
株式会社スヴェンソンの代表取締役社長CEO、児玉義則氏。大手自動車メーカーの実業団卓球部というトップアスリートのキャリアから一転、ビジネスの世界へ身を投じた。配属された環境で商売の原点に触れた同氏は、かつての業界の一部にみられた慣習に疑問を抱き、独自の道を切り拓いていく。「お客様第一」を愚直に貫き、ウィッグを軸に、髪や外見の悩みに寄り添うトータルビューティーを提供する同社の歩みと、リアルな店舗体験にこだわる理由に迫った。
卓球漬けの日々から一転 「仕事に全力を注ぎたい」という強い野心
ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせください。
児玉義則:
大学3年生の終わりに声をかけていただき、実業団の卓球選手として日産自動車へ入社しました。入社後は人事部に配属されましたが、当時は午前中に仕事をして、午後からはそのまま練習する毎日を過ごしていました。そのため、仕事をする時間は他の社員よりも限られ、お手伝いのような業務しか任せてもらえませんでした。
しかし、学生時代から「仕事で大きな成果を出して、絶対に良い生活がしたい」と若気の至りとも言える強い野心を燃やしていた私にとって、それは非常にもどかしい環境でした。そのため、周囲からは大変驚かれましたが、未練を残すことなく入社から1年9カ月で卓球選手としての活動は辞めて、仕事に全力を注ぐ決断を下しました。「遅れた時間を取り戻してやる」とワクワクしていましたし、その後のバブル崩壊によって会社や働く環境が大きく変わっていっても、働くこと自体がただ楽しくて仕方がありませんでしたね。
ーーそこから、どのような経緯で貴社へ入社されましたか。
児玉義則:
創業者である父からの強い要請があったことがきっかけです。当初は何度か断ったものの、最終的には折れる形となり、区切りの良い1994年4月にスヴェンソンへ入社することになりました。当時の従業員は50名ほどで、前職とは異なりトップダウンで全てが決まる体制でした。そのため、会社を大きくするためには組織としての仕組みづくりが必要不可欠だと痛感したのを覚えています。しかし、入社後すぐに組織改革は着手せず、まずは現場を知るために上野の店舗へ配属されました。
前職の人事部ではお客様と直接接する機会がなかったため、ここでの接客経験が私の商売の考え方の原点となりました。初めてアドバイザー業務に就き、マネージャーにお客様への対応方法などを教わりながら必死に働いた日々を今でも覚えています。遠方からわざわざ足を運んでくださるお客様から温かいお心遣いをいただくなど、人と人とのつながりの深さを実感し、「この方々が大切なお金を払ってくださるからこそ、自分たちはお給料をいただけているのだ」と、ビジネスの本質を身に染みて理解しました。
現場で学んだ商売の原点と当時の業界とは一線を画す存在として
ーーその気づきが、現在の「お客様第一」のサービスにどのように繋がったのですか。
児玉義則:
当時のウィッグ業界は、横の繋がりがなく、当たり前ですが独自のルールで商売をしていた時代です。現在は日本毛髪工業協同組合という団体が設立され、統一したルール化がなされ、弊社も含め、加盟企業におけるクレーム等は改善されましたが、それ以前は、お越しになるお客様の話を聞いて、業界内でのサービス提供の違いを実感させられたこともありました。
だからこそ、たとえば「お客様の意思を大切にしながら販売をする」といったようなルールをつくり、実践してきました。そのような宣言をプリントアウトしてラミネートし、初めてのお客様には必ず目を通していただけるよう、すべての店舗のお客様を迎え入れる部屋のテーブルの上に設置しました。これは一つの事例ではありますが、このような取り組みから、創業以来、お客様に安心してサービスをご利用いただくことを大切にする文化がさらに徹底され、今もスヴェンソンの最大の強みとして根底に根付いてきたように思います。それでも弊社もまだまだ決して完璧ではありません。だから、これからもお客様の声に真摯に耳を傾けていかなければなりません。
ーーリアルな店舗での体験に、強くこだわる理由は何ですか。
児玉義則:
何よりも「店舗で実際に試して、驚きと喜びを体験していただきたい」という強い思いがあるからです。現在はECも強化していますが、ウィッグは実際に着用して初めて本当の魅力が伝わります。店舗には多様なスタイルや長さの商品が揃っており、ご試着いただくと髪型一つで印象が劇的に変わるのです。
特に女性のファッション目的で来店されたお客様などは、鏡に映るご自身の姿を見て「すごい!」「似合う!」と歓声をあげられることも珍しくありません。ただ髪の悩みを解決するだけでなく、そうした感動やポジティブなエネルギーが生まれる瞬間を、リアルな空間で直接手渡したいと考えています。
髪の悩みからトータルビューティーへ 心に寄り添う総合美容の展望

ーーお客様に寄り添うために、商品の提供以外にはどのような取り組みをされていますか。
児玉義則:
弊社では女性向けの医療用ウィッグなども展開していますが、店舗において、がん治療中の患者様やそのご家族が悩みを共有できるコミュニティイベントを定期的に開催しています。特に医療用ウィッグを必要とされる方は、精神的にも大きなダメージを負われる方もいらっしゃいます。そのため、お店に医療従事者の先生をお招きし、質疑応答をしたり、同じ境遇の仲間と苦労を分かち合ったりする場を設けているのです。
実際に参加された方からは「思い切って来てよかった、明日からまた頑張れます」という声をいただいており、深く寄り添うことの大切さを実感しています。また、髪だけでなく、脱毛に伴う眉毛のケア化粧品や、爪の悩みのためのネイルケア商品など、お悩みに応じて幅広く提案できる体制を整えています。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか。
児玉義則:
今後はウィッグやヘアケアの領域にとどまらず、お客様の「トータルビューティー」を支える存在へ進化していきたいと考えています。すでに男性向けの一部店舗ではヒゲ脱毛のサービスを導入しているほか、ヘッドスパの専門ブランドと共同出店する試みも始めています。日頃ウィッグをご利用のお客様が、ウィッグのことを気にすることなく本格的なヘッドスパを楽しめるよう、施術前にウィッグを一度外してお預かりし、施術後は再び美しく整えてお返しする当社ならではの新しい試みです。髪を整えるだけでなく、心身共にリフレッシュし、晴れやかな気持ちでお帰りいただくという、これまでにない美容体験を提供しています。これからも男女問わず、お客様が抱える悩みをトータルでサポートし、人生をより明るく輝かせるお手伝いを続けてまいります。
編集後記
「一生懸命仕事をして、良いリターンを得たい」。20代の純粋で力強い野心を原動力にビジネスの世界へ飛び込んだ児玉氏。店舗での心温まるエピソードを語るその表情からは、顧客への深い感謝と愛情がにじみ出ていた。お客様の声に真摯に耳を傾ける中で、安心と信頼を築き上げてきたスヴェンソンの歴史。まさに「お客様第一」の体現にほかならない。デジタル全盛の時代にあえてリアルな店舗体験にこだわり、顧客が歓声を上げて喜ぶ瞬間を創出し続ける同社の姿勢。あらゆるビジネスにおける本質的な価値を私たちに教えてくれる。

児玉義則/1967年、東京都生まれ。明治大学を卒業後、日産自動車株式会社に入社。1994年に株式会社スヴェンソンへ入社し、2015年10月に代表取締役社長に就任。現在は同社代表取締役社長CEOとして、スヴェンソングループの経営を担い、ヘアケア事業をはじめとする各事業の成長および企業価値の向上に取り組む。