10代〜20代の女性を中心に熱狂を巻き起こしている、東京ガールズコレクション(以下、TGC)。モデルやインフルエンサーを起用したファッションショーとして知られるが、その舞台をプロデュースしているのが株式会社W TOKYOだ。
同社の代表取締役、村上範義氏は「TGCはイベントビジネスではなく、ブランドビジネスだ」と語る。業界内で圧倒的な存在感を放つTGCは、一体なぜ人々をここまで魅了しているのか。村上氏に、創業の経緯や事業戦略を聞いた。
圧倒的No.1の事業を目指して始まったTGC事業
ーー創業の経緯を教えてください。
村上範義:
創業の大きなきっかけは、インフルエンサーを雑誌社に派遣する日本初の会社を、大学時代に立ち上げたことです。そのときにメディアが持つ大きな影響力に魅了され、このマーケットで私もビジネスをしたいと思うようになりました。
新しく事業を始める際、①市場の選定②参入アングル③投資ボリュームを重視しています。私が大学生だった当時は雑誌が全盛期で、特にF1層(20〜34歳の女性)向けの女性誌は数十誌あり、その市場に目をつけました。
すでに盛り上がっている雑誌の分野に参入しても価値は低いだろうと感じ、雑誌ではなくファッションショーという切り口で挑戦しようと決めました。
ーー立ち上げの際に意識したことはありますか。
村上範義:
ファッションショーというマーケットにおいて、最大規模のビジネスをつくることを意識しました。富士山の次に高い山の名前を知らない人が多いように、ビジネスにおいて圧倒的に有利なのは1位だけです。そのため、この事業にすべてのリソースをつぎ込んで、マーケットで1位になることをとにかく目指しました。
イベント成功に不可欠な「4つの現場」と「四方よし」の考え
ーー貴社の事業内容について詳しく教えてください。
村上範義:
弊社ではヒト・モノ・コト・地域などあらゆる対象をブランディングするコンテンツプロデュース・ブランディング事業を手がけており、その核となる事業の一つとして行っているのがTGCです。この発信力やブランド価値を活かし、TGCは100の業態とコラボすることを目指しています。また、地方創生プロジェクトも全国約30の都市と提携し、広がりを見せています。
多くの人はTGCをイベントビジネスだと思っているかもしれませんが、これは「TGC」という圧倒的なブランドを創造するブランドビジネスです。
ーーイベントを開催するときに意識していることはありますか。
村上範義:
常に4つの現場を同時かつパラレルに走らせることを意識しています。
1つ目は、リアルイベントでのお客様の熱狂、2つ目は(オンライン生中継を含む)500万人を超える総体感人数、3つ目はSNS、そして4つ目はテレビ番組やメディアと連動した取材です。SNSでいえば、TGCを開催するとX(旧Twitter)トレンドの世界トップランキングに毎回入るほど、注目を集めています。
三方よしという言葉がありますが、弊社では、自社・取引先・社会・SDGsの未来という4つがよくなる「四方よし」を重視しています。TGCの発信力やエネルギーが、変わり続ける社会課題と青年層をつなぐ架け橋になる。これが、TGC事業の軸です。
トップスターが集まり続ける「常若」な精神とは
ーー今後はどういった新たな取り組みをする予定ですか。
村上範義:
プラットフォームビジネスからコンテンツを生み出す取り組みを行っていく予定です。その取り組みの1つに、『YOAKE entertainment』があります。これは、グローバル化したエンターテインメントコンテンツを、Web3(次世代の分散型のネットワーク環境)を活用して提供するプロジェクトです。
今後もNFT(鑑定書・所有証明書付きの非代替性トークン)など、新たなテクノロジーと掛け合わせて、ファンコミュニティを活性化させる取り組みにどんどんトライしたいですね。
――『YOAKE entertainment』にはそうそうたるメンバーが集まっていますが、なぜでしょうか。
村上範義:
TGCがプラットフォームとして機能していることが大きな理由だと思います。弊社は半年に1回TGCを開催していますが、半年をかけてあらゆる旬なコンテンツを集結してつくりあげたものを破壊し、次に向けてまたゼロから新たな創造を行なうことで、永遠性を担保しています。これにより競争原理と自浄作用が働き、常にトップスターがプラットフォームに集まり、いつまでも若々しい「常若(とこわか)」な状態になっています。
ーー地方創生にも興味があるとのことですが、どのような取り組みを想定していますか。
村上範義:
弊社はTGCブランドを活用しながら、青年層に向けて地域の魅力・財産をコンテンツ化して発信するのが得意です。日本には1700以上の市町村があり、その中には青年層向けの課題を抱えている地域も多いので、ぜひ一緒に取り組んでいきたいですね。
また、地域だけでなく、青年層に関する課題を持った企業とも協力したいと考えています。実際に一緒に仕事をした企業様とは10年近い付き合いをしていますし、付き合いが長く続くというのは、弊社がしっかりと価値を提供できていることの表れだと思います。
TGC成功の裏にいる「プロデューサー集団」の存在
ーー貴社にはどのような人材が集まっていますか。また、どういった人材を求めていますか。
村上範義:
情報感度の高い女性が多いと感じています。プロデュースの仕事も多く、まさにプロデューサー集団ですね。
高速で変化し続けているスーパースター達とともに自らも変化しながら、新しい価値を生まなければなりません。その分、裁量もやりがいも大きいですね。私たちは5年後、10年後もプロデューサー集団でありたいですし、自分たちのブランドを大切にしながら、事業を伸ばしていきたいと思っています。
また、今後はプラットフォームをつくるだけでなく、プラットフォームを仕掛け場所としてほかの分野にも進出していきたいので、そういった新規事業のアイデアや意欲がある方を求めています。
編集後記
ほかにも、求める人材について、「自分の能力を最大化したい人」と語った村上代表。TGCが長年にわたって女性たちを熱狂させているのには、常に自分の能力を高める努力をし、時代の変化に対応する「プロデューサー集団」の存在があることを感じた。
新しい挑戦を続け、ファッションショー業界に革命を起こしてきたW TOKYOが、次にどのような仕掛けで人々を驚かせるのかが楽しみだ。
村上範義/早稲田大学社会学部卒業後、大手広告代理店へ就職。転職後、キャスティングプロデューサーとして東京ガールズコレクションの立ち上げから参画。2012年、東京ガールズコレクションのチーフプロデューサーに就任し、キャスティングからクライアントへの営業やメディアとの渉外まで、全部門を統括。2014年、株式会社F1メディアの代表取締役に就任。2016年、株式会社W TOKYOへと社名変更し、代表取締役に就任。