※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

自動車整備士から清掃業、フィットネス事業へ。時代を見据えた多角化経営で成長を続ける株式会社ジェイテック。その舵取りを担うのは、同社代表取締役の渡邊昌嗣氏である。経営の根幹には、稲盛和夫氏が主宰した「盛和塾」で学んだ「従業員の物心両面の幸福を追求する」という確固たる哲学がある。変化の激しい時代の中で、いかにして事業を軌道に乗せ、組織を成長させてきたのか。その軌跡と未来への展望を追った。

整備士から清掃業での独立へ その理由と成功の秘訣

ーー独立に至るまでのご経歴をお聞かせください。

渡邊昌嗣:
実家の整備工場を継ごうと自動車整備士になり就職しましたが、兄が継ぐと決めたため、私は営業職に変わり11年勤務しました。

転機が訪れたのは結婚後です。妻の父親からマンション清掃の仕事を紹介され、独立を具体的に考えるようになりました。当時携わっていた自動車販売は、景気に左右されるリスクがありました。一方、清掃業は先行投資が少なく、資金繰りの見通しが立てやすい点に魅力を感じました。そのため、よりリスクの少ない清掃業で独立しようと決意しました。

ーー事業を軌道に乗せた秘訣は何ですか。

渡邊昌嗣:
タイミングが良かったことが大きな要因です。大学の新キャンパス設立に伴い、大規模な学生マンションが次々と建設された時期でした。そこに住み込みの管理人として3人で事業を始めたところ、初年度から黒字を達成できました。

また、退去後の内装工事から清掃までを一括で請け負うサービスも提供しました。このワンストップサービスがお客様に大変喜ばれ、安定した受注につながりました。

フィットネス事業への挑戦 女性の健康への思いと多角化の壁

ーーフィットネス事業を始められたきっかけは何ですか。

渡邊昌嗣:
「女性が健康になったら日本中が幸せになる」という「カーブス」の理念に深く共感したからです。母親が家庭で笑顔でいれば、家族みんなが幸せになる。その実現は、結果的に社会全体の医療費削減にもつながると考えました。

人の幸せの根幹は健康です。その価値を、特に女性の方々に提供したいという思いでフィットネス事業をスタートしました。

ーー事業展開する上で、困難はありましたか。

渡邊昌嗣:
「カーブス」の1号店は、理想の売上には程遠く、黒字化するまでに3年近くかかりました。清掃事業の利益で赤字を補填する苦しい時期が続きましたが、採用した社員たちの人生を背負っているという責任感から事業の継続を決意しました。

また、店舗数が6店舗を超えたあたりで、今度はマネジメントの壁にぶつかりました。現場に目が行き届かなくなり、エリアマネージャーを配置しました。このように組織づくりに取り組みながら事業を運営し、現在の体制を築きました。

事業の強みと経営哲学 盛和塾で学んだ「従業員の幸福」

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。

渡邊昌嗣:
現在は清掃メンテナンス事業、「カーブス」事業、そして整体院「KINMAQ」事業の3つを柱としています。清掃は学生マンションに特化し、退去時の原状回復までを一貫して担います。「カーブス」は地域の女性の健康づくりを、「KINMAQ」は理学療法士が専門知識を基に痛みの根本改善をサポートします。それぞれが独立しつつも補完し合うことで、リスク分散を図っています。

そして、これら全ての事業の根幹を成す弊社の最大の強みは、従業員の「人間力」です。弊社の事業は全て、最終的にお客様と接する「人」が価値を提供するサービス業だからです。京セラの創業者である稲盛和夫氏の「物事の判断基準を、損得ではなく善悪に置く」という教えを基に、従業員には人としての正しい考え方を身につけてほしいと考えています。従業員が人間的に成長し、やりがいを持って働くことが、質の高いサービス、すなわち顧客満足につながり、会社の永続的な発展を支えると信じています。

ーー経営で一番大切にしていることは何ですか。

渡邊昌嗣:
従業員の物心両面の幸福を追求することです。これは、私が「盛和塾」で稲盛和夫塾長から学んだ経営哲学の根幹でもあります。会社は従業員のためにあり、その成長なくして会社の成長はあり得ません。損得だけで判断するのではなく、人として何が正しいかを基準に行動する。この「善悪の判断軸」を全従業員と共有することを最も大切にしています。

働きやすい環境と会社の未来 永続する組織を目指して

ーー社員の働きやすい環境づくりについて教えてください。

渡邊昌嗣:
産休・育休の取得率は100%で、復帰後の退職者は今まで一人もいません。復帰後は時短勤務を選択でき、小学校に入学するまで利用可能です。会社として、従業員のライフステージの変化を全力で支える体制を整えています。その結果、毎年多くの社員が子育てをしながら活躍しています。その活躍が、会社にとって大きな力となっているのです。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

渡邊昌嗣:
次の世代、さらにその先へと永続していく会社にしたいと考えています。そのために、従業員一人ひとりが仕事を通じて人間力を高めます。そして、お客様に心から喜んでいただけるサービスを提供できる組織を目指します。

規模の急拡大を追うのではなく、人の成長に合わせて、着実に会社を成長させていきたいですね。そして、社員全員が「この会社に入って本当に良かった」と心から思えるようにしたいです。そのような幸福感に満ちた企業文化を築き上げることが私の願いです。

編集後記

自動車整備士から始まり、清掃、フィットネスと、多彩な事業を手がけてきた渡邊氏。そのキャリアは一見、脈絡がないように見えるかもしれない。しかし、その根底には不変の軸が貫かれている。それは、リスクを見極める冷静な目と、従業員の幸せを願う温かい心だ。「盛和塾」で学んだ教えを胸に、「社員の成長こそが会社の成長だ」と語る。その姿は、多くの経営者にとっての道標となるだろう。同社が目指す「永続する組織」の未来に、大きな期待を寄せたい。

渡邊昌嗣/1965年京都生まれ。大阪産業大学短期大学部自動車工業学科を卒業後、トヨタカローラ京都に入社。1998年に株式会社ジェイテックを設立し、代表取締役に就任。現在に至る。