員に就任。輸送オペレーション統括として輸配送全体を指揮。2025年、ボックスチャーター株式会社代表取締役社長に就任。現在に至る。