
東日本大震災の復興を契機に設立され、プロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」を運営する福島スポーツエンタテインメント株式会社。使命感を胸に地域に根ざし、年間約600回にも及ぶ地域活動を展開している。同社を率いる西田創氏は、プロラグビー選手としての原体験と、大手企業やコンサルティング会社で培った組織マネジメントの知見を持つ。AI時代に求められる「人の心を動かす力」と、震災発生から20年となる2031年に向けた日本一への挑戦について、西田氏の言葉から紐解く。
ラグビーでの原体験が生んだ「組織で勝つ」ための役割分解
ーーまずは、これまでのご経歴についてお聞かせください。
西田創:
学生時代はラグビーに打ち込んでおり、大学卒業後も10年間トップリーグ選手としてプレーしていました。その後、度重なる怪我もあり10年を節目として引退を決断。引退後はNECにて官公庁向けの法人営業に従事し、週末には母校である立教大学のラグビー部でコーチをしていました。しかし、コーチを務める中でチームを一部リーグに昇格させる目標が達成できず、自身のマネジメント力不足を痛感したのです。そこで、組織論を体系的に学び直すべく2018年に株式会社識学へ転職し、営業兼コンサルタントとして経験を積んでいました。
ーーご自身のスポーツ経験は、現在の組織運営にどのように活きていますか。
西田創:
「個人の成長」と「組織マネジメント」の二つの側面で現在の経営に大きく活きています。まず、個人の成長の側面では、圧倒的な練習量を積み上げた高校時代の経験が挙げられます。当時は全国優勝を目指すチームに入部していたものの、全く通用しませんでした。しかし、自身の不足から逃げずに向き合い、誰にも負けない練習量を重ねることで初めて質が高まる過程を体感したのです。効率化だけでは測れない習熟のプロセスを学べたことは大きな財産ですね。
そして、組織のマネジメントの視点では、大学時代に培った考え方が基盤となっています。「個人の能力が足りなくて試合に勝てない」という壁に直面し、戦術や体づくり、対戦相手の分析といった勝つための要素を細分化して、各領域に責任者を配置しました。役割を明確にして組織を最適化するこのアプローチは、現在の会社経営にもそのまま通じています。
経営層への挑戦と「愚直なまでにハードに戦う」独自のアイデンティティ
ーーその後、貴社に参画するまでの歩みを教えてください。
西田創:
識学では民間企業向けのコンサルタントとして多くの経営陣のサポートをさせていただく中で次第に自身の視座が上がり、「次は自ら経営層の仕事に挑戦したい」と考えるようになりました。ちょうどその頃、識学のマネジメント理論を導入した母校のラグビー部が念願の一部昇格を果たし、私自身の中で一つの区切りがついたタイミングでもあったのです。そこに弊社から声がかかり、参画することになりました。競技はバスケットボールへと変わりますが、スポーツの世界で経営に携われるこれ以上ないチャンスだと感じて即答で参画を決めました。
ーー経営を担う中で見えた、貴社の独自の強みはどこにあるとお考えですか。
西田創:
最大のアイデンティティは、東日本大震災の復興を契機に設立されたという強い使命感です。地域の方々とともに歩んでいるという感覚を、クラブ全体で色濃く共有しています。この精神はチームのプレースタイルにも表れています。バスケットボールは交代が自由なスポーツなので、コートに出る選手は常に100%の力で動き続け、体力を出し切ったら交代するという戦い方を徹底しています。ルーズボールに飛び込み、足を使ってプレッシャーをかけ続ける。この愚直なまでにハードなスタイルこそが、見る人を惹きつける大きな魅力だと思っています。
「誰も血を流さない」年間約600回の地域活動が生むエコシステム

ーー地域とは具体的にどのようなスタンスで関わっていますか。
西田創:
現在、年間で595回という非常に高い頻度で地域活動に出向いています。以前は「震災復興のため応援してほしい」と支援を求めるスタンスになりがちでしたが、そこからのいい意味での脱却を目指しました。先にお金や応援を求めるのではなく、まずは私たちから地域へ貢献し続ける「ギブの姿勢」を重視しています。点ではなく面でアプローチを重ねることで、自然と「応援しよう」と思っていただける関係性が生まれるのです。
ーー595回にも及ぶ地域活動を継続できる仕組みについてお聞かせください。
西田創:
ふるさと納税を活用し、財源を確保しています。自治体外からの寄付を元手に、共同事業として地域活動を展開する仕組みです。これにより自治体は財源が増加し、共同事業の活動資金として地域活動に参加した選手にも手当てを支払えるようになり、寄付企業にも税制メリットが生まれます。「誰も血を流さない」関与する全員が潤う持続可能なエコシステムを構築できたからこそ、これほど膨大な活動量を維持できているのです。
AI時代に輝く「人の心を動かす力」と震災20年での日本一への覚悟
ーー今後のビジネス展開として、どのような拡大戦略を構想していますか。
西田創:
具体的な目標として、スポンサー売上高を現在の約3億円から5億円へ、チケット売上高を全体売上の10%から20%へと倍増させる計画を進めています。この拡大を牽引する営業部門には、論理的な思考に加えて、人の心を動かす地道な営業力が不可欠です。相手のニーズを掴んだ上で、いかに感動を提供できるか。AIによる標準化が進む時代だからこそ、自らの言葉と熱量で人の心を動かせる人材は、唯一無二の大きな価値を持ちます。
ーー人の心を動かし成果を生み出すスポーツビジネスならではの魅力とは何でしょうか。
西田創:
全社員の汗や涙が、「ホームゲーム」という一つの成果物に結集する点です。多岐にわたる部門のスタッフが関わりますが、チームが勝利すればともに涙して喜び、地域の皆様も一緒に熱狂してくれます。会社全体の成果物を定期的に全員で共有し、心を震わせながら仕事に向き合える環境は、他にはない最高の魅力だと感じています。
ーー最後に、クラブとして最終的に目指すビジョンをお聞かせください。
西田創:
私たちの理念は「誇れる福島をつくる」ことです。それを体現するための大きな目標として、震災から20年の節目を迎える2031年に日本一になることを掲げています。決して容易な道のりではありません。しかし、私たちが大切にするバリューの一つに「できっこないをやらなくちゃ」という言葉があります。私が赴任した当初も、周囲からはスポンサーの倍増や上位リーグへの参入など不可能だと言われていました。それでも課題を論理的に分解し、組織全体で役割を全うした結果、今では上位リーグ参入が見える位置まで到達できたのです。今後も限界に挑戦し続け、日本一を掴み取ることで、最高の復興ストーリーを実現します。
編集後記
「日本一になる」。一切の迷いなく断言する西田氏の言葉には、確かな勝算と底知れぬ熱量が宿っていた。組織を機能させる論理的なマネジメントと、地方ならではの愚直な取り組みを両立させる手腕は見事というほかない。効率化が叫ばれ、AIが進化する現代だからこそ、感情がぶつかり合い、人の心を震わせるスポーツの持つ力は輝きを増している。「できっこない」を覆し続け、「誇れる福島」を体現していく同社の未来が、ただただ楽しみだ。

西田創/1983年、福岡県生まれ。立教大学卒業。高校時代に全国高校ラグビー準優勝、NECグリーンロケッツ(現:JR東日本グリーンウォリアーズ東葛)でラグビー選手としてプレー。2018年に株式会社識学に転職し、2021年に識学のグループ会社である福島スポーツエンタテインメント株式会社の代表取締役社長に就任。プロバスケットボールチーム福島ファイヤーボンズの運営を通じて「誇れる福島」をつくるために活動している。