
19歳で中国から来日し、日本の建築現場で職人として修業を積んだ伊東康夫氏。そんな同氏が現在率いる北辰建設株式会社は小規模工事からスタートし、創業から十数年を経て、発注元から直接案件を受注するまでに成長を遂げた。その躍進の裏には、自ら現場を知り尽くしているからこその「基本の徹底」と「対話の重視」がある。そして中国との強固なパイプを活かした独自の資材調達戦略も大きな武器だ。職人の気持ちを誰よりも理解し、現場を第一に事業拡大を進める伊東氏に、同社の強みと中長期的なビジョンについて話を聞いた。
現場の基礎とコミュニケーションの徹底が「信頼」を生む
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
伊東康夫:
19歳で中国から来日し、日本の建築現場で職人として修業を積んだのが始まりです。そこでは、「もっと技術を磨かなければ」と奮起し、とにかく懸命に働いて知識を身につけていきました。すると、周囲から「人が足りないから手伝ってほしい」と声をかけていただく機会が増え、少しずつ親方のような立場で現場を任されるようになりました。
その後も、仕事の幅が広がるにつれて「会社組織にしなければ」「建設業許可をとらなければ」と、その時々で次にやるべきことが見えていったのです。そこで、目の前の壁を乗り越えるために会社を設立し、専門資格を取得するなど、仲間の皆さんや取引先からのアドバイスにも支えられながら、一歩ずつ前に進んで成長してきました。
ーー小規模な工事からスタートして十数年で成長できた要因は何だと思われますか。
伊東康夫:
基礎を地道に積み上げ、現場のトラブルに即座に対応する姿勢を徹底してきたことにあると考えています。弊社創業時は現場作業から経理、総務まで全て私一人で担当しました。この経験により、現場の基本や会社運営の仕組みを深く把握できたのです。現在も、現場で問題が起きれば私自身が直接足を運びます。トラブルの対応を数日後に回すのではスピード感に欠けますからね。トップ自らが迅速に動くことで相手に安心感を与え、それが次の依頼に結びついていると考えています。
ーー社内の職人たちとは、日頃どのようにして信頼関係を築いているのですか。
伊東康夫:
現場でのコミュニケーションは何よりも大切です。職人たちは自身の技術や仕事に強い誇りを持つプロフェッショナルですから、一方的に指示やルールを押し付けるのではなく、お互いに敬意を持った対話が欠かせません。同じ目線で言葉を交わし、気持ちよく働いてもらうための配慮を常に心がけています。また、創業から十数年間、職人への支払いを遅らせたことは一度もありません。こうした当たり前の約束を必ず守り続ける姿勢が、「北辰建設の仕事なら行きたい」という声につながっているのでしょう。
中国とのパイプを活かした調達力とAIによる組織効率化

ーー改めて、貴社ならではの強みを教えてください。
伊東康夫:
弊社は現在、新築案件が8割、リノベーション案件が2割という割合で施工を請け負っていますが、そこで大きな武器となっているのが中国との強固なパイプです。私自身が中国出身であることを生かし、現地の工場に直接依頼して原材料や金物を調達しています。現地での品質管理も自ら行うため、高品質な材料を安価で安定的に仕入れることが可能です。こうした独自のルートによるコスト面の優位性は、企業様から案件を受注する上で非常に有利に働いています。
ーー社内体制の構築において、AI導入を積極的に推進する最大の目的は何ですか。
伊東康夫:
利益を確保しつつ、組織を効率化するためです。私自身が先頭に立ち、AIの導入を進めていて、過去の膨大な現場資料をAIに読み込ませて新たな研修資料を作成しています。また、材料の発注データを原価と連動させ、すぐに金額がわかるような仕組みも構築しました。会社を拡大する過程で管理部門の人員をやみくもに増やすと、経費がかさんで利益が残りません。人を解雇するためではなく、AIを活用して業務を効率化し、その分の資源を新事業や現場に注げるようなスリムで強い組織を目指しています。
3〜5年後の目標と次世代に求める「感謝と愛嬌」
ーー3〜5年後を見据えた、中長期的な目標についてお聞かせください。
伊東康夫:
まずは売上高20~30億円を目指し、長期的には50億円規模の会社へと成長させることです。そのためにも、現場の安全・品質管理や組織の体制をより強固に整えていきます。人材確保については、海外の採用窓口を活用した結果、半年間で約180名の応募が集まり、北辰に入社したいという意欲的な外国籍のスタッフも増えています。いきなり急拡大に走るのではなく、彼らのような新しい力も借りながら、少しずつ盤石な体制を構築していく方針です。
ーー今後貴社を牽引するリーダーには、どのような資質を求めていますか。
伊東康夫:
学歴や技術よりも、「感謝」と「愛嬌」を持っていることですね。何事にも感謝できる心と、周囲から愛される愛嬌があれば、どんな仕事でも必ず成し遂げられると信じています。そうした誠実な心を持つ方とともに、弊社の次なるステージをつくり上げていきたいですね。
編集後記
取材を通して最も印象的だったのは、常に現場の心に寄り添い、相手の立場を思いやる実直な姿勢である。言葉の端々から、職人や取引先との信頼関係を何よりも大切にしていることが伝わってきた。大胆な海外ネットワークの活用やAI導入による組織のスリム化に見られるように、経営トップとしてのシビアで合理的な視座も併せ持っている。人間味あふれる温かさと、新たな手法を柔軟に取り入れる革新性。この両輪を備えた同社の組織体制は、掲げる売上高目標の実現に向けた確かな土台となっており、今後の躍進ぶりにも期待がかかる。

伊東康夫/19歳で中国から来日。建築現場の職人として修業を積み、2012年に北辰建設株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。創業当初は小規模工事からスタートしたが、徹底した品質・安全管理でお客様の信頼を積み重ね、現在は株式会社長谷工コーポレーションや三井住友建設株式会社をはじめとする大手ゼネコン案件にも携わる。現場の気持ちを理解し、会社と仲間がともに成長できる環境づくりに注力している。